64・竜の子2
「フォウ、この子が竜なのか?」
「そうですね。竜だと感じました。人の形態をとれるようですね」
一生懸命に肉に齧りつく、銀髪少女に尋ねる。
「お前、名前はあるのか?」
口に頬張った肉を嚥下しながら、俺を見て少女は答える。
「ウチ? ウチはルルだよ」
「そうか、俺はアランだ。で、こっちがフォウで、こっちがニナ。あっちでぷるぷるしているのがサーラだ」
サーラは何故か杖を握りしめて、ぷるぷるしていた。
「あ……あの……杖が……反応して……」
杖が勝手に動き出したらしい。
振動している杖を抱えているものだから、サーラがぷるぷるしているように見える。
ルルがサーラの方を向くと、目を見開いて叫んだ。
「あーーーっ」
ボンと途端に竜に変わった。いきなり五メートル程の体長になったものだから、テーブルと椅子を弾き飛ばしていた。
その姿は小柄ながらも銀色に輝く立派な竜だ。
俺は初めて竜というものをこの目で見た。
「おじいちゃん!」
竜になったルルはそう叫ぶと、サーラに向かって突進していった。
「きゃあ!」
サーラが襲われたように見えたが、ルルはサーラにしがみ付いて泣いている。
「おじいちゃーん」
「え……えと……えと……」
サーラはなんとか杖を死守したいようだが、ルルも無理やりしがみ付いている。
竜がサーラをその翼で抱き抱えている状態だ。
「どういう事だ?」
「ウチのおじいちゃんだよこれ」
「よく分からん。とりあえずサーラが困っているから人の形になってくれ」
ボフンと一瞬で人型になると、ルルはサーラの杖の魔石部分を指さす。
「これ、ウチのおじいちゃん」
「この魔石が?」
杖の先端には、大きく真っ赤な魔石が輝いていた。
「この状況、誰か説明してくれ」
俺はサーラのお婆様の話と、フォウの知識による解説と、ルルの話を順番に聞いた。
それによるとこの魔石は大昔の大竜のもので、古竜という竜種の成れの果てという事だ。
竜は滅ぶと、その身を結晶化させて魔力を石に封じ込めるのだ。
その古竜自体は既に、この世界に存在しないものとされていた。
このルルという子は、その子孫だという。
サーラも相当貴重な杖を持っていたのだと、初めて知った。
「だとしたらお前、唯一の生き残りじゃないか」
「ウチの種類の竜はたぶんもう誰もいないんよ。両親は魔王に殺されたし。そこのおじいちゃんは賢者にやられたって聞いた。ウチは竜の里に預けられてたんだけど……ウチね、飛べないんよ。生まれつき。でね、飛べない竜は竜じゃないっていじめられててね。毛色も違うしウチの居場所はなかったし。百年くらい我慢してたけど、ウチの扱いは変わらなかった……でね、里を抜けてきたんよ」
そこまで聞いた俺は号泣していた。
「うおおぉぉぉぉ! お、お前……く、苦労したんだなぁぁぁうううううお、お、俺にはわかるぞぉぉぉぉぉうううぅぅぅ……う、生まれつき飛べないって……生まれつき魔力の無いお、お、俺と一緒じゃないかあああぁぁぁうううう……ひっく、ううぅぅぅた、た、たった一人で……さびしい思いを……してきたんだなぁぁ……分かるぞぉぉぉうううう……俺には分かるんだよぉぉぉううう……し、し、しかも……ひゃ、ひゃ、百年もだと! おおぉぉうううぅぅ……そ、そんなに我慢したのかぁぁぁひっく……か、可哀想になぁぁぁうううう……おーんおんおん」
俺は全裸の竜の子を抱きしめて、ひとしきり泣いた。
「アラン……またですか」
フォウの呟きは、号泣している俺には聞こえなかった。




