63・竜の子1
トルネ山とやらは、王都から馬車で五日も掛かった。
「結構遠かったな」
この場合シャランの依頼はどうなるのだろう。
魔族がまた来るかも知れないからまだ居てくれと言われていたのに、すぐに王都を離れてしまった事になる。
しかもサジリアも絡んでいるのだが、……まあ、そのギルマスのサジリアのお勧めの依頼でもあるのだから問題はないだろう。
さて竜は何処に居るのかな。
「フォウ、何か感じないか?」
「いまのところは何も反応はないです。少し登ってみましょう」
麓に馬車を停めて、フォウの結界で守っておく。ここからは徒歩だ。
一応登山道らしき道もある。この山で何か採掘される物でもあるのだろうか。
時折、兎などの小動物も見かけるが、魔物などはまだ見当たらない。
「おなかへったなの」
ニナの腹時計がお昼を告げていた。
いや、こいつの腹時計は昼時に限らず、いつだって気まぐれにその時間を告げるのだが……。
「たいして登ってもいないが、昼飯にしようか」
「はいなの!」
まだ停めた馬車が見えるくらいの距離しか登っていないが、のんびり行こう。
少し広めの場所を見つけて、フォウにテーブルやら椅子やらを出してもらい準備する。
「なんでもいい、保存してある肉を出してくれ」
「はい。こちらでいいですか?」
フォウが袖口に手を突っ込むと、ニュルニュルと曲線を描きながら何かの塊が出てきた。
肉と言ったのに、猪がまるまる一頭だ。肉と言えば肉だが今から捌けと?
かなりの重量級だが、フォウはそれを片手で持っている
「面倒だ。丸焼きにしてしまえ」
「はい」
どういう加減なのかフォウの左の掌から放出される炎は、猪の皮だけを最初に燃やし尽くした。
そうやって皮を剥いだ後、猪の本体を右手で持ち上げたまま、左の掌を向けて右手ごと強火で炙っている……シュールだ。
もちろん炙られている右手は、魔法で防護されている。
ニナが、ふいにある方角へと視線を向けた。
「何か来たなの」
「竜ですね」
「え? もう出たの? どこだ?」
ニナが指をさす。
そこには、木の影からこちらを窺う、銀髪の少女がいた。――全裸だ。
「あれが竜?」
竜と言われたがその姿を見ても、危機感は感じられない。普通の少女にしか見えないのだ。……全裸だが。
じいっと丸焼けの猪を見ているようだ。
食いたいのかな。
俺はいい感じに焼けた猪の肉をナイフで切り分け、そのまま刺して少女に向けてみた。
「食うか?」
少女は少し逡巡したが、うんうんと頷きこちらにやって来た。言葉は通じるようだ。
肉を渡してやると勢いよく食べだした。
なかなか可愛いぞこいつ。
ニナと同じくらいの背丈で、銀髪もニナと同じくらいに長く、腰まである。
全裸なのに恥ずかしげもなく、それが当たり前のようにしていた。
「おいしい!」
裸なので野生かとも思ったが、しっかり言葉も話せるらしい。
「そうか、もっと食え」
「ニナも食べるなの!」
既に焼きあがった猪の肉の塊は、テーブルの上に鎮座している。
ニナは直接、猪の本体に齧りついた。
それを見た銀髪少女も真似をして、反対側に齧り付き始めた。……なかなか凄い絵面だ。
俺も食うとしよう。
何故か全裸の少女を交えた食事会になっていた。




