43・金貨10枚のお仕事
俺が叫んだとほぼ同時に、巨人が倒れた。
え? 終わり? 終了?
報酬の話が決まった後で良かったと、胸を撫で下ろす。
「俺が出るまでもなかったな」
「さすがはAランクパーティー! 瞬殺でしたか!」
フォグナーも賞賛する。金貨十枚ゲットだ。隣でサーラも目を輝かせて天使どもを見ている。
これでこの先も安全だという事が分かってくれただろう。そんな使えない杖を抱えて怯える事もないんだぞ。
天使の二人はすぐに戻ってきた。
「おつかれさん。簡単なお仕事だったな。そういえばあの巨人の種別は何だったんだ?」
「簡単……アランがそれを言いますか。……あれは確か、『スィクロプ』だったかと思いますけど」
「ニナなにもしてないなの」
「フォウ様……素敵……です」
あの巨人はスィクロプだったか。大物だ、討伐記録を取っておこう。
倒された巨人の元へ駆けより、ギルドカードの裏面を当てる。
カードが発光し、記録完了だ。
そこへ村人が一人、飛ぶようにしてやってきた。おそらく村長だろう。
「ありがとうございました! この村も救われました! 申し遅れましたが村の長を務めさせてもらっていますダリルと申します」
恰幅のいい好々爺とした爺さんだ。
「ふっ。冒険者として当然の事をしたまでだ。気にするな」
「報酬の事も御座いますので是非、拙宅までお越しいただきたく存じます」
「そうかそうか。ではお邪魔するとしようかな。行くぞ我が僕どもよ」
あいかわらずフォウが、冷たい視線を送っているようだが気にしない。
村長の家はそこそこ立派な建物だった。他の家並みも見れば特に貧しさも感じられず、清潔そうな雰囲気だ。
王都にほど近い村という事もあるからだろうか。これまで寄ってきた村よりは裕福そうに見えた。
無事金貨十枚を受け取った。フォウの瞬殺で何の苦労もしていないし、俺自身何もしてないのだが、遠慮なく受け取る。
巨人の処理は村に丸投げし、ご馳走を用意すると言う村長にもそれは遠慮しておいた。――金貨だけで充分だ。
とはいえお茶だけはご馳走になっていると、村長のダリルが王都の話題を振ってきた。
「アラン様は勇者様をごらんになった事がおありですか? 実は今王都に勇者様がご滞在されているそうですよ」
「勇者……だと」
洞窟の神様に聞いた話を思い出してしまった。俺の唯一の希望を摘み取ったやつだ。
「見た事は……ない。どんなやつだ?」
「勇者ローランド様はそれはもう、勇者の中の勇者ですとも。あの魔王さえ倒してしまわれて、すでに生ける伝説となっております」
逆恨みと言えばその通りだが、俺の中では勇者は許せないやつとなっている。
もちろん勇者からしたら、正義を貫いたに過ぎないのだろうが。
「そうか、それは凄いな」
適当に話を合わせて、暇を告げた。何となく気分が重い。
「それではまた、近くまで来た時にはお立ち寄りください。Aランクの方々」
その言葉を背に、村長の家を後にした。
馬車に戻るとすぐにフォウに頼んで、新しく温泉を出してらう。
熱々の温泉に浸かり、疲れを癒す。――疲れていないけど。
それを見たニナもまた、裸になって入ってきた。さっきはゆっくり出来なかったみたいだしな。
フォウとサーラはもういいらしく、馬車に戻って行く。
ニナは背中を向けて、胡坐をかいた俺に抱っこされている。
いろいろと接触しているが、少女趣味のない俺は気にしない。当のニナも気にしていない。
「ニナ、風呂から上がったら肉でも食おうな。フォウのポケットに大猪の肉がまだあるはずだからな」
「はいなの! にくなのー」
巨人襲来の騒ぎがあったとは思えないほど、平和な一時だった。
勇者の事はひとまず忘れよう。俺にはどうにも出来なかった話だ。
しかしウルフの変異体といい、ひとつ目といい、誰かが引き寄せているように思えてならなかったが、身体に染み渡る温泉の心地よさに、そんな不安もしだいに薄れていき、そのうち忘れてしまった。




