第12話:「俺たちのバグは、世界(地上波)じゃ収まりきらない」
いつも『フラワーボーイズ』を応援していただき、本当にありがとうございます!
WEBの片隅から始まった俺たちの物語も、ついにこの第12話で最終回を迎えることになりました。
地上波アニメ化という最高のお祭りの裏で、しょうた、かずと、たける、たくみの4人が最後に選ぶ「俺たちのエンタメ」とは――。
彼らが起こす前代未聞の最大級のバグ、ぜひ最後まで見届けてください!
それでは、最終話……レンダリング開始です!
「――それではお呼びしましょう! 地上波アニメ化決定、WEB発の超新星『フラワーボーイズ』のクリエイター陣と、主演の神楽坂響さんです!」
割れんばかりの拍手と歓声が、都内ホールのステージに響き渡る。
きらびやかな照明の向こうには、客席を埋め尽くす超満員の観客。その中央に立つのは、少女漫画から飛び出してきたかのような超人気声優、神楽坂響。
商用イベントとしての熱気が最高潮に達する中、その横で借りてきた猫のようにガチガチに緊張しているのが、俺――しょうた、かずとさん、たける、たくみの4人だった。
「初めまして、神楽坂響です。【オレ】役として、皆さんの期待を超える極上のイケボをお届けします」
神楽坂がマイクを通して微笑んだ瞬間、会場の女子たちが黄色い悲鳴をあげてバタバタと気絶していく。
隣でその声を聴いた俺は、圧倒された。……勝てねえ。声のツヤ、響き、プロのオーラ。これが本物のイケメンボイス。知名度ゼロの一般WEBライターである俺の声帯が、ガヤへデバフ(弱体化)されたのも納得のクオリティだった。
「フッ、圧倒的な格差だな、しょうたさん」
たけるがステージ上で堂々と腹話術のように口を動かさず、冷徹なメタ発言を耳元に届けてくる。
「戦闘力にしてお前が5、神楽坂氏が53万。プロのマーケティングの観点から見れば、彼に主役を譲ったのは100%正しい戦略だ」
俺は何も言い返せず、ただ拳を握りしめることしかできなかった。
「ではここで、来月から放送されるアニメ版の【先行第1話映像】を世界初公開いたします! スクリーンに注目!」
会場の照明が落ち、巨大スクリーンにアニメ映像が映し出された。
最新の技術で描かれた、滑らかに動くキャラクターたち。神楽坂響の極上のイケボと、プロの音響効果。非の打ち所がない、完璧に洗練された「100点満点のアニメ」がそこには流れていた。
会場からは「すごい!」「めちゃくちゃ綺麗!」と、大絶賛の拍手が湧き起こる。
上映は大成功。大人の事情をクリアし、テレビというシステムが正しく出力した、最高の結果だった。
――なのに。
客席が盛り上がる中、俺たちの席だけは、奇妙なほど静まり返っていた。
「……綺麗、ですね」
たくみがぽつりと呟いた。その声には、いつものシュールなトーンではなく、どこか寂しそうな響きがあった。
「あぁ。めちゃくちゃ格好いいな」
かずとさんも腕を組んだまま、画面をじっと見つめている。いつもの熱血ボイスで騒ぎ立てる気配は微塵もない。
俺は胸の奥がチリチリと焼けるような違和感を抱えていた。
画面の中で動いている【オレ】は、信じられないくらい格好いい。でも、どこか他人事のように見える。あの居酒屋の片隅で、4人で頭を突き合わせて「誰のセリフか分からねえよ!」と笑い転げながら作っていた、泥臭くてバカバカしい「俺たちのフラワーボーイズ」の匂いが、その完璧な映像からは1ミリもしてこなかったのだ。
「……たける。お前の計算だと、このアニメはどうなる?」
俺はステージの袖を睨みながら、隣のたけるに小声で尋ねた。
たけるはノートPCの画面を見つめたまま、いつもより少しだけトーンを落として言った。
「データ上の予測では、間違いなくヒットする。深夜枠としては異例の再生数を叩き出すだろう。……ただし、そこにあるのは『神楽坂響主演の洗練されたアニメ』だ。WEBの片隅でシステムをバグらせていた、私たちの不条理な熱量は……そこには1セクターも存在しない」
やっぱり、そうだよな。
大人の事情のシステムは、俺たちのような「ノイズ」を綺麗に排除して、誰もが喜ぶ安全なコンテンツにパッケージングしたんだ。
「神楽坂さん」
上映が終わり、照明が戻ったステージの上で、俺はマイクを強く握りしめてトップ声優を振り返った。
「ん? どうしたんだい、しょうたさん」神楽坂が爽やかな笑顔を向ける。
「あんたの演技も、あの映像も、本当に完璧で最高でした。……でも、ごめんなさい」
俺は客席に向かって、そしてスピーカーの向こうにいるはずの謎のクリエイター「T×3」に向かって、真っ直ぐに言い放った。
「俺たち、やっぱりテレビの優等生になるの、やめます!」
会場が、一瞬でシーンと静まり返る。
「おい、しょうたさん、公衆の面前でなんという非論理的なエラーを起こしている」
たけるが眼鏡をクイと押し上げる。でも、その口元はなぜか、かすかに吊り上がっていた。
「いいぜしょうた! 言ってやったな!」かずとさんがステージの床をガツンと踏み鳴らす。
「シュールですね……違約金とかどうなるんでしょう」たくみがぼそっと呟きながらも、どこかスッキリした顔で俺の横に並んだ。
俺はスマホを掲げ、大画面を見上げて笑った。
「あんな綺麗にまとまった世界じゃ、俺たちのエンタメ脳が腐っちまう! 泥臭くて、バグまみれで、自分たちの手で1からレンダリングするからこそ、俺たちの動画なんだよ! T×3、アニメ化の話は白紙に戻してくれ! 俺たちは俺たちのやり方で、WEBの片隅から世界をバグらせにいってやる!」
その瞬間、ざわついていた客席から、驚きと、そしてどこかワクワクしたような歓声がポツポツと上がり始めた。スマホのタイムラインには「何が起きてる?」「リアルイベントでアニメ化辞退!?」「ロックすぎるだろフラワーボーイズ」と、前代未聞のWEBの暴力(大バズり)が吹き荒れていく。
神楽坂響は驚いたように目を見開いた後、ふっと楽しそうに肩をすくめた。
「プロの僕には理解できない破滅的な選択だけど……クリエイターとしては、最高に格好いいよ、君たち」
――数日後。いつもの居酒屋の片隅。
ジョッキがぶつかり合う、小気味いい音が響く。
「……で、たける。現実的な話をしよう。損害賠償、いくらになった?」
俺は生ビールの泡を喉に流し込みながら、恐る恐るたけるの顔色をうかがった。
たけるはいつも通りノートPCを開き、画面に表示された契約書と請求書のデータを無感情な瞳で見つめていた。
「テレビ局、制作会社、スポンサーへの補償。イベントの違約金、並びに各種アライアンスの解除ペナルティ。……結論から言う。論理的に計算した結果、我がチームの今後3年間の動画広告収益、及びグッズ売上は、すべてT×3への返済に差し押さえられることが確定した」
「3年間、全額差し押さえ……?!」
俺の絶叫が居酒屋に響き渡る。
「完全な経済的破綻だな、しょうたさん。私たちがこれからいくら動画をバズらせようとも、私たちの口座に入る収益は、向こう3年間『0円』だ」
「マジかよ……」とかずとさんが頭を抱える。
「シュールですね……しばらく主食はもやし、おかずは空気吸うだけになりそうです」とたくみがため息をついた。
大人の事情を蹴るということは、こういうことだ。綺麗ごとだけでは済まない、これが現実の、リアルな社会の壁。
「でもさ……」
俺は空になったジョッキを机にガツンと置いた。
「金は1円も手に入らねえけど……俺たちの『フラワーボーイズ』は、誰にも奪われずに、100%俺たちの手元に残ったんだぜ?」
その言葉に、3人が一瞬、顔を上げた。
「フッ、非論理的な強がりだな」
たけるが眼鏡をクイと押し上げる。「だが……他人に書き換えられた完璧なデータより、バグまみれのオリジナルデータを好むお前のそのバカさ加減。……私の演算回路も、嫌いではない」
「おうよ! 借金3年分だろ? WEBの暴力(再生数)で、速攻で埋め立ててやろうじゃねえか!」かずとさんが再びジョッキを掲げて吠えた。
「じゃあ、明日から毎日投稿ですかね。ブラック企業よりシュールな生活になりそうだ」たくみがぼそっと毒を吐きながら、嬉しそうにグラスを合わせた。
テレビのきらびやかな照明を捨てて、莫大な違約金を背負い込んで。
俺たちはまた、いつもの居酒屋から、1円にもならない世界をバグらせにいく。
「フラワーボーイズ」の明日は、どっちだ!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
テレビの華やかな世界を蹴って、莫大な借金を背負いながらも「自分たちのオリジナル」を選んだ4人。
明日からはもやし生活で毎日投稿という、ある意味これまでで一番過酷な戦いが始まりますが、彼らの表情はきっと最高に輝いているはずです。
全12話、ここまでしょうたたちと一緒に走り抜けてくださった読者の皆様には、感謝の言葉しかありません。皆様のアクセスやコメントという名の「WEBの暴力(最高の応援)」があったからこそ、この物語を最後まで描き切ることができました。
お金は1円も手に入らなかった彼らですが、皆様と作った『フラワーボーイズ』は、100%俺たちの手元に残りました!
またいつか、世界をバグらせる彼らの新作動画(あるいはもやし生活の近況報告)でお会いしましょう!
本当に、本当にありがとうございました!!




