初恋の続き ②
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私は到着して直ぐ、ラル様とエレナ様を訪ねた。
「あらあら、まあまあ。私のかわいい天使が二人」
「エレナ様!」
私は、エレナ様が横になるベッドに駆け寄る。
「まあまあ、アリア。立派な淑女が走ってはダメよ」
エレナ様は、相変わらず、アルバ侯爵家領の別棟で過ごされているが、最近は足が弱くなり、ベッドの上で過ごされることが多いそうだ。
「綺麗になったわね」
エレナ様はゆっくりと体を起こして、私を優しく抱きしめる。
懐かしくて暖かい、エレナ様の匂い。
「そして、アルバ侯爵家の一員となることを歓迎するわ」
私は湧き上がる喜びで、胸がいっぱいになる。
しばらくエレナ様と抱き合っていると、後ろで不満そうな声がした。
「おばあ様、アリアは私の妻なので、返していただいてもいいですか?」
「ふふふ。まあ、ランドルフは私にも嫉妬するの?」
エレナ様の言葉に、ラル様の顔がみるみる赤くなる。
「大奥様、テラスにお茶の準備ができましたが、こちらにお持ちした方が良いですか?」
侍女の声に、エレナ様は、ベッドサイドに足を下ろす。
「今日は気分がいいから、テラスにしましょうかね」
私達は、裏庭の見えるテラスで、お茶を飲みながら、いろんな話をした。
私の新しい私の家族のことや、リアム殿下のこと、私が居なくなってからのラル様のことなどなど。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、本邸からの迎えが到着した。
「それではおばあ様、また来ますね」
私は去り際に、エレナ様にハンカチを差し出す。
「エレナ様、教えていただいた刺繍、上達したんですよ私の力作です」
ハンカチには、アルバ侯爵家の家紋とエレナ様の健康と長寿を願ったリンドウの花。
私としては、かなり凝ったデザインにして丁寧に縫い上げた。
「へ~。見事な刺繍だな、俺にくれたハンカチより何倍も手が込んでる」
私が差し出したハンカチを、ラル様が覗き込んで、感心した様子でため息をつく。
エレナ様は、ハンカチを受け取り、大事そうに刺繍を撫でる。
「これは、私に学ぶことの楽しさを教えてくれた、エレナ様へのお返しになればと、何年もかけて刺繍していたものです。こんなものでは、エレナ様が私に下さったご厚意を、お返しするには足りませんが…………。これからはアルバ侯爵家の一員として、エレナ様が大事にしてきたものを守り、少しづつ恩返しができればと思っています」
「アリア」
エレナ様は、ポロリと涙を零され、私の手を握る。
「私のひ孫となった大事な天使に、まだまだ教えたいことがあるのだけれど、こんなおばあさんが先生でもいいかしら」
「もちろんです。これからも沢山いろんなことを教えて下さい」
エレナ様と見つめ合う私を、ラル様が後ろから抱きしめる。
「今度こそ、俺もずっと一緒に教えてやる」
「まあまあ。またザリガニ取り?」
エレナ様が、ラル様をからかって笑った。
✿ ✿ ✿
私達は、エレナ様のお屋敷を後にして、本邸に戻ると玄関で大柄な騎士様が待っていた。
「お久しぶりでございます、アリア嬢」
「まあ。カイセル様、お久しぶりでございます」
カイセル様は、ラル様の護衛としてではあるが、幼少こちらで過ごした一か月、私のことも暖かく見守ってくれていた騎士様だ。
「お美しい淑女になられましたね………ついあの頃のように、高く抱き上げてしまいたくなりますが、後ろの坊ちゃんに、食い殺されそうなのでやめておきます」
振り返ると、ラル様が眼光鋭く、カイセル様を睨んでいる。
「ふふふ」
私はラル様の袖をぎゅっと握る。
私と眼が合い、破顔したラル様が、私を抱き上げた。
「きゃ」
「カイセル。アリアのことはもう俺が抱き上げられるから大丈夫だ、お前の手は借りない」
どや顔のラル様と、真っ赤な顔の私を見て、カイセル様が豪快に笑う。
「あははははは!承知しましたランドルフ坊ちゃん」
「坊ちゃんて呼ぶな!」
怒るラル様と、お姫様抱っこされたままの私に、カイセル様が礼を取る。
「是非、アリア様の護衛をと思っておりましたが、私はこの度、アルバ侯爵家騎士隊の隊長を任命していただき、直接の護衛は難しくなりました」
「まあ。昇進おめでとうございます。そしてカイセル様が、守りの指揮を執っていただけるのであれば、とても安心です」
「ありがとうございます。私はこれで王都のアルバ侯爵家に行かねばなりませんので、その前に是非おふたりの姿を見たくて、ここで待っておりました。婚姻までには、王都のアルバ侯爵家の守りを万全にしてお待ちしいております。 若奥様」
若奥様の言葉に、顔の赤みが一段増した私に、カイセル様は大きく手を振って、王都に向かわれた。
✿ ✿ ✿
それからラル様と私は、領地を管理しておられる、前アルバ侯爵夫妻に連れられて、領地のいろんな場所と人をめぐりご挨拶をした。
漸く本邸に戻ってきたころには、夕方になっていた。
「ふたりともお疲れ様、夕飯までは時間があるから、少し休んでね」
「ありがとうございます、おばあ様」
前侯爵夫妻が部屋を後にすると、ラル様が私の手を取る。
「アリア、少しだけ俺に時間をくれないか?」
「ふふ。どうしたのですラル様」
「一緒に行きたい場所があるんだ」
ラル様に手を引かれ外に出て、木々の間をどんどん進むと、小高い丘の上にお屋敷が見える。
「まあ。ラル様、あのお屋敷はもしかして」
「ああ。俺達が12年前に探検した屋敷だ、今も誰も住んでいないが、綺麗に管理はしている」
話しながら、屋敷の玄関ポーチにたどり着く。
「わあ。ラル様、懐かしいですね~。ここでコウモリに驚いて、二人で尻餅をつきました」
笑顔でラル様を見上げると、紫色の真剣な瞳と眼があった。
「アリア」
ラル様は、繋いでいる手に、さらに自分の手を重ねる。
大きな手に包まれた私の手のひらに、何かがポトリと落とされた。
ラル様が手をひろげると、私の手のひらには、お揃いのシルバーリング。
大きなリングにはピンク色の石、小さなリングには紫の石が付いている。
手の平から目を移し、ラル様を見上げる。
ラル様はもう一度両手で、私の手を握った。
「アリア、俺と結婚してください。あの時はちゃんと指輪も無かったし、俺はここから、この場所からアリアと未来への一歩を踏み出したいんだ」
私の頭の中で、あの日の出来事が駆け巡る。
ラル様の大きな手に、自分の手を重ねる。
「はい。謹んでお受けいたします」
私は、ラル様にすっぽりと包まれた。
しばらく抱きしめ合ってから、指輪をお互いにつける。
少しの間、ラル様と手をつなぎ、夕日が沈んでいくのを眺めた。
「あの時、俺はアリアを守れる、強い男になると決めたんだ、剣術はもちろん勉強もマナーもアリアに誇れるように」
私は、にっこり笑ってラル様を見上げる。
「頼りにしてます」
言い終わる前に、ラル様の唇が私の額に触れる。
!!! 私はびっくりして固まり、顔は火が出そうに熱い。
「母君に教えてもらったんだ、愛情があふれそうになったら、ライド侯爵家ではおでこにキスするのだと」
もー。お母様ったら。
「婚姻まで、それ以外のキスは禁止された…………。さあ!アリア家に帰ろう」
ラル様のはにかんだ笑顔…………ずるい。
「はい。帰りましょ」
私は背伸びして、ラル様の頬にキスをする。
「私は、禁止されてませんから♪」
夕日のせいか、真っ赤な顔のラル様と一緒に、私は玄関ポーチを、一歩踏み出した。
~ 終わり ~
ランドルフは、アリアにしかラルと呼ばせまん。
(´艸`*)




