第九十四話「言葉の重さと、フリードリヒの『優しい手のひら』」
その日の午後、第二王子フリードリヒは、剣術の訓練中に、自分の「言葉の力」について深く悩んでいた。彼は、騎士団の後輩に指導する際、励まそうとした言葉が、かえって後輩を深く傷つけてしまったのだ。
「俺の言葉は、なぜ、剣のように鋭く、人を傷つけるのだろう……。俺は、優しく伝えたいのに」
フリードリヒは、自分の持つ「強さ」が、言葉では裏目に出ることに、深い無力感を覚えていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、兄の隣に座った。
「ねえ、フリードリヒ兄様。言葉はね、重たいのよ」
「重たい?」
シャルロッテは、土属性魔法を応用し、兄の手のひらに、ごく微細な、「言葉の重さ」を実際に感じさせた。フリードリヒは、手のひらに、言葉一つ一つが持つ、責任と力の、物理的な重みを感じ、驚いた。
「ね、兄様。だからね、言葉は、優しく、そっと、手のひらに乗せてあげるように、使わなきゃだめなの」
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シャルロッテは、フリードリヒの教育法を、根本から変えることを提案した。
彼女は、フリードリヒの指導を受ける後輩騎士、エミールを訓練場に招いた。
「エミールお兄様。今日はね、一緒に『言葉を使わない訓練』をするよ!」
シャルロッテは、フリードリヒに、「言葉ではなく、手のひらで、完璧な剣の動きを伝える」ように指導した。
フリードリヒは、最初は戸惑ったが、シャルロッテの助言に従い、剣の型を教える際、口を閉ざし、自分の手のひらを、後輩の騎士の背中や腕に、優しく触れさせた。
そして、シャルロッテは、光属性の共感魔法を、兄の手のひらに込めた。
「ね、兄様。この魔法はね、兄様の『優しさの気持ち』だけを、エミール兄様に伝えるよ!」
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フリードリヒの温かい、しかし力強い手のひらの感触は、後輩騎士エミールに、言葉よりも雄弁な、正確で、そして心からの指導を伝えた。エミールは、兄の「言葉の刃」に傷つけられることなく、兄の純粋な「愛の献身」だけを受け取り、剣の型を完璧に理解した。
「殿下……私には、言葉よりも、殿下の優しさが、はっきりと伝わってきました!」と、エミールは感激した。
フリードリヒは、自分の「言葉の力」ではなく、「手のひらから伝わる、愛と献身の力」が、真の指導力であることを悟った。
「シャル。君は、私に、愛と献身という、言葉を超えた、真の教育を教えてくれた」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、重たい言葉より、温かい手のひらの方が、ずっと可愛いもの!」
シャルロッテの純粋な愛と献身は、兄に、言葉の壁を超えた、真の教育の価値をもたらしたのだった。




