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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第四百八十六話「ハリボテの薔薇園と、姫殿下の『裏側の秘密基地』」

 その日の午後、エルデンベルク王城は、隣の大国「鉄機帝国」からの視察団を迎えるため、ピリピリとした緊張感に包まれていた。

 帝国の視察官は、「規律と秩序」を絶対視する冷徹な男として知られており、王城の少しでも乱雑な部分を見れば、外交評価に傷がつくと恐れられていたのだ。


 王城の式典局長であるサイラス男爵は、焦っていた。

 王城の裏庭には、冬越しのための藁の山や、修理中の農具、そして庭師たちが休憩に使う古びた小屋など、「生活感あふれる(つまり、美しくない)」ものが散乱していたからだ。片付ける時間はもうない。


「ええい、隠せ! すべてを『完璧な美』で覆い隠すのだ!」


 サイラスは、宮廷画家に命じて描かせた、巨大な「書き割りの板」を何枚も用意させた。

 そこには、雑草一本ない完璧な芝生や、満開の薔薇(季節外れだが)、そして整列して敬礼する兵士の絵が、写実的に描かれていた。


 彼は、その板を立てかけ、ボロ小屋や堆肥の山を隠してしまった。

 遠目に見れば、王城の裏庭は、一分の隙もない「理想郷」に見えた。


「ふふふ。これで完璧だ。視察官殿も、この美しい風景に感嘆するだろう」



 そこへ、シャルロッテがモフモフを抱いて通りかかった。

 彼女は、突然現れた「薄っぺらい薔薇園」を見て、首を傾げた。


「ねえ、サイラスおじさん。この薔薇さんたち、息をしてないよ? それに、裏側が木枠だらけで、なんだかお芝居のセットみたい」


 サイラスは、冷や汗をかきながら小声で言った。

「しっ! 姫殿下。これは『おもてなし』のための化粧でございます。裏側を見てはいけません。美しい表面だけが、国の品格なのです」


 シャルロッテは、納得がいかなかった。

 彼女の目には、書き割りの裏に隠された「ボロ小屋」から漂うコーヒーの香りや、「堆肥の山」から発せられる生命の湯気の方が、ずっと魅力的で、温かく見えたからだ。


「うーん。でも、裏側のほうが、面白そうな匂いがするのになあ」



 やがて、視察官の一行が到着した。

 軍服に身を包んだ視察官は、片眼鏡を光らせ、サイラスの案内で裏庭へとやってきた。


「ほう。エルデンベルクの庭園は、塵一つ落ちていないようですな。いささか、人工的すぎるきらいはありますが……」


 視察官は、書き割りの「完璧な薔薇」を怪しむように凝視した。

 サイラスの心臓が早鐘を打つ。


 その時。

 書き割りの裏側から、楽しげな声が聞こえてきた。


「モフモフ、見て! ミミズさんがダンスしてるよ!」


 シャルロッテだった。彼女は、いつの間にか書き割りの「裏側」に入り込んでいたのだ。

 さらに、ドタバタという音と共に、書き割りの一枚が大きく揺れた。モフモフが、板の支えに体を擦り付けてしまったのだ。


 バタン!


 巨大な「完璧な薔薇の絵」が、音を立てて前方に倒れた。


 その向こうから現れたのは、美しい花園――ではなく、積み上げられた腐葉土の山と、泥だらけの長靴、そして、土いじりをして顔を汚した、満面の笑みのシャルロッテだった。


「ああっ! 終わった……!」

 サイラスは顔を覆った。国の恥部が、視察官の前に晒されてしまったのだ。


 しかし、シャルロッテは、悪びれる様子もなく、手についた泥をパンパンと払いながら言った。


「ようこそ、おじ様! こっちはね、『本物の秘密基地』だよ! 絵の薔薇さんは匂いがしないけど、こっちの土はね、ふかふかで、命の匂いがするんだよ!」


 彼女は、腐葉土の中から、冬を越そうとしているカエルの寝床を指差した。


「見て! ここにはね、春を待ってる命がいっぱい隠れているの。綺麗に隠しちゃうと、この子たちが息苦しくなっちゃうでしょう?」


 視察官は、倒れた書き割りと、その奥にある「雑然とした、しかし豊かな現実」を交互に見た。

 そして、片眼鏡を外し、地面の土を手に取った。


「……なるほど。表面だけの美しさよりも、この肥沃な土と、泥にまみれて遊ぶ王女の姿こそが、この国の『本当の豊かさ』というわけですか」


 視察官の厳格な口元が、わずかに緩んだ。

 彼は、自国の「鉄と規律」の世界にはない、有機的な温かさに触れたのだ。


「サイラス殿。立派な絵画も良いですが、私はこの『生きた土』のほうが、好ましく思いますな」


 サイラスは、腰を抜かさんばかりに驚き、そして安堵した。


 シャルロッテは、モフモフの頭に枯れ葉の冠を乗せた。


「えへへ。だって、ペラペラの絵よりも、裏側のごちゃごちゃした場所のほうが、冒険がいっぱいあって、絶対可愛いもん!」


 その日の午後、王城の裏庭から「ハリボテ」は撤去された。

 代わりに、ありのままの生活感と、土の香りが、最も誇らしい「国のおもてなし」として、視察団を歓迎したのだった。

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