表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

444/499

第四百四十七話「沈まぬ太陽と、銀髪の姫の『黄昏の遊び場』」

 それは、王国の歴史書に「黄金の停滞」として記されることとなる、奇妙な一日のことである。


 夕刻が訪れるはずの刻限になっても、太陽は西の空に釘付けにされたかのように留まり、沈もうとしなかった。


 空は、永遠に続く黄昏の茜色に染め上げられ、影は長く伸びたまま、時間という概念を拒絶して静止していた。


 王城の天文学者たちは、天球儀を回し、古代の予言書を紐解いては、顔面を蒼白にさせていた。


「天の車輪が止まった! 太陽神が、地上の何かに魅入られ、帰還の道を忘れたに違いない!」


 人々は、終わらない昼に畏れを抱き、神殿に祈りを捧げた。


 しかし、薔薇の塔のテラスには、その「太陽を足止めした原因」が、無邪気に存在していた。


 シャルロッテである。

 彼女は、モフモフを抱き、燃えるような空に向かって、楽しげに手を振っていた。


「ねえ、お日様! まだ遊ぶの? いいよ、鬼ごっこをしましょう!」


 シャルロッテの目には、太陽が巨大な天体ではなく、「まだ帰りたくないと駄々をこねる、真っ赤な顔をした大きな子供」として映っていた。


 彼女は、この超自然的な現象を、問題や危機としてではなく、単なる「遊びの延長」として受け入れていたのだ。


 シャルロッテは、テラスを駆け出した。

 彼女が走ると、太陽の光もまた、彼女を追いかけるように、影の角度を変えた。


「こっちだよ! 捕まえてごらん!」


 アルベルト王子やフリードリヒ王子が、心配してテラスへ駆けつけた時、彼らが目撃したのは、神話的な光景だった。


 幼い姫君が笑い声を上げると、太陽のフレアが呼応するように揺らめく。

 彼女が隠れようと柱の陰に入ると、太陽は光を強めて、その影を消し去ろうとする。

 まるで、天体そのものが、一人の幼女と戯れているかのようだった。


「……信じられん。太陽が、シャルロッテの遊び相手になっているというのか」

「天体の運行すら、彼女の『遊びの時間』には逆らえないということか……」


 兄たちは、ただ呆然と、その壮大な「鬼ごっこ」を見守るしかなかった。


 永遠に続くかと思われた黄昏の中で、シャルロッテは遊び続けた。

 シャボン玉を飛ばせば、それは割れることなく空へ昇り、新しい星になった。

 お菓子を投げれば、それは空中で光の粒子となり、雲を甘い色に染めた。


 しかし、やがてシャルロッテの動きが緩慢になった。

 彼女は、大きなあくびを一つした。


「ふわぁ……。お日様、わたし、もう眠くなっちゃった」


 シャルロッテは、その場にモフモフを枕にして横になった。

 彼女の瞼が、ゆっくりと下りていく。

 その、まつ毛が重なり合った、まさにその瞬間。


 空に釘付けにされていた太陽が、急速に、しかし静かに、地平線へと沈み始めた。

 世界を覆っていた茜色は、シャルロッテの眠りに合わせるように、深い群青色へと吸い込まれていく。


 夜が来たのではない。

 シャルロッテが眠ったから、世界が目を閉じたのだ。


 ルードヴィヒ国王は、バルコニーからその光景を見て、震える声で側近に告げた。


「記録せよ。太陽が沈むのは、時が来たからではない。我が宝、我が娘が、夢の世界へ旅立つ準備が整ったからである、と」


 星々が、シャルロッテの寝息に合わせて、一つ、また一つと瞬き始めた。

 それは、宇宙全体が、一人の幼女の安眠を守るための、揺りかごへと変貌した夜であった。


 この日、エルデンベルク王国には、新しい神話が生まれた。


 『世界の光は、姫君の瞳が開いている間だけ、輝くことを許される』


 それは、誰も解決しなかったが、誰もが納得した、美しくも恐ろしい愛の真理であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ