第三百八十九話「朝食の奇妙な卵と、姫殿下の『献身のレシピ』」
その日の朝、王城の大食堂は、いつもの厳粛な静けさに包まれていたが、シャルロッテ姫殿下の前には、奇妙な朝食が並べられていた。それは、ごく普通の皿に載せられた、ごく普通に見える目玉焼きだった。
シャルロッテは、モフモフを抱き、その目玉焼きをじっと見つめていた。彼女の目には、その目玉焼きの黄身の中心に、ごく微細な、虹色の光の点が輝いているのが見えた。
「ねえ、モフモフ。この卵さん、すごく頑張ってもらった証拠の光を放っているよ」
シャルロッテは、その光が、王城の料理人、老料理人ジェラールが「姫様への特別な献身」として、「最も完璧な卵」を焼き上げた証拠だと、可愛い勘違いをした。
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そこに、老料理人ジェラールが、次の給仕のために静かに近づいてきた。ジェラールは、長年の献身的な仕事で、王族の信頼を得てきたが、彼の心には、「献身とは、目に見えない努力で、完璧な結果を出すことだ」という、厳格な職人哲学があった。
ジェラールは、姫様の前の目玉焼きを見て、顔を青くした。
その目玉焼きは、彼が誤って、孵化寸前の卵を使ってしまった、世紀の失敗作だったからだ。その黄身の虹色の輝きは、卵の中に眠っていた微かな生命の魔力が、熱で活性化した、不吉な兆候だった。
ジェラールは、シャルロッテの方に歩み寄り、静かに謝罪しようとした。
「ひ、姫様。申し訳ございません。この卵は、わたくしの落ち度で……」
しかし、シャルロッテの可愛い勘違いが、ここで騒動を引き起こした。
「わあ!ジェラールおじいさん、ありがとう! この卵はね、ジェラールおじいさんの献身の結晶だよね!だって、こんなに可愛く光っているんだもん!」
「あ、いえ、姫様は、それは……」
無邪気に喜ぶシャルロッテを前にして、ジェラールはうまく言葉が接げなくなってしまった。
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シャルロッテは、その「献身の結晶」を、家族と共に楽しもうと決意した。
彼女は、スプーンで目玉焼きを二つに割ろうとした。
ジェラールは、「孵化寸前の卵の魔力が、目玉焼きの中で不安定になり、大爆発するかもしれない!」という、最悪の事態を予測し、「姫様の自主的な行動を、絶対に邪魔してはならない」という自己の献身の哲学と、「王族の命の安全を守る」という執事の役割の間で激しく葛藤した。
「いけません、姫様! その卵は、わたくしが……!」
ジェラールは、王族の自立を尊重するあまり、爆発の危険を直接伝えられず、苦し紛れに「私が、その卵を正しく給仕いたします!」と、曖昧な言葉で、スプーンを持った姫様の手首を優しく掴んだ。
そこに、警備の巡回をしていた第二王子フリードリヒが、ジェラールの行動を見て、誤解した。
「何をしている!ジェラール! 老体といえど我が妹に手を出すなど不敬であるぞ! 姫様への愛は、我々騎士の領分だ!」
フリードリヒは、ジェラールが「姫様への献身を全て独占しようとしている」と解釈し、ジェラールの手からスプーンを奪おうと、熱い情熱を込めて、ジェラールの腕を掴んだ。
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シャルロッテは、二人の「愛の献身」の姿勢を見て、さらに可愛い勘違いをしてしまった。
「まあ! わかったわ! ジェラールおじいさんはね、『この完璧な卵は、誰にも触れさせてはならない!』って、献身の美学を主張しているんだね! そして、フリードリヒ兄様は、『いや、献身は、愛をもって分かち合うべきだ!』って、愛の分かち合いの美学を主張しているんだね! 素晴らしいわ!」
シャルロッテは、卵の献身を巡る二人の「美学的な論争」に、心から感動した。
シャルロッテは、卵を奪い合う二人の手から、スプーンをそっと抜き取り、その卵をジェラールのトレイの上に、優雅に戻した。
「ジェラールおじいさん! フリードリヒ兄様! もう、私のために喧嘩しないで!」
シャルロッテは、その目玉焼きに、光属性と共感魔法をゆったりと融合させた。
彼女の魔法は、目玉焼きの光を、「献身の結晶」から「愛の調和」の光へと変えた。
「この卵はね、献身の独占じゃなくて、愛の分かち合いの卵だよ! ジェラールおじいさんの献身と、フリードリヒ兄様の愛が、仲良く、真ん中で微笑むための卵なの!」
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ジェラールは、目玉焼きが爆発することなく、平和に収まったことに安堵し、そして、姫様の「愛の調和」という究極の優しさに、涙ぐんだ。彼の失敗作は、「姫様の愛の哲学の最高の触媒」という、最高の価値を与えられたのだ。
フリードリヒも、妹の愛の哲学に感銘を受け、剣を収めた。
「シャル。君の愛は、王城の論争さえも、愛の調和に変えてしまうのだな。美学は、独占ではなく、分かち合いの上で成り立つものだったんだ」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、独占よりも、みんなで仲良く笑っている、愛の調和のほうが、絶対可愛いもん!」
その日の朝食は、シャルロッテの可愛い勘違いによって、王城の静かな騒動が、愛という名の、最も温かい結末を迎えたのだった。




