第三百三十八話「地下の石蔵と、姫殿下の『垢の妖怪の存在価値』」
その日の午後、王城の地下にある、使われなくなった古い石蔵は、奇妙な悪臭と、陰鬱な空気に満ちていた。城の誰もが、その臭いの発生源を突き止められず、地下全体に不気味な噂が広まっていた。
その臭いの正体は、古くから王城の地下に住み着いていた、「垢の妖怪」だった。この妖怪は、王族や使用人の垢や老廃物の魔力的な澱を食らい、生きていた。彼は、自分の存在が、人々の「不潔さ」によって成り立っていることに、深い自己嫌悪と孤独を感じていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その石蔵の前に立った。彼女の鼻腔には、悪臭ではなく、「深い悲しみが混ざった、懐かしい泥の匂い」が届いていた。
「ねえ、モフモフ。このお部屋の匂い、なんだか、お兄さんたちが頑張った後の、汗の匂いに似ているよ。でも、すごく泣いている匂いもする」
シャルロッテは、地下へと続く石段を降り、石蔵の暗い隅に座り込んだ。彼女の目には、その隅で、自分の体を丸めている、黒い、塊のような妖怪の姿が見えていた。
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シャルロッテは、妖怪を責めることも、退治することもなかった。彼女は、妖怪の存在が、「人間世界の避けて通れない老廃物」という、不条理な真実を映し出していることを知っていた。
シャルロッテは、妖怪に向かって、優しく語りかけた。
「ねえ、垢のおじいさん。おじいさんの匂い、全然汚くないよ。だってこれは、みんなが一生懸命生きた証拠の匂いだもんね?」
垢の妖怪は、自分の存在を肯定されたことに驚き、その黒い塊のような体から、涙のように、ドロリとした垢の雫を零した。
「姫様……私は、私の存在が、人々の『汚い部分』によって成り立っていることに、ずっと苦しんでいたのです……」
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シャルロッテは、垢の妖怪の「自己否定」を、「愛の献身」という新しい哲学で塗り替えることを決意した。
シャルロッテは、光属性と時間魔法を融合させた。
彼女の魔法は、垢の妖怪の体に、「垢の魔力的な澱を食らうことで、人々の心身を、秘密裏に浄化し、健康を保っている」という、彼の存在の真の役割を、光の映像として映し出した。
妖怪の黒い体は、一瞬にして、人知れぬ献身という、温かい虹色の光に包まれた。
シャルロッテは、妖怪の丸い頭を優しく撫でた。
「ね、おじいさん。おじいさんの仕事はね、王城の誰も知らない、一番大切な浄化の仕事なんだよ! おじいさんがいるから、みんな、毎日元気に笑えるんだよ」
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垢の妖怪は、自分の存在が、「汚い老廃物」ではなく、「人知れぬ献身」という、最も高貴な愛の行為であったことを悟り、心からの喜びに包まれた。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、目に見えないところで、誰かの役に立つことのほうが、絶対可愛いもん!」
その日の午後、王城の地下の石蔵は、シャルロッテの愛の哲学によって、「不条理な存在にこそ、最も深い愛の真実が宿る」という、温かい真理に満たされたのだった。




