第三百三十六話「職人の古びた鉋(かんな)と、シャルロッテの『温かい嘘』」
その日の午後、城下町の裏通りにある小さな木工所は、秋の冷たい風が吹き抜ける中、静かな悲哀に包まれていた。老職人のハインリヒは、長年使い込んだ鉋を手に、深い溜息をついていた。彼の腕は確かだが、時代の流れと老いにより、注文は激減し、生活は困窮を極めていた。
ハインリヒは、誇り高き職人だった。「私の鉋は、決して嘘をつかない。どんなに貧しくとも、粗悪な仕事はしない」というのが彼の信条だった。しかし、その誇りが、今の彼を苦しめていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、お忍びで城下町を歩いていた。彼女は、ハインリヒの工房から漂う、「誇りと困窮」という、相反する二つの魔力波動を感じ取った。
「ねえ、モフモフ。あの工房、すごく綺麗な木の匂いがするけど、なんだか悲しい音が聞こえるよ」
シャルロッテは、工房に入り、ハインリヒの仕事ぶりを見た。彼の鉋が木材を削る音は、正確で美しいが、どこか力なく、そして切実だった。
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シャルロッテは、ハインリヒの誇りを傷つけずに、彼を助ける方法を考えた。彼女は、単に金銭を渡すことは、彼の職人としての誇りを踏みにじることになると知っていた。
シャルロッテは、工房の隅にあった、何の変哲もない、小さな木の切れ端を手に取った。
「ねえ、おじいさん。この木でね、モフモフの小さなお家を作ってほしいの。王城の誰も作れない、世界で一番、温かいお家を!」
それは、王女からの「注文」という形をとった、ハインリヒへの救済だった。
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ハインリヒは、王女の言葉に驚き、そして奮い立った。
「姫殿下。この老いぼれの腕を、そこまで見込んでくださるのですか。承知いたしました。この命に代えても、最高の仕事をさせていただきます」
ハインリヒは、数日かけて、その小さな木の家を完成させた。それは、彼の職人人生の全てを注ぎ込んだ、完璧な芸術品だった。
シャルロッテは、その完成品を受け取り、ハインリヒに、通常の何倍もの報酬を支払おうとした。しかし、ハインリヒは固辞した。
「姫殿下。これは、私の誇りの証しです。正当な対価以上は、いただけません」
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シャルロッテは、ハインリヒの頑固な誇りに、心を打たれた。彼女は、最後の「温かい嘘」をつくことにした。
彼女は、光属性と変化魔法を応用し、木の家に、ごく微細な、「幸運を呼ぶ魔力」を付与した。そして、ハインリヒに言った。
「おじいさん。このお家はね、魔法の木でできているから、作った人にも、幸運が訪れるんだって! だから、このお金は、お仕事のお礼じゃなくて、幸運のお裾分けなの!」
ハインリヒは、王女の「温かい嘘」を見抜いていたが、その優しさに、涙を流して感謝した。
「ああ、姫殿下……。あなたの嘘は、私の鉋よりも、真っ直ぐで温かい……」
その日以来、ハインリヒの工房には、再び活気が戻った。シャルロッテの「温かい嘘」は、職人の誇りを守りつつ、彼の生活を救う、最も美しい真実となったのだった。




