第三百三十五話「学院の記憶の宮殿と、シャルロッテが築く『愛の感情の書庫』」
その日の午後、王立学院の旧い資料室は、神秘学徒ロヴィーサの熱心な作業によって、奇妙な空間へと変貌していた。
ロヴィーサは、王家の古文書の全てを脳内に保存するため、部屋の隅々まで、錬金術と神秘学の記号を結びつけ、「記憶の宮殿」を築こうとしていた。彼女の目的は、感情を排した、純粋な知性の永続的な保存だった。
ロヴィーサは、完璧な記憶術の達成に執着していた。
「記憶は、正確な場所に置かれねばなりません。この宮殿の構造こそが、私の知性の永続性を保証する。感情など、記憶のノイズに過ぎない」
ロヴィーサの傍らで、姉のマリアンネ王女は、ロヴィーサの記憶術を解析していた。
「ロヴィーサの記憶の宮殿は、論理的には完璧だわ。しかし、その宮殿は、まるで氷の城のように冷たい……なぜかしら?」
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シャルロッテは、モフモフを抱き、資料室に入った。彼女の目には、ロヴィーサが築く宮殿が、「冷たい知識の監獄」であり、最も大切な愛の記憶を外に閉め出しているのが見えていた。
「ねえ、ロヴィーサお姉様。ロヴィーサお姉様の記憶の宮殿、すごく冷たい匂いがするよ」
ロヴィーサは、シャルロッテの純粋な指摘に、冷静に答えた。
「シャルロッテ様。知性は、感情という熱から守られねばなりません。温かい感情は、記憶を曖昧にし、宮殿の構造を破壊する」
イザベラ王女は、ロヴィーサの姿勢に、自らの過去の「完璧な美しさへの執着」を重ねていた。
「ロヴィーサ。美しさも記憶も、完璧であろうとすると、愛を失うことになるわ」
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シャルロッテは、ロヴィーサの記憶の宮殿の、最も構造的に重要な一点に、そっと触れた。そして、光属性と時間魔法を融合させた。
彼女の魔法は、宮殿の構造を破壊するのではない。その代わりに、宮殿の全ての部屋の記憶の「場所」を、「愛という感情の波動」に置き換えた。
ロヴィーサが、記憶の宮殿の「廊下」を思い出そうとしたとき、彼女の脳裏に浮かんだのは、冷たい石の廊下自体ではなく、「ロヴィーサが幼い頃、その廊下で母からもらった温かい抱擁の記憶」だった。彼女は、記憶の場所を辿ろうとしても、常に「愛」という感情に包まれたのだ。
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ロヴィーサは、自分の記憶が、冷たい構造ではなく、「愛の感情」という、予測不能で温かい原理によって再構築されていることに気づき、戦慄した。
シャルロッテはにっこりと微笑んだ。
「ね、ロヴィーサお姉様。記憶の宮殿はね、冷たい場所でできているんじゃなくて、愛しい誰かとの温かい気持ちでできているんだよ。愛の感情が、一番壊れない、最強の記憶の場所なの!」
マリアンネ王女は、ロヴィーサの記憶の波動を解析し、感動した。
「ロヴィーサの記憶は、以前よりも、遥かに安定しているわ! 愛の感情が、知性のノイズを消し、記憶の定着率を高めたのね!」
イザベラ王女は、ロヴィーサの頭を優しく撫でた。
「愛がなければ、完璧な美しさも、冷たい像に過ぎないわ。記憶も同じね」
ロヴィーサは、シャルロッテの純粋な愛に、深く頭を垂れた。
「シャルロッテ様。私は、知性を宮殿に閉じ込めようとしておりました。しかし、愛こそが、真の記憶の場所なのですね。あなたの愛は、私の記憶を、冷たい知性から、温かい永遠へと変えてくれました」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、知識が冷たい宮殿に閉じ込められているよりも、愛の光でできているほうが、絶対可愛いもん!」
その日の午後、資料室は、シャルロッテの愛の哲学によって、「記憶の宮殿は、愛の感情によって築かれる」という、最も温かい真理に満たされたのだった。




