第二百九十一話「外交の首飾りと、姫殿下の『純粋な意志の輝き』」
その日の午後、王城の居室は、優雅な緊張感に包まれていた。イザベラ王女は、ルードヴィヒ国王が主催する、隣国の強硬な特使団との最終会談に同席するため、「無言の威厳」を表現するアクセサリーを選んでいた。
「わたくしの装飾品は、王国の誇りを示す、最強の武器よ。でも、どんな高価な宝石も、相手の不信感を打ち破るほどの『意志』を宿していない気がするわ」と、イザベラ王女は、宝石箱を前に顔を曇らせた。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、イザベラ王女の隣に座った。
「ねえ、お姉様。宝石は、高いだけじゃ、ダメなんだよ」
「ダメ? なぜ?」
シャルロッテは、「宝石の美しさは、それに込められた『愛の純粋さ』にある」という、独自の美学を持っていた。
シャルロッテ姫殿下は、宝石箱から、最も高価なダイヤモンドの首飾りではなく、安価な真鍮のブレスレットを手に取った。それは、イザベラ王女が、幼い頃に収穫祭の出店で手に入れたものだった。
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シャルロッテは、真鍮のブレスレットに、土属性魔法を応用した。彼女の魔法は、金属の価値を高めるのではなく、ブレスレットの表面に、「イザベラ王女の、外交における揺るぎない決意」という、言葉にならない意志の魔力を、微細な層として定着させた。
次に、シャルロッテ姫殿下は、光属性魔法を応用し、そのブレスレットに、「純粋な意志が放つ、最も冷徹で、美しい輝き」を与えた。
「ね、お姉様。ブレスレットは、安くても、お姉様の心が『王国の平和を守る!』って決めたら、世界一強くて、可愛い光を出すのよ!」
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イザベラ王女は、その真鍮のブレスレットを身に着けた。すると、彼女の全身に、宝石が与える虚栄心ではなく、「純粋な使命感」という、強い自信が湧き上がった。
外交会談の場で、イザベラ王女がそのブレスレットを着用して現れると、隣国の特使団は、彼女の「言葉にならない威圧感」に、圧倒された。彼らは、王女が着用しているのが安価な金属だと気づきもしなかった。
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会談後、ルードヴィヒ国王は、娘の英断と、そのブレスレットの持つ力に、感銘を受けた。
「イザベラ。そなたのブレスレットは、外交の空気を支配した。あれは、宝石ではない。純粋な『決断の光』だった」
ルードヴィヒ国王は、これからは娘の哲学を、王国の外交戦略に組み込むことを決意した。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、高いものよりも、自分の心を信じる気持ちの方が、ずっと可愛いんだもん!」
姫殿下の純粋な哲学は、「装飾品の価値は、価格ではなく、そこに込められた意志の力にある」という、普遍的な真理を、王国の美学にもたらしたのだった。




