第二百四十一話「分岐点の石と、道草の『もうひとつの人生』」
その日の午後、王城の庭園は、秋の風が吹き抜け、葉が舞い落ちる静かな光景だった。庭園の奥には、二つの道が、ほぼ同じ角度で、優雅に分岐する石畳の道がある。
誰もが、その道を通るたびに、「どちらの道が正しかったのか」という、「選択しなかった人生への微かな後悔」を、無意識に抱く場所だった。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その分岐点の石の前に座っていた。彼女の目には、その道が、「選択されなかった無数の可能性」という、静かで切ない感情の波動を放っているのが見えた。
「ねえ、モフモフ。この道、みんなに、『あっちを選べばよかった』って、思われてるみたい」
そこに、フリードリヒ王子が、訓練を終えた疲れた足でやってきた。彼は、自分の人生の選択、つまり騎士としての道が、本当に正しかったのかという、静かな問いを抱いていた。
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シャルロッテ姫殿下は、フリードリヒ王子の隣に座った。
「ね、フリードリヒ兄様。選ばなかった道って、なんで、こんなに綺麗に見えるのかしら?」
フリードリヒ王子は、その純粋な問いに、自分の心が揺さぶられるのを感じた。
「それは、シャル。選ばなかった道には、失敗がないからだ。そこは、夢と希望だけが残る、完璧な世界だからだ」
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シャルロッテ姫殿下は、その言葉に、静かに首を横に振った。
「ううん、違うよ、兄様」
シャルロッテ姫殿下は、光属性と時間魔法を融合させた。
彼女の魔法は、選択しなかった道の石畳に、ごく微細な、愛の光を放った。その光は、「もし、その道を選んでいたら、兄様が遭遇したであろう、無数の困難や、小さな悲しみ*という、現実の厳しさを、光の粒子の映像として、一瞬だけ映し出した。
そして、シャルロッテ姫殿下は、兄*「今ある道」を、優しく指さした。
「選ばなかった道が綺麗に見えるのはね、神様が、その道の困難を、全部、隠してくれているからだよ。でもね、この道は、兄様が、頑張って、乗り越えた、愛の証拠がいっぱいなんだよ!」
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フリードリヒ王子は、選ばなかった道の裏に隠された「真実の困難」を見て、安堵と自己肯定の念に満たされた。彼は、自分の人生が、愛と努力という、最高の価値を持っていたことを再認識した。
フリードリヒ王子は、妹を力強く抱きしめた。
「シャル。君は、私に、今、この場所が、永遠の愛の場所だと教えてくれた。感謝する」
シャルロッテは、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、選んだ道はね、みんなの笑顔がいっぱいあるから、一番可愛いんだもん!」
シャルロッテ姫殿下の純粋な哲学は、「選択の葛藤」という普遍的な悩みを、「今ある場所への感謝」という、最も温かい形で昇華させたのだった。




