第二百四十話「王城を覆う『もやもやの波紋』と、姫殿下の可愛い失敗」
その日の朝、エルデンベルク王城は、原因不明の「もやもやの波紋」に包まれていた。誰もが、シャルロッテがいつもと違うと感じるのに、その違いを言葉にできないという、奇妙な感覚に襲われていたのだ。
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大食堂での朝食時、王族は皆、妹から目を離せずにいた。
ルードヴィヒ国王:「うむ。シャルロッテの笑顔の角度が、わずかに、0.7度ほど、いつもより傾いている気がする……。それだけでなくなにかが違うような……ええい、どこが、違うのか言葉にできんわい!」
エレオノーラ王妃:「あの子の銀色の髪の光沢が、いつもより温かいわ。まるで、光に蜂蜜でも混ぜたかのように……。でも、ハーブティーの味は、いつも通り……なぜかしら」
アルベルト王子: 「論理的には、妹の魔力波動の周波数は正常だ。しかし、視覚的な『愛の証明』が、どこか一点だけ欠けているような、強い違和感がある……この違和感は……なんだ?」
フリードリヒ王子:「俺の騎士の勘が、『何かが足りない!』と叫んでいる! だが、妹の強さや愛は、完璧だ! いったい何が足りないんだ!?」
マリアンネ王女: 「妹の発言の語尾が、いつもより五分の一音階だけ、高音になっているわ。そのせいで、私の論理的思考が、不規則なハミングに支配されている! なぜそんなことが……?」
イザベラ王女:「あのドレスは、完璧。髪型も完璧。でも、どこか、究極の美が、一瞬だけ欠けているような、じれったいほどの愛らしさを感じる……私の方がおかしいのかしら?」
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側近と使用人たちも同様の違和感を覚えていた。
シャルロッテ姫殿下が城下町へ向かうと、その「もやもや」は、彼女の背後から城全体に広がっていった。
オスカー執事:「今日の姫殿下も完璧だ。だが、姫殿下の『愛の規律』のどこかに、『遊び』の要素が欠けているような気がして、胸が落ち着かない……」
エマ(専属メイド): 「姫殿下のいつもの輝きが、今日は、一瞬だけ、遠い場所を見ているような気がして……私の責任でしょうか……」
ハンス庭師長: 「姫殿下の笑顔が、庭園の全ての薔薇を見ているのではなく、一輪の薔薇だけに、特別に優しさを向けているようだ。それが、なぜだか、悲しい……」
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城下町の人々も、その異変を察した。
果物屋のマルタおばさん:「姫様の、あの大きな瞳が、今日は、『欲しいものが決まっていない』と語っているよ。いつもは、欲しいものが決まっているのに! いったいどうしちゃったのかしら?」
仕立て屋のヨハン:「あのドレスの完璧さに、今日は、『小さな、誰にも気づかれない、秘密の刺繍』が足りない気がする……気のせいだろうか……」
パン職人のカール:「姫殿下が、パンを左手で触った! いつもは、右手なのに! これはいったい何の暗喩だろう?」
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しかし夕食の時間、シャルロッテ姫殿下は、その日一日、みんなを「もやもや」させた理由を、意識せずに自分で発見した。
ルードヴィヒ国王が、ハーブティーを飲みながら、優しく尋ねた。
「シャル。今日一日、みんなが君を見て、どこかおかしいと感じていたのだ。教えてくれないか。何が、いつもと違ったのだ?」
「えー、シャルはいつもと同じ、元気いっぱいだったよ!」
シャルロッテ姫殿下は、自分の銀色の巻き髪に、ふと手を触れた。
「あ!」
彼女は、自分が、鏡を見ずに、慌てて髪を結ったことを思い出した。
「ねえ、パパ! わかったよ! わたし、今日ね、リボンを、片方だけしかつけてなかったの!」
彼女の髪には、いつもは二つあるリボンのうち、右側だけが申し訳なさそうについていた。
シャルロッテ姫殿下は、リボンが二つ揃っていることで完成する「究極の可愛いシンメトリー」を、無意識のうちに欠いていたのだ。
王族全員は、その「極めて些細で、愛らしい原因」に、一斉に、大笑いした。
「なんだ、そんなことだったのか!」
「シャルったら、うっかりさんね!」
「でも、そういうところがすごく可愛いぞ、シャル!」
シャルロッテの「可愛い」という哲学は、「些細な欠点すら、愛の探求の対象となる」という、究極の真理を、ユーモラスにもたらしたのだった。




