第二百八話「巨人の靴下の織物と、姫殿下の『居場所の法則』」
その日の午後、王城の古い工房には、一人の老いた織物職人がいた。彼は、「大きすぎる布しか織れない」という、奇妙な特技を持っていた。彼の織る布は、教会の天井を覆うほど巨大で、日常の生活には全く役立たなかったため、王城では厄介者扱いされていた。彼ももっと小さい布を織ろうとするのが、どうしても最後には大きくなってしまうのだった。
「私は、誰にも必要とされない。私の才能は、大きすぎる失敗だ」と、職人は、自分の才能を呪っていた。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その工房を訪れた。彼女の目には、職人の巨大な織物が、「世間の小さな基準」に合わないというだけで、「存在の価値」を否定されているように見えた。
「ねえ、おじいさん。その布、とっても可愛いよ! だって、みんなを、やさしく包んであげられるでしょう?」
シャルロッテ姫は、職人の特大の才能を、否定せず、そのまま受け入れた。
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シャルロッテ姫殿下は、その「巨大すぎる布」の使い道を見つけるため、王城中を歩き回った。
そして彼女は、ついに王城の「居場所がない」と感じている、三つの異質な存在を探し出した。
フリードリヒの剣術の練習相手:体が大きすぎるため、誰も組手に誘わない、孤独な騎士。
マリアンネの実験動物:体が小さすぎるため、飼育ケージの隙間から逃げ出してしまう、研究員泣かせの小さな魔法ネズミ。
王家の巨大な古い地図:大きすぎて、広げられる場所がなく、巻かれたまま放置されている、情報過多の古地図。
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シャルロッテ姫殿下は、職人の織った巨大な布に、変化魔法を応用した。
彼女の魔法は、布を、「個性のための、特注の居場所*へと変貌させた。
巨大な騎士のため:布は、彼の体格に完璧にフィットする、「伸縮自在で、傷一つつけない、愛の防具」へと変わった。
小さな魔法ネズミのため:布は、一匹も逃げ出せないよう、「無数の小さなポケットがついた、巨大な保育器」へと変わった。
古い巨大地図のため:布は、地図が広げられるほどの、「天空のドーム」へと変わった。
職人の「大きすぎる才能」は、シャルロッテ姫殿下の愛によって、「世間の基準から外れた人々や物を、優しく包み込む」という、最高の役割を見つけた。
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職人は、自分の巨大な織物が、初めて人々に感謝され、愛されているのを見て、涙ぐんだ。
「姫殿下……私の才能は、失敗ではなかったのですね。誰かを、優しく包むためのものだったのですね」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんながバラバラなのは、可愛くないもの! みんなに、ぴったりの場所があるのが、一番可愛いでしょう?」
姫殿下の純粋な哲学は、「規格外の存在」に、「愛という名の、最も大切な居場所」をもたらしたのだった。




