第二百七話「王城のパンケーキと、家族が紡ぐ『早朝の協奏曲』」
その日の朝は、王城の厨房は、いつもより早い時間から、温かい湯気と、甘い匂いに満ちていた。シャルロッテが、「家族全員で作る、世界一ふわふわなパンケーキ」を提案したからだ。
それは、王族の地位や役割を離れ、「家族」という最も小さな共同体の協調性を試す、愛らしい試みだった。
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厨房では、家族全員が、それぞれの得意分野で、朝食の準備に取り掛かっていた。
ルードヴィヒ国王は、王妃の指示を受け、巨大な暖炉の火加減を調整していた。彼は、時間魔法を応用し、火力の強さを、パンケーキが焦げ付かない、完璧な温度に維持する、最も重要な「縁の下の力持ち」の役割を担った。
アルベルト王子は、正確な論理を活かし、小麦粉、牛乳、卵の分量を、ごく微細な誤差も許さないように計測し、完璧な配合を作り出した。
フリードリヒ王子は、剣術で鍛えた腕力と情熱を、泡立て器に注ぎ込んだ。彼は、生地を驚くべき速さで、しかし優しく泡立て、パンケーキの「ふわふわ」の基盤を作った。
マリアンネとイザベラは、保存魔法と水属性魔法を応用し、バターやシロップを、パンケーキに乗せる直前まで、最高の温度と鮮度に保った。
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そして、シャルロッテは、その全ての工程を、愛と光で包み込んだ。
彼女は、フライパンに流し込む生地に、光属性魔法で、「美味しくなあれ! みんなの愛がいっぱいだよ!」という、無言の祝福を与えた。
その光の魔法は、生地の一つ一つの分子に、「家族の協力と、感謝の気持ち」を染み込ませた。
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完成したパンケーキは、外はサクサク、中はふんわりとした、家族の愛の結晶のような、完璧な出来栄えだった。
食卓で、家族全員が、自分たちの手で作ったパンケーキを口にした。それは、プロの料理人が作ったものよりも、遥かに温かく、美味しかった。
ルードヴィヒ国王は、娘たちと息子たちの働きを見て、涙ぐんだ。
「ああ、君たちは、最高の協奏曲を奏でた! このパンケーキこそ、家族という、最も小さな王国の、最高の宝だ!」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんなで力を合わせて作ったら、ひとりで食べるよりも、百倍美味しくなるんだもん!」
姫殿下の純粋な哲学は、王族の日常の営みの中に、「協力と感謝」という、最も温かい絆の価値を再認識させたのだった。




