第二百二話「城下町の古い石造りの家と、姫殿下の『時の修復』」
その日の午後、シャルロッテは、モフモフを抱き、城下町の最も古い一角を訪れていた。そこには、周囲の新しい建物に囲まれ、ひっそりと佇む、小さな、苔むした古い石造りの家があった。
その家は、周囲の建物が、時代の流れと共に、何度も建て替えられるのを、ただ静かに見つめ続けてきた。家からは、「長すぎる時間の中で、忘れられていく寂しさ」という、静かな魔力の波動が感じられた。
◆
シャルロッテは、その小さな家を、愛おしく思った。
「ねえ、モフモフ。この家はね、みんなの昔の夢を知ってるんだよ」
しかし、その家の住人は、近隣の新しい建物との比較で、自分の家の「古さ」を恥じ、引っ越しを考えていた。
「姫殿下。この家は、もう時代遅れです。新しい、現代的な家に建て替えるべきでしょう」と、住人は、申し訳なさそうに言った。
◆
シャルロッテは、「時間の流れ」という、この世界の普遍的な法則を否定することはしなかった。しかし、彼女は、「古いこと」が、「価値がないこと」ではないという、真理を証明したかった。
シャルロッテは、家の石壁に、そっと手を触れた。
そして、時間魔法を、ごく微細に応用した。彼女の魔法は、時間を逆行させるのではなく、「家が立ってからの、すべての静かな記憶」を、「現在の美しさ」として再構成した。
◆
シャルロッテの魔法が発動すると、家の周囲の空気が、幻想的に揺らぎ始めた。
住人の目には、家の石壁の苔が、単なる汚れではなく、「何十年もの雨と、太陽と、家族の生活を見守ってきた、愛の時間の層」として見え始めた。
窓枠の塗料の剥がれは、「過去に住人が、楽しそうにペンキを塗った、温かい記憶」という、映像に変わり、家の周囲全体が、「時が積み重なった、最も美しい場所」として、輝き始めた。
住人は、その光景を見て、涙ぐんだ。
「ああ……。この家は、時代遅れなんかじゃない。愛の歴史そのものだったんだ! それに今まで気づかなかったなんて……!」
◆
シャルロッテは、にっこり微笑んだ。
「ね、お兄さん。古いってね、愛される時間が、いっぱいあったってことだよ。一番可愛いのは、新しい服じゃなくて、いっぱい着て、古くなったけど温かくなった服でしょう?」
住人は、引っ越しをやめ、家を、「歴史の美しさ」を体現するものとして、大切に手入れし始めた。
アルベルト王子は、妹の知恵に感銘を受けた。
「シャルは、『古いものと、新しいもの』という、時代の対立を、『時間は、愛を積み重ねる贈り物である』という、最も美しい真理で和解させたのだな」
城下町の小さな家は、その日以来、「時間の重みが持つ、愛の美しさ」を象徴する、特別な場所となった。




