第百七十五話「幻の虹色の花と、王子の『急ぎ足の失敗学』」
その日の朝、シャルロッテ姫殿下は、窓の外の庭園を見て、小さな願い事をした。
「ねえ、お兄様たち。わたし、庭園で、『朝露に濡れた、虹色の花』が見たいな。一瞬で消えちゃう、幻みたいな花」
その言葉を聞いた瞬間、フリードリヒ王子とアルベルト王子は、「妹の小さな願いを、誰よりも早く、完璧に叶えたい」という、溺愛の衝動に駆られた。
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アルベルトは、論理的な最短ルートを選んだ。彼は、マリアンネ王女の魔法理論書を片手に、「虹色の光を瞬時に発生させ、それを花に定着させる」という、高度な複合魔法の実験を開始した。
「虹は、水滴と光の角度の論理だ。これを魔法で再現すれば、一瞬で虹色の花を作れるはずだ!」
彼は、水属性と光属性を応用し、テラスで実験を行った。しかし、彼は「速さ」を重視し過ぎたため、魔力の出力が強すぎた。結果、花は虹色に輝くどころか、強すぎる光と水圧で、花瓶ごと粉々に砕けてしまった。
「くそっ! 理論は完璧なのに、なぜだ!」と、アルベルトは、顔を曇らせた。
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フリードリヒは、力任せの情熱的ルートを選んだ。彼は、虹色の花が「珍しい異国の花」だと誤解し、飛翔魔法で、王城から最も遠い、幻の山頂を目指して、猛スピードで飛び立った。
「妹の願いだ! 誰よりも早く、本物の幻の花を見つけてみせる!」
彼は、速度を重視したため、山の頂上で、足を滑らせ、雪崩を起こしそうになった。彼は、土属性魔法で雪崩を止め、九死に一生を得たが、そこで彼が見つけたのは、「幻の花」ではなく、「ただの凍った苔」だった。
彼は、風属性魔法で、ボロボロになりながら王城に戻ってきた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、テラスでその惨状を見ていた。粉砕された花瓶、ボロボロになった兄、そして、疲労困憊のアルベルト。
「もう、兄様たち! 急ぎすぎだよ! だから、失敗しちゃうんだよ!」
シャルロッテは、二人の兄に、優しく微笑んだ。
「ねえ、幻の花はね、急いで探すものじゃないの。優しく、ゆっくり、待つものなのよ」
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シャルロッテは、時間魔法を、ごく微細に応用した。彼女の魔法は、テラスの空気に、「朝の、最も穏やかな時間」の、静かな感覚を再現した。
そして、彼女は、庭園の最も地味な、小さな花を一つ摘み、その花びらに、水属性魔法で、ごく小さな、完璧な形の水滴を乗せた。
朝の光が、その水滴に当たる。光は、水滴の中で、完璧な角度で屈折し、一瞬だけ、虹色の、最も優雅な光を放った。
それは、「急がず、自然の法則が整うのを待った」からこそ、見ることができた、究極の美だった。
「わあ! 幻の虹色の花だよ!」
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アルベルトとフリードリヒは、妹の純粋な笑顔と、そのシンプルな美しさに、心から感動した。彼らは、「急ぐこと」という大人の論理が、「待つこと」という、人生の最も大切な美学を、見失わせていたことに気づいた。
二人の兄は、妹を抱きしめ、心から感謝した。
「シャル。君は、私に、人生で最も大切なのは、瞬間を待つ優雅さだと教えてくれた」
シャルロッテの純粋な「可愛い」の哲学は、「焦り」という大人の弱さを、「静かな待望」という、最高の愛へと変えたのだった。




