第百六十九話「広間の灰色のタペストリーと、王女の『生命の爆発』」
その日の午後、王城の旧い広間は、歴代の王の肖像画と、くすんだ灰色と黒で織られた、巨大なタペストリーに覆われていた。タペストリーは、「王族の厳格な規律」と「単調な日常」を象徴しており、広間の空気は、抑制された、重い静寂に満ちていた。
アルベルト王子は、そのタペストリーを見て、「この厳格さこそ、王国の秩序を保つ」と信じていたが、心の奥底では、その単調さに、息苦しさを感じていた。
◆
シャルロッテは、モフモフを抱き、タペストリーの前に立った。彼女の目には、そのタペストリーが、「生きている衝動を、無理やり閉じ込めた、哀しい壁」に見えた。
「ねえ、兄様。この布、思うように生きられないって、言ってるよ」
シャルロッテは、そのタペストリーの持つ「単調さ」を、破壊し、解放することを決意した。
シャルロッテは、光属性と変化魔法を融合させた。
彼女の魔法は、タペストリーの灰色の織り目に、「根源的な生命の衝動」という、強烈な魔力を送り込んだ。
◆
次の瞬間、タペストリーは、音もなく、しかし激しく、爆発した。
爆発といっても、物理的な破壊ではない。タペストリーの灰色の表面から、鮮烈な原色の色彩が、渦を巻き、激しい筆致で、飛び散るように湧き上がったのだ。
燃えるような赤、生命の緑、歓喜の黄色といった原色が、タペストリー全体を覆い、中央には、燃え盛る恒星のような、不規則な、しかし力強い生命の象徴が浮かび上がった。
それは、「単調さ」という規律を破壊し、「根源的な生命のエネルギー」を肯定する、爆発的な創造の光景だった。
◆
アルベルト王子は、その非論理的で、強烈な美しさに、言葉を失った。
「これは……これは、秩序の破壊ではない。これは、生命の根源的な肯定だ」
シャルロッテは、その爆発の中心で、にっこり微笑んだ。
「ね、兄様。生きるって、本当は、こんなに、カラフルで、楽しいことなのよ!」
シャルロッテは、破壊されたタペストリーに触れ、土属性魔法を応用した。彼女の魔法は、破壊された布の繊維を、そのままの、爆発的な形で、永遠に固定した。
◆
その日以来、王城の旧い広間には、「規律と単調さ」を象徴するタペストリーではなく、「生命の爆発と、自由な創造」を象徴する、強烈な色彩の芸術作品が飾られた。
アルベルト王子は、妹の「生命の爆発」の哲学を、政治に活かすことを決意した。
シャルロッテの純粋な「可愛い」の哲学は、王国の硬直した規律を打ち破り、「生命を愛することこそ、最高の芸術である」という、根源的な真理をもたらしたのだった。




