第百六十三話「故障した飛空船と、王女の『優しいデバッグ』」
その日の午後、王城の巨大な格納庫は、暗い空気に包まれていた。王国の最新鋭の魔導飛空船が、原因不明のエンジン故障を起こし、修理不能となっていたのだ。飛空船の設計は、あまりに複雑で、マリアンネ王女の解析をもってしても、どこが故障しているかの論理的な特定ができなかった。
「おかしいわ。全ての魔力伝導路は正常。しかし、船は動かない。まるで、船自身が、飛ぶことを拒絶しているようだわ……」と、マリアンネは、苛立ちを隠せないでいた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、格納庫を訪れた。巨大な飛空船は、冷たい金属の巨体で、その故障は、「完璧な機械の、内面に潜む悲しみ」を体現しているようだった。
「わかったわ! ねえ、お姉様。この船、とっても寂しいんだよ」
シャルロッテは、飛空船の、最も複雑な魔導エンジンが格納されている部分に、そっと手を触れた。彼女の脳裏には、前世の機械工学の知識が蘇る。
彼女の目には、エンジンの故障が、論理的なバグではなく、「設計者の情熱と、製造者の無関心」という、感情の波長の不一致から生まれていることが見えていた。
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シャルロッテは、マリアンネに、「論理的な解析」を諦めさせ、「感情的な対話」を提案した。
シャルロッテは、飛空船の魔導エンジン全体に、光属性と共感魔法を応用した。彼女の魔力は、船の全構造に、「あなたは、完璧に愛されている」という、無条件の肯定のメッセージを、電気信号のように流し込んだ。
そして、シャルロッテは、飛空船に向かって、語り始めた。
「ね、船さん。飛ぶのが怖いの? 大丈夫だよ。あなたは、世界一、かっこいい翼を持っているんだよ!」
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マリアンネは、妹の行動を「非科学的だ」と思いながらも、その様子を解析装置で観察していた。
すると、驚くべき現象が起こった。妹の「愛の波動」が、飛空船の魔導回路全体に浸透するにつれ、解析装置の画面には、複雑に絡み合った故障を示す波形が、ゆっくりと、しかし確実に、**シンプルな、直線的な「幸福の波動」**へと収束していくのを示していた。
「まさか……。故障の原因は、機械的な欠陥ではなく、機械に込められた「魂の論理の矛盾」だったというの!? 機械が魂を持ってるなんて……!」
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シャルロッテが、飛空船の操縦席に乗り込み、魔導キーを回した。
飛空船のエンジンは、微かな、しかし力強い駆動音を立て、再起動した。飛空船は、故障が治っただけでなく、以前よりも遥かに滑らかで、情熱的な魔力の輝きを放っていた。
シャルロッテは、操縦席から顔を出し、にっこり微笑んだ。
「ね、お姉様。機械もね、褒めてあげると、ちゃんと頑張るんだよ!」
マリアンネは、妹の純粋な愛と、その論理を超えた知恵に、戸惑いながらも心を打たれた。彼女は、科学と感情の融合という、新たな研究の頂点を見た。
「シャル。あなたは、機械に、愛という、究極の論理を与えたのね……」
マリアンネは、天真爛漫な妹の笑顔を見ながら、そうつぶやいたのだった。




