第百五十話「深夜の王城と、銀髪の姫の『予測不能な夜の散歩』」
その日の深夜、王城は厳かな闇に包まれていた。しかし、執事オスカーは、自室の窓から、庭園の芝生を、ごく小さな、白い影が、予測不能な、ジグザグの動きで走り回っているのを目撃した。
「いかん! 賊か!?」
オスカーが急いで庭園へ向かうと、そこにいたのは、白いレースのネグリジェを纏い、モフモフを抱いた、シャルロッテ姫殿下だった。彼女は、裸足で芝生の上を走り、満面の笑みを浮かべている。
◆
「姫殿下! このような時間に、いったい何をしておられるのですか!」
シャルロッテは、オスカーの焦った声に、立ち止まった。
「ねえ、オスカー。夜の芝生ってね、すごく柔らかい、大きなベッドみたいだよ! このベッドで寝ないと、明日、いい夢が見られない気がしたの!」
オスカーの「常識」では、王女は夜中に裸足で庭園を走り回ってはならない。しかし、シャルロッテの「論理を飛び越えた、自分だけのルール」は、彼の規律を揺るがした。
◆
シャルロッテは、芝生に座り込み、オスカーに話しかけた。
「ねえ、オスカー。わたしの今日の夜の夢はね、ピンクのユニコーンが、逆さまのメリーゴーランドに乗って、お空を飛ぶ夢なんだよ。このまま、ここで寝ないと、夢が逃げちゃうの!」
その奔放で、ノスタルジックなモチーフと、奇抜な論理の融合に、オスカーは困惑した。彼は、姫殿下の行動を否定することは、「姫殿下の純粋な世界観」を否定することに繋がると知っていた。
◆
そこに、フリードリヒ王子が、妹を探しにやってきた。彼は、芝生の上に座る妹を見て、一瞬、呆然としたが、すぐに妹の世界観を受け入れた。
「シャル。夜は冷える。兄ちゃんが、芝生のベッドを、もっと温かくしてやる」
フリードリヒは、土属性魔法を応用し、芝生の下の地面に、ごく微細な、温かい波動を送り込んだ。芝生は、まるで温かい毛布のように、温かさを増した。
そして、彼は、妹の横に、白いローブを広げ、妹の隣に寝転んだ。
「さあ、シャル。兄ちゃんも、その**『逆さまのメリーゴーランド』**に乗せてくれ」
◆
シャルロッテは、兄の理解と、その奔放な優しさに、心から満たされた。
「わあ! フリードリヒ兄様、わかってるぅー!」
彼女は、フリードリヒのローブにくるまり、空を見上げた。夜空は、彼女の創造性を肯定するように、無数の星々を瞬かせていた。
オスカーは、その光景を見て、ため息をついた。彼の厳格な規律は、この奔放な愛の前では、無力だった。
「まったく……。この王家は、姫殿下の『予測不能な可愛らしさ』によって、保たれているようですな。でも、ほどほどにしてもらいたいものですな。この老いぼれの寿命がいくらあっても足りませぬぞ」
シャルロッテの奔放な哲学は、王城の規律を破るのではなく、「規律という壁の裏に隠された、ユーモアと愛情」を、解放したのだった。




