第百四十四話「銀の刺繍と、世界を支える『見えない可愛い』の割合」
その日の午後、第一王女イザベラは、外交パーティで着用する新しいドレスを前に、最後の仕上げに熱中していた。ドレス全体には、目に見える限りの光沢のある銀糸で、緻密な薔薇の刺繍が施されている。
「見て、シャル。この刺繍こそ、私という存在の価値よ。誰の目にも明らかで、完璧に美しい。見えるものだけが、この世界で力を持ち、評価されるのよ」
イザベラは、外交や社交界において、「目に見える美しさや功績」がすべてであるという、現実主義的な美学を信じていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その完璧なドレスの刺繍をじっと見つめた。彼女の目には、その完璧に「見える」美しさの裏に、「見えない、しかし圧倒的な何か」が隠されていることが見えていた。
「ねえ、お姉様。ドレスは可愛いけど、見えるものだけが、全部じゃないよ」
イザベラは、妹の言葉に、優雅に微笑んだ。
「ふふ、シャル。あなたも知っているでしょう? 王城の運営も、外交も、目に見える確かな証拠がなければ、誰も信じてくれないわ。見えないものが大事、なんてただの幻想よ」
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シャルロッテは、姉のその「見えるもの絶対主義」の哲学を、優しく訂正しようとした。
彼女は、イザベラのドレスの裏側、肌に直接触れる内側の裏地に、そっと手を触れた。そして、光属性と共感魔法を応用する。
彼女の魔法は、ドレスの裏地に、銀糸の刺繍の五倍以上の面積を持つ、ごく淡い、虹色の「見えない刺繍」を施した。それは、「王女の心の優しさ」「国民への静かな献身」「妹への無償の愛」といった、目に見えない感情を魔力で可視化したものだった。
その「見えない刺繍」は、外側の銀の刺繍よりも遥かに大きく、ドレスの大部分を占めていた。
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イザベラは、ドレスの裏側から伝わる、圧倒的な温もりと、言葉にならない幸福感に、驚愕した。
「この温かさは、何? このドレスの大部分は、銀糸ではなく、この温かい光で出来ている……」
シャルロッテは、にっこり微笑んだ。
「ね、お姉様。このドレスの可愛い大部分は、誰も見ていない、お姉様の優しい気持ちなんだよ。見えている銀の刺繍は、ほんの少しだけ。世界を支えているのは、目に見えない可愛いものなの!」
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イザベラは、妹の言葉と、ドレスの裏側から伝わる愛の圧倒的な量に、心から感動した。彼女が追求していた「見える美しさ」は、実は、「見えない心の大部分」によって支えられていたのだ。
「シャル……あなたの言う通りだわ。このドレスは、私の心で出来ていたのね」
外交パーティに出席したイザベラは、その夜、外側の銀の刺繍ではなく、内側の見えない虹色の温もりを意識した。彼女の放つ優雅さと自信は、かつてないほど深まり、周囲を魅了した。
シャルロッテの純粋な哲学は、「目に見える美しさよりも、見えない愛の大部分こそが、存在の真の価値である」という真理を、優雅なドレスの裏地に見いだしたのだった。




