第百十五話「王城の音と、三女殿下の『愛の光の感謝祭』」
その日の朝、シャルロッテは、いつものように薔薇の塔の自室で目覚めた。淹れたての紅茶の香り、きれいに整えられた部屋、窓から見える完璧な庭園。全てが、ごく当たり前の日常だった。
しかし、シャルロッテは、ふと、その「当たり前」の裏側に、無数の人々の、静かで不断の努力が隠されていることに気づいた。
「ねえ、モフモフ。この部屋、誰がこんなにきれいにしてくれたんだろう?」
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シャルロッテは、王城の中を、ゆっくりと歩き始めた。彼女は、闇属性の「感知」の魔法を、ごく微細に応用した。その魔法は、「人の存在の音」を増幅させ、彼女の耳に届ける。
彼女の耳に聞こえてきたのは、普段は意識しない、無数の「音」だった。
遠くの厨房で、コックたちが、パン生地を力強く捏ねる、規則正しい音。
庭師たちが、庭園で、草木に優しく水を与える、微かな水流の音。
廊下を磨くメイドたちが、床に布を当てる、静かで丁寧な摩擦音。
そして、執務室で、アルベルト王子が、羽ペンで書類に文字を書き込む、集中した静かな音。
それは、王城という巨大な舞台を支える、無数の愛と、献身の音のオーケストラだった。
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シャルロッテは、その音の全てに、心から感動した。彼女の「可愛い」という哲学は、「見えないところで頑張る、すべての存在」への、深い尊敬へと変わった。
「みんな、こんなに頑張って、わたしに『可愛い』をプレゼントしてくれてるんだ……」
その日の午後、シャルロッテは、王城で働く全ての人々を集めた。
「みんな! 今日はね、『愛の光の感謝祭』だよ!」
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シャルロッテは、王城で働く全ての人々に向かって、光属性の魔法を、全身全霊で放出した。しかし、それは、派手な光線ではない。
彼女の虹色の魔力は、感謝と愛という、最も純粋な感情に変換され、目には見えない、温かい光の粒子となって、一人一人の働く人々の心に、そっと降り注いだ。
コックたちの疲れた手のひらに、温かい労いの光が灯る。
庭師たちの腰の痛みに、癒やしの微細な波動が届く。
メイドたちの肩の凝りに、感謝の柔らかい光が浸透する。
誰もが、一瞬、心が温かくなり、体が軽くなるのを感じた。彼らは、王女が最高級の宝石を贈るよりも、自分の日々の努力を、心から肯定してくれたことに、深い感動を覚えた。
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その夜、国王ルードヴィヒは、娘の行動に心から感動した。
「シャル。君は、王族の誰もが気づかなかった、王城という組織の『魂』を、目覚めさせた。君こそが、この王城の、真の『愛の支配者』だ」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんなが可愛く元気じゃないと、わたしの世界が、可愛くないもん!」
シャルロッテの純粋な感謝の気持ちは、王城の日常に、見えない愛の光を灯し続け、その日以来、王城の「音」は、以前にも増して、活気と喜びに満ちたものとなった。




