第百十三話「極東キャラバンの珍品と、銀髪に映る『故郷の光』」
その日、エルデンベルク王城の広場は、異様な熱気に包まれていた。遥か極東の島国から「東の珍品」を携えたキャラバンが到着したのだ。彼らの衣装は鮮やかな絹で飾られ、言葉は独特な響きを持っていた。
シャルロッテは、モフモフを抱き、兄姉たちと共に、その異国の品々が並べられた天幕を訪れた。
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天幕の中は、見たこともない色彩と、聞いたこともない香りに満ちていた。
フリードリヒ王子は、薄く、しかし驚くほど強靭な金属でできた、刀のような細身の剣に興味津々だ。アルベルト王子は、キャラバンの隊長と、複雑な貿易交渉の初期段階に入っていた。
シャルロッテは、その極東の品々に、強い好奇心と、そして微かな郷愁を覚えた。
彼女の目が釘付けになったのは、二つの品だ。
薄い紙の扇: 絹ではなく、木の骨組みに、極めて薄い、和紙のような紙が貼られた扇。絵柄は、波と月。
黒く光る四角い海藻: 乾いた、少し塩気のある、黒く光る海藻の束。
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シャルロッテは、薄い紙の扇を手に取った。扇を広げ、風属性魔法でごく微細な風を起こすと、扇は軽やかに揺れ、静かで涼やかな風を返した。
「わあ、可愛い! こんなに薄いのに、こんなに優しい風をくれるんだね!」
その扇の軽やかさ、そして「無駄な装飾を排した、機能的な美しさ」は、前世の日本の伝統工芸を思い出させた。彼女は、厳格な父親に持たされていた、重い書類ケースや分厚い参考書とは対極にある、その簡素な美しさに、静かな感動を覚えた。
しかし、彼女の視線は、次に、黒く光る海藻に移った。
「この海藻……」
その独特の磯の香りと、乾燥した質感は、前世で食べていた「海苔」の記憶を、鮮明に呼び覚ました。一瞬、シャルロッテの瞳に、故郷の家族との、厳格だが温かい食卓の情景がフラッシュバックする。彼女は、「もう二度と、あの場所に戻れない」という、微かな切なさに包まれた。
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シャルロッテは、その海藻の束を、そっとモフモフの鼻先に近づけた。
「ね、モフモフ。これ、遠い場所の、海のお菓子だよ」
モフモフは、警戒することなく、その海藻をクンクンと嗅ぎ、美味しそうに「ミィ」と鳴いた。
その瞬間、シャルロッテの心の中にあった微かな郷愁は、「モフモフが、この新しい世界の食べ物を喜んでくれた」という、純粋な幸福感によって、優しく塗り替えられた。
「そうか。過去の美味しい思い出は、この新しい世界でも、また作れるんだね!」
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シャルロッテは、その海藻と扇を手に、キャラバンの隊長に、にっこり微笑んだ。
「この海藻と扇、とっても可愛い! 王城のみんなに、この東の国の美味しさを教えてあげるね!」
アルベルト王子は、妹の無邪気な交流が、硬直していた交渉の空気を一気に和らげたことに気づいた。キャラバン隊長は、小さな王女の純粋な愛と好奇心に、心から感動し、貿易交渉は一気に進展した。
シャルロッテの銀色の髪は、極東の光を浴び、懐かしさと、未来への希望という、二つの光を同時に反射していた。




