第百五話「魔法士団の早業と、王女の『一滴の魔法』」
その日の午後、王城の魔法訓練場では、騎士団と魔法士団による、「効率的な水供給」を競う模擬戦が開かれていた。長引く旱魃に備え、限られた水源から、どれだけ早く大量の水を城に運べるか、という競技だ。
魔法士団は、強大な水属性魔法の使い手たちで構成されていた。彼らは、水源から城まで、一瞬で大量の水を空中に転送する「早業」で、圧倒的な速さを見せつけた。彼らは、自分たちの「力」と「速さ」を過信し、地道な努力を軽視していた。
「我々魔法士団の力に、騎士団の地道な労働が勝てるはずがない」と、彼らは嘲笑した。
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シャルロッテは、その模擬戦を、モフモフを抱いて見ていた。彼女の目には、魔法士団の「早業」が、水源の枯渇という、深刻なリスクを伴っていることが見えていた。大量の水を一度に転送することで、水源の均衡が崩れ、水脈が干上がりかねない。
彼女は、「魔法の力」と「自然の法則*のバランスが崩れていることに、心を痛めた。
「ねえ、モフモフ。力任せは、可愛くないよね。優しくしないと、お水が怒っちゃうもの」
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シャルロッテは、魔法士団の訓練を静かに見つめると、誰も気づかないうちにある実験を始めた。
彼女は、水源の最も目立たない場所にある、ごく小さな、岩の裂け目を見つけた。そこから、一日にわずか一滴の水しか湧き出さない。
シャルロッテは、その小さな裂け目に、水属性魔法を、「流れを速める」のではなく、「水の分子を極限まで圧縮し、密度を高める」という形で応用した。その行為は、ごく地味で、誰にも見えない「一滴の努力」だった。
同時に、土属性魔法を応用し、水源の周囲の土壌を強化し、水脈が崩壊しないよう、優しく支えた。
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模擬戦が終わり、魔法士団の勝利で幕を閉じた。しかし、その翌日、魔法士団が再び水源に向かったとき、彼らは愕然とした。水源の水量が、昨日の転送魔法の影響で、半分近く減っていたのだ。
その時、城に運ばれた水は、シャルロッテの「一滴の魔法」が込められた、小さな裂け目から湧き出た水と、転送された水が混ざり合ったものだった。
アルベルト王子が、その水の質を分析した。すると、転送された水よりも、シャルロッテの魔法が込められた「一滴の水」のほうが、遥かに高い魔力純度と、持続的な癒やし効果を持っていることが判明したのだ。
「なんてことだ! 魔法士団の大量の転送よりも、シャルロッテの一滴の水の方が、実質的な価値が上だ!」
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シャルロッテは、水を前に、にっこり微笑んだ。
「ね、みんな。急いで、力任せに運ぶよりも、ゆっくり、大切に作った一滴のほうが、ずっと美味しいでしょう? 本当の知恵って、見栄えの良さじゃなくて、地道な優しさなんだよ」
王城の魔法士団は、この一件で、力や速度を過信する軽率さを反省し、地道な努力と、自然の法則を尊重する知恵を学んだ。シャルロッテの「可愛い」の哲学は、「地道な愛の積み重ね」こそが、真の力の源泉であるという、普遍的な真理を王城にもたらしたのだった。




