08 転移
羅紗に琉人を呼んでくるように言われ、私は琉人の部屋へ行った。
「おい、行くぞ琉人。」
「綾か。もう行くのか?」
「ああ。…なんでお前も裏社会へ行くなんて言い出したんだ?」
「なんでとはなんだ? 古都が行くんだから俺も行くに決まっているだろ。」
「なぜだ。あいつはつい数日前に目覚めたばかりなんだぞ。出会って数日の相手のためにわざわざ危険なところにいくなんて変だろう。」
「当たり前だろ。友達なんだから。」
「? 友達とはなんだ。」
「友達は…一緒にいると楽しい人のことだ。」
「一緒にいると楽しい…か。よく分からぬな。」
「いつかお前もわかるようになるだろ。」
「…なるといいな。では行くぞ。」
友達か。私にはおそらく一生関係のないものだな。
その後、私は羅紗の後に続いて古都の所へ向かった。古都はしっかりと気絶して、地面に倒れていた。
と、いうより気持ちよさそうに寝ていた。こいつは危機感がないにもほどがあるだろう。
彼は五年前に爆発で私の両親を奪った。
私の人生を変えてしまった。
…それなのに憎む気になれないのはなぜだろう。
私は古都を持ち上げて、菊の手を持った。
古都のもう一方の手を琉人がつかむ。
「では菊、転移を頼む。」
彼女は私の手を強く握った。すると、そこから小さく光が出る。その光はやがて広がり、いつの間にか部屋を青い光で包んでいた。
「行ってらっしゃい。綾。」
「ああ、行ってくる。」
…久しぶりに彼女の声を聴いたような気がする。
彼女の声は消えてしまいそうなほどか細かった。
私の視界がぐにょんと曲がって、どこか遠い場所へ移動しているのが分かった。
意識がなくなるころには白い世界に取り込まれていた。
寒い。
ここはいったいどこだろう。
周りを見回すと、どこまでも黒い景色が広がっている。
僕はなぜここにいるのか。
体が動かない。まるで水の中にいるような感じだ。
小さな魚の群れがどこかに泳いでいく。
すると、ほんのりと光が見えた。
僕はそれに沿って歩いていく。
いくら歩いても終わりが見えてこない。
なぜか、息が苦しくなってくる。
僕は力が抜けて、ふらりと倒れた。
すると地面が液体のようになって、僕は沈んでいった。
ゆらゆらと水に揺られながら、僕は水面へと手を出した。
手をとってくれる人なんて誰もいないと思っていた。
そんな僕の手を、誰かがつかんだ。
「大丈夫?」誰かが言った。
僕は水の上に引っ張られた。
そこには一人の子供がいた。
紺色の髪
虹色の目
彼女は僕の指を優しくつかんだ。