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07 会議

 朝起きると、蒼に会議に呼ばれた。

 いったい何の用だろう。


 ——おそらく昨日の裁判のことに関する話だろうが。


 数日前に目覚めた犯罪者のせいで、私の人生は大きく狂わせられることになった。


 まず、ここの表社会を出て裏社会に戻らなければならなくなった。

 裏社会は私が最も嫌う場所だ。そこに戻れば日々犯罪者たちの悪意にさらされることになる。


 まあ、ここの表社会も安全な場所とは言えないが。だが、ここの裁判所と監獄は絶対に安全な地帯だ。

 強力な結界が張られていて、中にいれば安全だ。

 私はこの場所を、少しだけ気に入っていた。


 そして、私に居場所を与えてくれた亜羽様にとても感謝していた。


 だが、私は先日の裁判で犯罪者(雅古都というらしい)といっしょに裏社会へ行かなければならなくなった。

 もうここにはいられない。


 四年半近くここにいて、ここを自分の家のように思っていた。だが今日、ついにここから離れなくてはいけない。


(ひょっとすると、もう帰れないかもしれないな。)


 私は嫌な想像を振り払って会議室に入った。

 そこには昨日の裁判にいたメンバーが全員そろっていた。


 まず、一番手前の席に座っているのが〈雲龍 軌龍〉だ。

 昨日は予定があるなどと言って裁判に参加しなかったが、今日はちゃんと会議に参加している。

 彼の一族である雲龍家は最近名を馳せてきた殺し屋の一家だ。

 五年前まで全くの無名だった一族だが、ここ最近は誰でも知っているほど有名な一家だ。

 そして、基本的に無口だ。亜羽様に頼まれて、しばらくの間ここで働くことになっているのだそうだ。


 その奥にいるのが〈山吹 俊〉だ。いつも軌龍に無視されても懲りずに話しかけている。

 和菓子が好きで、いつも饅頭やら大福やらを口にくわえている。

 高度な植物異能を持っているそうだが、使っているところは一度も見たことがない。


 そのさらに奥にいるのが〈来世 楓璃〉だ。性別不詳。育ちも不詳。とにかくいつも何かをしゃべっている。そして、解剖やら実験やらが好きだ。一度彼の部屋を見せてもらったが、想像通りにとても趣味の悪い部屋だった。


 そして右側の席の一番手前が〈御園 一颯〉先日の裁判で古都に剣を向けていた人だ。基本的に喧嘩が好きで、いつも楓璃に突っかかっている。あの二人は仲がいいのだか悪いのだか分からない。今も二人で何か喧嘩をしている。楓璃の近くの席は嫌だったのか、彼の対角線上の席に座っている。だが結局喧嘩しているので席を離した必要はあまりないように見えた。


 右の奥に座っているのが〈蒼 沙羅〉で、銀色の髪にいつも数珠をつけている。いつも張り付けた作り笑いをしている。彼は〈蒼 羅紗〉の兄弟だ。どちらが兄でどちらが弟なのかは知らん。だが、羅紗の方が髪が短く見分けやすい。羅紗は先ほど私を会議に呼び寄せた張本人だ。


 その後ろに立っているのが〈鈴木 くるみ〉だ。確か珍しい異能を持っていて、沙羅に誘われてここに来たのだそうだ。バルシア族という一族で、耳から獣のような耳が生えている。そこに鈴とお札のようなものがついている。それと、なぜかいつも手が包帯でぐるぐる巻きになっている。


 そこで一番奥の席が二つ空いていることに気が付いた。一番奥の席は亜羽様の席なのだろう。その隣はおそらく羅紗のものだ。


(あいつめ……私を会議に呼び寄せたくせに自分は来ないのか?)


 羅紗は髪が短い方の銀髪だ。正直うさん臭くて嫌いだ。

 まあ、あそこの一族は基本的に全員そんな感じだが。

 そんなことを考えているうちに、やっと羅紗が部屋に入って来た。


「皆さん、これから会議を始めましょう。」


 すると、一颯が羅紗を睨んだ。


「おい、なんでお前が仕切ってんだ?」


「なんでとはなんでしょう? 今日は亜羽様は忙しくてこれないそうなので、私が取り仕切るよう言われているのですが。」


「亜羽様が来ないのは仕方がないが、お前が取り仕切ってるのが気に食わねえ。」

 一颯が羅紗を軽く睨んだ。


「まあまあ、二人とも落ち着いてくださいよ。会議が始められません。」

 俊が大福をほおばりながら言った。


「そうですね。では改めて会議を始めましょう。まずは、昨日の裁判についての話から始めますね。」

 羅紗は手元の資料に視線を落とした。


「先日話した通り、古都くんは裏社会行きへ決定しました。見張りとして綾さんをつけることとなっています。これについて何か質問はございますか?」

 一颯が手を挙げた。


「まず質問だが、綾にしたのはなぜだ? 他に適役はいくらでもいるだろ。あいつより強い奴はいくらでもいる。わざわざ異能力者を裏社会へ行かせる必要はないだろ?」


「それについては明言しませんが、ここに必要な戦力を残すためにはそれが最適解だそうです。」

 羅紗が言った。


「いや、もういい。気づいている。私は見捨てられたのだろう? 亜羽様に。」


 亜羽様は自分が必要とないと思ったものはバッサリと切り捨てる。

 裏社会は一度行けば、もう帰ってこれるかどうか分からないような場所だ。

 私が古都と一緒に裏社会へ行くことになったのは、もう必要がないと思ったからだろう。


「察しが早くて助かります。」

 羅紗は小さく微笑んだ。


「裏社会には菊を使って飛ばす予定です。すでに古都さんは気絶させてあります。あとは綾さんの準備が整い次第すぐに向かわせる予定です。」


「そうか……」


「それで? 会議の内容はこれだけ? わざわざ全員呼び寄せる必要はなかったんじゃない?」

 楓璃が首を傾げながら言った。


「いえ、ここからが本題です。……亜羽様は古都君を使い、裏社会をまとめて潰す予定だそうです。」


 その瞬間、辺りが騒めいた。

(裏社会を潰す? 聞いていないぞ。そんな予定。)


「どういうことですか? 羅紗。ふざけているのなら許しませんが。」


「ふざけてはいませんよ。沙羅。至って真面目です。」


「羅紗さん。ちゃんと説明をしてください。」

 くるみが小さく睨みながら言った。


「皆さんにはまだ言っていませんでしたね。最近、悪江家がさらに力をつけてきています。そのために古都君を裏社会送りにするよう私が頼みました。うまくいけば悪江家を滅ぼすことができます。」


 悪江家とは五年前の爆発でこの国がリセットされて以来、亜羽様と並びもっとも権力を持っている一族だ。亜羽様はこの表社会のある関東で力をつけていて、悪江家は黒社会のある近畿地方で権力を握っている。亜羽様はこれを機会に悪江家を滅ぼしたいと考えているようだ。


「五年前のテロのことを覚えていますか? 街は火の海となり、建物は吹き飛び、豊かな森は一晩で黒い炭となりました。それと同じ現象を裏社会で起こせれば、悪江家を簡単に落としてしまえるでしょう?」


「なるほど、つまり古都さんを利用して悪江家を落としてしまうということですか。そんなにうまくいくでしょうか?」

「大丈夫です。すでに餌は撒いておきましたから。」


「どういうことだ?」

 すると羅紗は気持ちの悪い作り笑いを浮かべた。


「そうですね……深くは話せませんが、一つだけ教えましょう。古都さんが悪江家を落としてくだされば彼の過去を教えるという取引を致しました。話せるのはここまでです。」


「ほう…なぜおまえが古都の過去を知っているのか気になるが、またいつか聞くことにしよう。」

 羅紗は本当に性格が悪い。あいつが餌や罠を張るときは大体二つや三つ仕掛けられているときが多い。

 彼が取引を持ち出して来たら、基本的に断る人はいない。


 正確に相手の弱点や弱みに付け込んでくるからだ。そして、今回も古都が断ることがないだろう。

 なぜなら、彼は自分の過去を知りたいと言っていたからだ。


 (私なら絶対にそんな餌に引っかからないがな。)

 心の中でそんなことを考えていたが、羅紗が発した次の言葉により私の意見は一変した。


「ああ、それと綾さん。無事に悪江家を滅ぼしたら表社会へ戻ってこられるように亜羽様に頼んでおきましたから。無事任務を果たしてきてください。」


「何っ⁉」

「失敗は許されません。絶対に任務を終えてきてください。」


「ああ。分かった。亜羽様のためなら何でもしよう。」

「良い知らせを期待しておきます。」


 良かった。私はまだ亜羽様には見捨てられていなかったのだ。

 それが分かって私は少し安心した。


 喜んでいる私をみて、羅紗は小さく微笑んだ。本当に性格が悪い。


「では、これで会議を終了します。皆さん部屋へお戻りください。あ、綾はあとで古都さんの部屋に来てくださいね。転移させますから。」


 こうして私は裏社会に行くことになったようだ。

 亜羽様の元に戻るため。そして、古都の記憶を取り戻すため。


(ああ、古都には協力しないと言ったではないか。)


 私は慌てて小さく首を振った。

 羅紗が不思議そうにこっちを見ているのが分かって、私は慌てて首を振った。

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