其の百四十四 勇魔狂奏・鎮魂曲第九節
ようやくシオン視点に戻ってきくるよ? たぶん。
「うーん?」
魔力の尽きた身体を動かし、緑に満ちた世界を駆け回る。
遠くでは勇者と爺が魔王と戦っている様子が見えるのだが…どうにもおかしい。
「囚われてるんですけど?」
何か、結界の中に閉じ込められてる。どれだけ走っても外に出ないし、人に出会わない。あるのは緑溢れる景色だけで、時折潜んでいる罠植物や植物獣に襲われる程度。
「これ、ヤバくない?」
今の私は魔力が尽き、妖力もまた尽きていると言っていい。
そんな状況で、どうやってこの結界を、あるいは世界を破壊すればいいのだろうか。
「空間を断ち切るだとか殴り壊すだとか、そんなもんはただの人間には無理。龍だけど」
何かしらの妖術を使えばあるいは? でもそれができるほどの妖力はハッキリ言って無い。連戦に次ぐ連戦、そもそもこの戦場への転移でだいぶ使ってたのだから仕方ない。
「仕方ないけど、それで諦めちゃダメだよねぇ…」
せめて魔力があればいくらでも打開できたのに。
「……………?」
………魔力。何か、忘れてるような…。
「あ! 思い出した!」
魔力がなかった時分に魔力を使った秘技!
「空間から魔力を奪えばいいんだよなぁ!」
ちょうどよく起き上がった罠植物を足場に、空へと跳び出す。
「この空間に、魔力は! あんまりない!?」
刹那、襲いかかる植物獣を蹴り飛ばして着地。即座に走り出しながら思考を回す。
いやいや、それは嘘でしょ!? だってこの空間全部あの魔王が創ったんでしょ? だったらアイツ自体私の魔力の産物なんだからあいつの作ったこの空間内は魔力で満ちていてしかるべきなのでは!?
「それでも、少しずつなら魔力を回収できるからまだいいけど…」
でもどうしよ。このままじゃ時間がかかりすぎる。ブレンデンが無事ならいいけど、動きの調整がうまくいかなきゃ意味はないし、あの箱がなくなっても霊斬は効力を発揮しにくい。
「それでもまぁ、どうにかできないことはないはずだけど」
結局さっさと私が抜け出して護衛に回ってしまうのが一番いい。向こうもあの二人で完全に【草創】の魔王を抑え込んでるみたいだし、そもそもあんな楽しい宴を邪魔するほど空気読めなくないし。
「あーあ、どっかに魔力回収効率のいいとこないものか」
たぶんあの魔王の周辺に近寄れば多少は魔力濃度も濃くなるんだろうけど。それは難しい。
かといって、このまま罠植物や植物獣を返り討ちにしながら魔力を集めるだけってのも何か違う気がする。
「・・・?」
・・・そもそも。
「こいつらって何なの?」
ふと、わんころを叩きのめしながら疑問を抱く。ただの植物にしては少し歪な気配を漂わせている気がするし、そもそも。
「いったん枯れた世界からいきなりこんなことになって現れた奴らとか、まっとうに種子から成長してるわけなくない?」
例えば、そう。
「魔力で模られた獣に、【草創】、【色欲】の権能が悪さしてこうなってるだけなのでは?」
私の【死霊術・神獣】のように。魔力で作られた人工生命、いわば、造花のような。
「だったらお前らからも奪えるのでは? 魔力を」
たぶん、今の私はいつになく恐ろしい笑みをたたえていることだろう。
「人龍」
目覚めた龍の血脈が熱を発し、左目が縦に裂け、龍鱗に覆われた腕が生える。
「こうゆーのは、より密接に触れるが吉」
大口を開けて跳びかかる獣の口に右腕を突き込み、その牙代わりの茨を強く握る。ついでに、そのまま振り回して周囲の奴らを巻き込み圧殺。一対一になったところで地面にねじ伏せ───
「それ、ちょーだい?」
獣の体内を血液のように廻る魔力を簒奪する。
「おっと?」
途端、力を失ったかのように形を保てず崩れ始める獣。しかし、その存在が消えることはなく、今度は植物としてその地に根付こうとし始めた。
「うーん、やっぱり」
完全に魔力だけで作られてるわけじゃないから幽霊みたいに除霊されることはないか。しかもこれでもまだ植物として時代に繋ごうとしているんだから厄介だ。
「でも、ま。目的は達せるかな」
こいつらからならそこそこの効率で魔力を回収できる。少なくとも大気中の魔力を吸収するよりは圧倒的にいい。簒奪後に植物になり果てるのも、去り際に踏み固めてやれば問題はないし、大した手間でもない。
「そんじゃ、魔力簒奪RTA、始めようか」
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「で、何これ」
魔力を集めて結界破壊魔王パンチをして結界の一部に穴を開けたのはいい。ただ、そこからが想定外だ。
てっきり、今頃外は死屍累々、バケモンどもだけが暴れて戦線を維持してるものかと思ったら。
「枯れたり栄えたり燃えたり、この戦場は一体どうなってるんでしょうか?」
世界が燃えていた。真っ赤に真っ赤に燃えていた。世界は煙で燻され暗くなり、しかし燃え盛る炎で茜色に染まる。朝か夜かもわからないほどに、赤く、暗く。終末の訪れを暗示するが如き様相であった。
「煙は人体に害悪だけど、よくよく見ると細かな泡沫の光があるあたり、【希望】のリジェネ効果で問題はなさそう」
ちなみに私含め龍はそもそも呼吸をしなくとも生きられるようなのでこの程度いくら吸っても問題ない。それでも吸っててあまり気分のいいものではないが。煙臭い。
「さておき、さっさと助けに行ってやるか。ヒーローは遅れてやってくる、ってね!」
女の嫉妬は恐ろしい、ってね。
あと、山火事に関しては……まぁ、そういうこともあるよね。多分誰かが燃やしたんだよ。植物に炎は弱点、今時小学生でも知ってることなんだから。実際のとこ、あの植物はそこそこ、というかかなりの火炎耐性ついてたと思うけども。
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舞台は変わり、騎士と戦乙姫、魔女が交錯するそこでは。
「殺す!」
「ちょっ!? シャル!? 何してんすかっ!? 俺らは味方っすよ!? もうちょい俺らを巻き込まない攻撃を──」
「その名で、呼ぶなぁ!」
「ちょっ!? 悪かった! 悪かったすから! シャーロット! シャーロットやめるっす!?」
「うるさい!」
「なんでぇ!?」
世界の命運をかけた戦場にもかかわらず、盛大な痴話喧嘩が勃発していた。
なお、そこに巻き込まれた、あるいはそれを引き起こした元凶ともいえる魔女は。
「ハハハハハ!!いいぞぉ!もっとやれぇ!」
「あんたはもっと止めろっす!?」
「あァ?」
「これ謀反起こされてんの主に俺よりそっちっすよね!? ちょっとは焦ってくれっす!」
「あー、アタシはそこのイカレた騎士を守んのに忙しい」
無責任に狂騒を煽っていた。
「イカレたって…今はブレンデン団長よりシャーロットのほうがイカレてると、思うんすけど!?」
「殺す」
「それもそうだが…アタシ的にはこの状況で一切乱れず剣振ってるこいつのが怖え。気味悪ぃ」
「そんだけ俺らを信じて集中してるってことっす。だから、これを傍観するのは許すんで、俺らが斬り損ねた分は守ってくれっす」
「っけ、しゃあねぇ。さっきから賊から守られるお姫様扱いされて気分も悪くねぇし、そんくらいは働いてやらぁ」
「任せるっす」
わざわざシャーロットの目を見てニヤニヤとしながら紡がれるその言葉に、戦乙姫は。
「ッッッッッッ!!!!!」
激昂した。
「ついでにそいつの捨ててたなんか魔王の気配がする箱も回収しといてやる」
「っ!頼むっす!くれぐれもなくさないでくれっす!」
「おう、任せろ」
怒髪天を衝き、一段と、いや、数段と力が増し、パンドラの箱を敵味方の区別なく守りだした。なお、
「ちょっ! なんでこっちに斬撃が飛んでくるんすか!? 必要ないっすよねぇ!? つーかいつの間に同時斬撃覚えてんすか!?」
魔女への正当かもしれない怒りと、ヨハンへの八つ当たりが止まることはなかった。
GW、終わってしまいました。地獄に戻らなくては……。
〈おまけ:知らなくても問題ないけど知るとちょっと笑える秘密〉
今回の議題:【草創】の魔王の発動した【緑の世界】以降に生まれたすべての植物について。
1,【緑の世界】発動により、周囲にまき散らされた魔力から「魔力植物」が生み出される。(シオンが死霊術でいろいろ呼び出してるのと一緒)
2,「魔力植物」はあくまで自然の植物によく似たいわば造花に過ぎないのだが、そこに【色欲】の権能、より正確に言えば【草創】の権能(権能保持者が植物のため)が働き、「魔力植物」をそういう種類の植物(種)として定義、自身の進化先の一つとして認識。
3,魔力で強化され自立行動を見せるもの(植物獣や罠植物)や、大気中の水分や光、その他諸々から魔力を産生するものなどに分化。また「魔力植物」も植物なのでもとになった植物と同様に種子を飛ばして繁殖もする。
結果:全ての植物を滅ぼさなきゃいけないのに「魔力植物」がある限り本体の魔力が際限なく回復し何度でも【緑の世界】を発動可能な世界のバグが発生した。永久機関ってやつ?
なお、作中キャラでこれを知るものはまだいない。でもどこぞの邪神呼ばわりされてる奴なら気づいてるかもね。
以上、GW期間にほとんど投稿できなかった詫びの情報開示でした。
あとヨハンに関してはもうちょっと待ってね。多分次あたりで〈騎士道〉くんの説明が入るはず…入らなかったら戦争終結後の後日譚でいれるはず。




