俺はスーツを脱いだ
「どうも、ハッタリ一号です」
「ハッタリ二号です」
「今日はスペシャルゲスト、健忘症のお二人です」
「それ、僕らのことやん」
「我々芸人というのは」
「わかった、わかった」
「苦悩して大苦戦して、じたばたして今日この日を迎えられました」
「あのなあ」
リハーサルはこんなもんか。でも、リハーサルのほうが上手くいくことのほうが多い。人生もそうなのかも。楽屋にて。今日、この劇場、倒産する。俺達、次を探さなければ。ブジテレビという民放が俺達を撮りたいという。でもなぁ。ギャラは100万。今日、劇場横の銀行で記帳した。1000000。振込、ブジテレビ。俺等でいいの。
「ハッタリさん、お願いします」
支配人は泣いていた。今日をもって、解散。したいと、二号に告げたい。でも、それは総選挙して再結成だろうが。こいつ、漫画を見て、笑ってる。起死回生のホームラン、断崖絶壁。シークレットにどっちやねん。ワサビいるか。
「ハッタリさん、二番にお電話です」
「もしもし」
「お前らな、漫才をファッション化してるやろうが。俺が誰だかわかるんか」
「わかりません」
「匿名希望」
「あんた、誰や」
ツーツーツーツー。さて、舞台。最後のファイナルだ。俺の横にはハッタリ二号。俺もテレビに出てしまうのか。おかん、元気かな。
「どうも、ハッタリです」
「それにしても、満員大入り、ありがたいね」
「せやね。そういう君は、さっきまで漫画読んでたやん」
「どうせね、ハッタリなんでね。おじいちゃん、見てますか」
「おじいちゃん、富田林に住んではる」
「それ、個人情報ですよ」
「まあ、スマホ、スマホ、言うて」
「変な世」
「世にも。Wi-Fiとか、わけわからん」
「それは君の言う通りや」
「ちょっと、屁こいた」
「くさいがな」
「まあ、一応」
「でも、君しかし、お客さんの反応見てるか」
「笑ってくれてるやん」
「どっかーんどっかーん」
客席に、「ありがとうハッタリ」と記された日の丸が一本。日本か。
「今日、皆さんに言わなきゃならんことがありまして」
「何、自分、カッコええな」
「この劇場が倒産することになりました。ですから、これが、ここでの僕らの最後の舞台です」
泣けてきた。思い出せ。忘れるな。根拠なき根拠。
「来週からブジテレビさんのほうで僕らはお世話になります」
泣けてくる。泣けてくる。泣けてくる。
「君、何、泣いてるねん」
「ごめんちょー」
客は帰り始めた。やっぱり、テレビよりここがいい。この劇場が良い。緊張緊張。
「僕ら、今日で解散します。一号と二号は」
楽屋。
「ハッタリさん、二番にお電話です」
支配人が大入り袋を号泣しながら、持ってきて、俺は頭を下げて、受け取った。
「お前ら、漫才をなめとんか。なめとんのか。えっ、ハッタリよ」
「お前こそ、誰やねん」
電話が切れてスマホが鳴った。
「ブジテレビの大隅と申します」
「ちょっと、休ませてください。今、舞台、終わったばっかりなんで」
「失礼しました。ハッタリ師匠。後ほど、おかけ直し致します」
どこまでも、笑いという旅は続くのか。
アパートへ帰る。美由紀の背中を流す。お腹が大きく。
「どうしたいいと思う、美由紀は」
「そうだな、休んじゃいなよ。ハッタリさん」
「今、話題の活動休止か」
「それでいいじゃん」
「イタイな、それ」
「痛くてもいいじゃん」
「そうだな」
俺は芸人か。俺は芸人だ。ラジオにはダウンタウン。俺は、スーツを脱いだ。




