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第四十四話「秘密の王座の間」

「あの野郎っ! アガレス様の部屋に閉じこもりやがったぞ!」

「袋のネズミだっ! 縛り上げる縄を持って来いっ!」


 大ホールから繋がる通路内がドタバタ騒がしい状況で、スヴェン達はどさくさに紛れて移動した。

 壇上に登り、そこからさらに奥へと続く通路へと入る。

 通路は直角に2回ほど曲がり、その突き当りにあったのは四方に石の彫刻が施された小部屋である。


「行き止まりだ。アモイさん……こっちも駄目だったみたいだ」

「他に隠し通路でもあるのかしら……」


 スヴェン達が元来た道から誰か来ないか警戒する中、アモイは壁の一方にある巨大な口を開いたドクロの彫刻に向き合っていた。


「ゴルガン・スペラはこの遺跡の部屋部屋を調べている内に、遺品として残された二つのガントレットに着目した」


 アモイはバックパックから骨製のガントレットを取り出し右手に装着した。


「そのガントレットは趣味の悪い、ただのいびつな形の骨ガントレットにしか見えなかったが、ゴルガン・スペラはその形状が、骨という不均一な素材から作ったにもかかわらず、精密に形が一致していることに着目した」


 アモイはガントレットをはめた右手をスヴェンとリンにかざして見せる。

 そのガントレットはあちこちに大小様々なコブが不格好に突き出していた。


「リンちゃん、鍵のギザギザがどういう仕組みで鍵を開けるのか知ってるね?」

「低品質な鍵はただ回転を邪魔する形の板が並んでるだけね。針金一本で開くわ。

 最近の高品質な鍵は串のように並んだ金属棒が鍵のギザギザ部分にバネでスライドして密着して、それぞれの棒に刻まれた切れ目が一直線に揃うと鍵が開くわ。まぁ私なら針金一本で開けるけど」

「リンに鍵の話を聞くと色々怖くなってくるよなぁ……」


「その通り、最近の鍵はギザギザのパターンがきっちりはまって、隠された刻みが一直線に並ぶと開く」


 アモイが解説している間にもホールの方から邪教徒の声が響く。


「部屋に誰も居なかったそうだぞっ!」

「このフロアに居るはずだ! しらみつぶしに探せっ!」


 アモイはガントレットを嵌めた右手を、骸骨の彫刻の口へと突っ込む。


「最深部の骸骨の彫刻の奥を観察していたゴルガン・スペラが気が付いた。

 この骸骨は咀嚼出来る造りになっている。そして……」


 アモイは右手を骸骨の喉の奥まで突っ込むと、左手で骸骨の下あごを閉じるように持ち上げた。


「このガントレットは隠された金属棒を一直線ではなく、平面で揃える鍵だったんだ」


 アモイの右手のガントレットに無数の細かな金属棒が上から押しあてられた。

 アモイはその状態で骸骨を奥へと押す。

 すると骸骨の彫刻はズルズルと壁へ潜り込んだ。

 同時に壁の一部が横へとスライドし、さらに下へ続く階段が現れる。


「凄い、そんな仕掛けが……」

「まだ現代の技術も追いついていないんだ。たいしたものだよ」

「早く行きましょう、じきにここにも邪教徒が来るわ」


 3人は現れた下り階段へと駆け込む。

 3人が階段を降りてしばらくすると、再びズルズルと音を立てて扉は閉じた。

 その直後、二人の邪教徒が小部屋へと駆けつける。

 だがその部屋に何もないのを確認して立ち去った。


 階段を降りるとそこは長方形の広間となっていた。

 真正面の奥には荘厳な飾り彫りの彫られた石の王座がある。

 アモイは興奮しながら解説する。


「あの王座が死霊の王が腰掛けた王座、そしてこの部屋の壁には戦いの歴史が彫刻として残されている。左側の巨大な彫刻が人類との闘いの様子、右側には死霊の王とその忠臣の等身大の彫像があった」


 リンが左側の壁に近づき、巨大な彫刻を見て感心する。


「凄いわ……。これが何万年も前の遺跡だなんて……今でもこれほどの物を作れる石工は滅多にいないわ……」


 壁には高さ2メートル、幅5メートルほどの大きさで人類と死霊の軍の戦いの姿が彫刻されていた。

 右側には鎧を着た死霊の王と、それが率いる骸骨の軍団、左側には人類の姿、そしてその中には6枚の羽を持つ小さなフェアリーの姿もあった。

 アモイが彫刻を見て感嘆する。


「本当に……毛皮の服と槍とこん棒だね……。人類の中にも指導者のような人間がいるみたいだ。それに……これフェアリー?」

「……常々ダサイと思ってたのよ、あのダイアデム……」


 リンは6枚羽のフェアリーの彫刻を見て呟いた。


「昔のフェアリーは羽が6枚だったのかな? ……・リンちゃん?」

「女王族は今でも6枚よ。そしてあのダイアデムを今でも付けてるわ。歴代女王が継承するの……」


「なんとっ! スヴェン君凄いよこれ、見てごらんよ……スヴェン君?」


 スヴェンは死霊の王の彫像の前でハルバードを置き、言葉を失って膝を立てて座り込んでいた。


「どうしたんだい? スヴェン君」


 アモイが近づき、死霊の王の彫像を見て同じく絶句する。

 死霊の王は漆黒のフルプレートで身を包み、剣を刃を下に向けて杖のように立て、両手で柄を掴んで直立していた。

 等身大の死霊の王が持つ、等身大の剣。

 それはまさに、セルバゼイの遺跡で発掘し、シェイドが愛用していた赤い宝玉の剣だったのである。


「……なんか見た事がある剣だね」

「シェイドの……まぁ、よくあるデザインよ」

「等身大だもの。僕はずっと近くで見てきた。間違いない。これはシェイドが持ってた剣だ」


 しばし気まずい沈黙の時間が過ぎる。

 スヴェンが彫像の台座にあるプレートを指さしてアモイに尋ねる。


「あれは何て書いてあるの?」


 アモイはバックパックから手帳を取り出して一致する文字を探し始めた。


「えーと、どこかで見たような……そうそう、海底で見つかった遺跡を研究した人が居たんだよ……これは表意文字、文字がアとかイとかの音を現すんじゃなく、意味を現す珍しい文字だね。

 え――と? 影の……王……」

「……シャドウ・キング……」

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