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第四十一話「トラップ回廊」

 点々と存在する燭台で薄暗く照らし出された石造りの廊下をリンが飛んで進む。

 そのすぐ後をアモイが周囲をキョロキョロ見回しながら必死で追いかけていた。

 しばらく進むと二人は十字路に突き当たった。


「はぁ……はぁ……、こういうダンジョンではこういう曲がり角では……」

「右よ。十字路を右へ。その先にはトラップだらけの曲がりくねった回廊があって、その先が下へと続く階段になっているそうよ」


「そこまで聞き出してたのか。あの邪教徒は相当虫が嫌いだったんだね」


 リンは十字路を右に曲がり、アモイも右へ曲がって進みかけ、一歩下がって元来た道を見る。

 そしてこちらへ走って来るスヴェンを見て手招きをしてから再び走り出した。

 そこからさらに一本道の廊下を三回ほど角を曲がって進むと、廊下は行き止まりとなっていた。

 そして廊下の突き当りには小さな鉄の扉がある。

 その扉を開けると幅3メートルほどの通路が伸びる。

 距離は15メートルほど続き、さらに右へと曲がっていて先が見えない。

 それを見たアモイは腕組みして唸る。


「オイラは幾つもの遺跡を探検してきた経験から分かる。こうやって視界を細かく塞ぐ道は突発的なトラップが良く仕掛けてあるんだ。

 気が付いたらもう逃げることが出来ず手遅れなトラップがね」


 立ち尽くす二人の元にスヴェンも追いつき、先の道を見て状況を察した。


「リン、邪教徒からトラップの解除方法とか回避の仕方とか聞いてないの?」

「……ごめん。忘れてたわ。私の場合いつも空を飛んでるし、体も小さくてあまりトラップに掛からないのよね」


「まいったな……。入り口近辺の邪教徒達は閉じ込めてきたけど、ここで立ち尽くしていていつまで持つか分からないよ」

「二人とも静かに」


 アモイは石畳の床にへばりつき、耳を床石に当てていた。

 そしてスヴェンに床の一点を指さす。


「スヴェン君、そこに思い切りハルバードの柄を突き立てて音を立ててくれ」


 スヴェンは体を半回転させて勢いをつけ、示された石畳にハルバードの柄を打ち付けた。

 ガァンという音が響く。


「……どう? アモイさん」

「……吊り天井や押しつぶす壁といった派手なトラップってのは床下に物凄く大規模な仕掛けを作る物なんだ。

 でもここにはそれらしき空洞は無さそうだ」


 アモイは腹ばいのまま手帳を取り出し、方位磁石を確認しながら定規を使ってマッピングを行っていた。

 ある程度書き終わると上半身を起こして元来た道を見て六分儀で何かを計測して追加で手帳に記述を行う。

 それが終わるとアモイは立ち上がり、服に着いた砂埃をはらう。


「オイラが先頭を行く。二人ともオイラの後を付いて来てくれ。不用意に周囲のものに触っちゃだめだよ?」


 アモイはゆっくりと狭い通路を歩き始めた。

 その後にスヴェンとリンが続く。


「壁から弓や刃物が飛び出すトラップの場合、それが飛び出す隙間を巧妙に彫刻やデザインで誤魔化していることがある。

 でも見たところ完全にまっ平なブロックの壁。

 何かが動いて削れた箇所も見当たらない」


 アモイは歩きながら天井を見る。


「天井から振り子式の刃物やスパイクウォールがブランと落ちてきて目の前で雇った人夫が即死した事もあった。この手のトラップが落とし穴に次いで多いんだよ。

 構造が簡単だし、重力という何千年経っても変わらず蓄積し続けることが出来る力を使うからね。

 そういう場合は仕掛けを隠すために、天井がその部分だけ窪んで影になって居たりする。

 あそこなんかそうだね」


 アモイが指し示した天井は途中から一段と高くなるように抉れた造りになっており、その先が暗闇となっていた。

 アモイは立ち止まり、注意深く観察する。


「こういうトラップには必ず起動の仕掛け、トリガーがある。

 床石の一部がスイッチになって居たり、よくある偽装として蜘蛛の巣が使われることも有る。

 特にレッド・タイガー・スパイダーの糸は鋼のように強靭なのに普通の蜘蛛の糸より細く、暗闇ではほとんど見えない。

 でもここは比較的分かりやすかったね。

 床石を見てごらんよ。

 明らかに右側がすり減って左側が全然削れていない。多くの邪教徒が毎日行き来しているってことだね。

 スヴェン君、リンちゃん。通路の右側端で腹ばいになってくれ」


 スヴェンとリンは言われるまま通路の右端で伏せた。

 アモイも同じように伏せると、近くに転がっていた石ころを通路の左側に投げる。

 石ころは宙を飛び、何もないように見えた空間で何かに引っかかってボヨヨンと横へそれる。


 ガタ――――ン!


 天井からたくさんの槍が付いた丸太のようなものが出現し、通路の左側をフルスイングした後ブラブラと揺れる。


「今のって空中に糸が張ってあったの?」

「そうだね。空中浮遊の魔法は結構歴史が古い。意外と対策されているものなんだ」

「……これから注意するわ……」


 アモイを先頭に再び一行は進み、回廊の入り口から見えていた一番奥まで辿り着いた。

 通路は右へと曲がるようにしてUターンし、さっきの通路の隣を今度は戻るような直線になっていた。

 今度は左右の壁に複雑な彫刻が彫られており、一番奥には下り階段があった。


「今度は左右に彫刻があるわね。弓や矢や刃物が飛び出しそうな隙間だらけよ。

 ゴーレムでも召喚して先に行進させる?」

「いや、少なくとも左右の壁にトラップは無いよ」


「ええぇ? どうして分かるの?」

「隙間が無いんだよ。通路の右側はさっきオイラ達がトラップを避けて通って来た道。

 通路の左側はその前にオイラ達が走って来た道」


 アモイは手帳に作られたマップを二人に見せた。


「左右の壁は20センチほどの厚さしかない。仕掛けを作るには狭すぎるんだ。

 ただし一番奥は怪しい。

 オイラ達は今までの道をずっと直角に曲がって来た……そう感じたよね?」

「違うの?」


「意図的にゆがめられている。一番奥の左側の壁は少し厚くなっている。

 そこは注意しないといけない。じゃぁ行くよ。

 またオイラの後を付いて来て」


 再びアモイを先頭に一行は慎重に通路を進む。

 アモイの言う通り、左右の壁から何かが発射される気配は無い。

 最後に階段に辿り着いたアモイは階段直前の床にある幅広の石のパネルに注目し、しゃがみ込んでじっくりと観察していた。


「……なぁるほど。人が日常的に通った跡と罠ですり減った跡、両方があった訳だ。

 3人一緒に進むよ」


 3人は一緒に最後の石のパネルに足を踏み入れた。

 左の壁からカラカラという音が鳴り響き、3人が今まで歩いてきた通路の床が真ん中で割れるようにしてパカッと開き、通って来た通路が丸々深い落とし穴となった。

 下には無数の剣が突き出ている。


「ア……アモイさん……。落とし穴だと分かっててその上を歩いてきたの?」

「人がいっぱい通った跡があったからね。トリガーさえ引かなければ大丈夫だと思ったんだ」

「ゴーレムだけ行進させてたら落ちてたわね……私以外」

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