第四十話「悪魔の番犬」
変化魔法で邪教徒に変装したスヴェンとアモイ、そして体が小さいので姿など特に気にしないリンの三人は邪教徒達が集団で居住する遺跡の内部へと足を進めていた。
廊下の左右には一定距離ごとに三脚の付いた燭台が左右に置かれ、薄暗い明かりで中を照らし出している。
入ってしばらく進むと、廊下は途中から真っすぐ下へと続く石の階段へと変化する。
「酷く風通しの悪そうな所だね。ジメジメしてるし、なんか臭いよ。邪教徒達はよくこんなところで生活出来るね」
「少なくともドラゴンに突如襲われる心配は無いからだろう。だがこんな場所で生きてたら心が歪むのも無理ないかもね」
「扉があるわ。簡単な鍵がかけられてると言ってたわ」
下り階段が終わり、さらに少し先まで伸びた廊下の先には金属製の扉があった。
「鍵は貰って来たの?」
「ほとんど誰も持ち歩かないそうよ。邪教徒達はその信仰の一環として全員がある程度の魔法を身に着けているそうよ。つまり……」
「こういう事か」
アモイは解錠の魔法を唱え、扉に掛けられた鍵を外す。
金属扉の内部からガチャリという音が聞こえ、鍵が外された。
三人は扉の左右に立ち、スヴェンは片手でハルバードを構え、片手で慎重に扉を音を立てずに開く。
扉の先に見えたのは石の床と石の壁の続く通路と、点々と置かれた火の灯る燭台だけである。
通路は5メートルほど先で右へと直角に曲がっていた。
スヴェンはゆっくりと扉を開き切ると、黙って後ろに手招きしながら中へと進む。
そして通路の曲がり角の壁から顔を出して先を見た。
リンもスヴェンの頭の上から顔を覗かせる。
曲がり角の先はさらに10メートルほどの通路が続き、突き当りがT字路のようになっている。
そしてそこにはワインレッドの毛で覆われた三匹の犬が居た。
一匹は廊下の端で丸まってうずくまって目を閉じて眠っており、二匹は尻尾をふりながら奥の方へとトボトボと歩いている最中である。
3匹とも首輪などしておらず、もちろん繋がれても居ない。
そしてスヴェンを驚かせたのはもっと別な事であった。
背後からアモイが小声で尋ねる。
「どうだった?」
「アモイさん……、犬が三匹放し飼いになってるんだけど……そんな事よりも……」
「うーん。可哀想だが手荒な事をするしかない……。そうだ丁度こっちも三人居る。一斉にサイレンスの魔法を三匹にかけて吠えられない様に口を封じて、それから……」
「三匹とも首と頭が二つあるんだ」
「へ?」
「あれは多分エビルハウンドよ。この世界の生き物ではないわ」
「詳しいんだな、リン。僕はあんなの初めて見たよ」
「デーモンを召喚する時に、ごく稀に紛れ込んで来ちゃうのよ。あいつら口からファイヤボールを吹くわよ」
「……勘弁してよぉ……」
「吠えるの?」
「超吠えるわ」
「そうかぁ……。アモイさん、遺跡内部の詳しい地図とか日誌の記載は?」
「複数の階層構造になった複雑な造りだったとしか……。残念ながら沈没船から引き揚げた宝箱にもそれらしき物は入ってなかったんだよ。
まさかこんな状況になるなんて……地図の在り処が命を左右する時に……」
「この遺跡はたしか、兵の駐屯地だったんだよね?」
「そうだよ」
「つまり入り口近くに配置されるのは奥へ行く通路と、兵士達が侵入者に即座に気が付いて対応出来る待機所だ。
リン、経験とカンが頼りだ。アモイさんを頼んだよ。あとアモイさん、そのロックピックを一本借りるよ」
「な、何をする気なんだスヴェン君、分かってるとは思うけど隠密作戦だからね?
こっそり潜入なんだからね?」
「オーケーよ魔法の夜。行ってらっしゃい」
スヴェンはハルバードをくるりと回して構えなおし、通路の先へと突撃した。
二匹のエビルハウンドが振り向いて唸り始め、眠っていたもう一匹も目を開けて立ち上がる。
グルルルルゥ!
ガルルゥ!
エビルハウンドは次々とスヴェンに向けて口からファイヤーボールを吹きだした。
スヴェンは右へ左へとかわし、猛烈な火の攻撃でかわしきれない物を片腕で顔を庇いながら受けつつ突撃する。
「誰だっ!」
「侵入者だっ! 侵入者がいるぞぉ!」
邪教徒達が騒ぎ立てる声が聞こえる。
「スヴェンくぅん……何やらかしてるんだ……」
アモイは頭を抱えてその場に崩れ落ちる。
スヴェンは飛びかかる三匹のエビルハウンドの攻撃をかわし、一匹をハルバードで打ち付けて傷を負わせながらT字路へと辿り着いた。
すかさずレッサーヒールの魔法で傷を回復しながら左右をキョロキョロ見回し、右側へと走る。
そこには別の大きな金属扉が有った。
スヴェンはエビルハウンドに追われながら扉に向けて飛び蹴りし、強引に開けて飛び込む。
「な、何者だぁ!」
「取り押さえろぉ!」
部屋の中に居た五人の邪教徒が素早く攻撃魔法を唱えてスヴェンに放つ。
だがスヴェンはエビルハウンドに追われたまま部屋の周囲を、ベッドに飛び乗り、机に飛び乗り、椅子を蹴り倒しながら駆け回った。
「はぁぁぁ! どうしよう! ホントどうしよう!?」
廊下の角で隠れながら頭を抱えるアモイの傍でリンはT字路の様子を伺い続けていた。
三人の邪教徒が追加で左の通路から走って現れ、スヴェンが大暴れしている部屋に駆け込むのが見えた。
「アモイさんっ! 今よ!」
「えぇ!?」
リンは素早く廊下へ向けて空中に飛び出すとT字路へ向けて進む。
「ま、まってくれぇ……」
慌ててアモイもリンの後を追いかける。
二人はスヴェンが大暴れする右の部屋ではなく、左の廊下へ向けて素早く移動した。
部屋の中で大立ち回りの中その姿を確認したスヴェンは、テレポートの呪文を詠唱して一瞬で部屋の外へと出た。
そして大勢の邪教徒とエビルハウンドを部屋に閉じ込めたまま素早くガチャンと扉を閉めた。
さらにロックピックを鍵穴に強引に差し込み、ポキリと折る。
締めに魔法を極めた魔法剣闘士による、マジックロックを詠唱して扉を封鎖する。
「ち、畜生! 閉じ込めやがった!」
「開けろこの野郎!」
「な、仲間に知らせろ! 大声を出せ!」
ガンガンと扉が叩かれる音を背にスヴェンはアモイとリンの後を追った。




