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第三話「監獄での取り調べ」

 リンはカルフンガリアの隅にある石造りの巨大な建物、監獄の地下の牢屋へと送り込まれていた。

 フェアリー故に体が小さいので、小型の金属製の檻を急遽取り寄せてその中に閉じ込められている。

 その檻は牢屋が並ぶ石造りの廊下の一番端に置かれていた。

 牢屋に入れられた囚人が珍しそうにリンを指差して同じ房にいる囚人に話す。


「おい、フェアリーだぜ、あれ。善なる妖精のフェアリーが犯罪者とか」

「ぷっ、傑作だな。何やらかしたんだろう?」

「おい! そこのフェアリーの姉ちゃん! あんた一体何をやらかしたんだい?」


 檻の中で腕を枕にして横になっていたリンは、寝返りを撃って囚人に背中を向けて言った。


「デーモン3匹召喚して人を襲わせた罪、魔法で無差別に人を攻撃して戦士二人と魔法使い一人に重症を負わせ、その他15人に軽症を負わせた罪、スリの容疑8件、あとは過去の余罪のスリと泥棒200件以上……」

「おみそれしやしたぁ! これ程の(ワル)の大先輩だったとは!」

「姐御と呼ばせて下さい!」


 刑務官らしき男二人が廊下を歩いて近づいてくる。

 そしてリンの檻の前で止まった。


「ねぇちょっとっ! いつまで私をこの大型犬用の檻に閉じ込めとくつもりよ」

「フェアリーサイズの牢屋なんて誰も想定してなかったから無いんだよ。

 諦めろ。

 それより取り調べの時間だ。」


 二人の刑務官はリンを檻ごと前後から持って運びだした。

 監獄の並ぶ廊下を出て、階段を登って移動し、重厚な木のドアを軋ませて大きな部屋へと入った。

 中央にあるテーブルにリンの入った檻が置かれ、二人の刑務官は外に出て待機する。

 目の前にはデップリと太った審問官が書類を眺めながら椅子に腰掛けていた。


「どうも。私はこれから君を取り調べる審問官。コネリーだ。

 それにしても長年この仕事をやってきたけども……初めてだよ。フェアリーの取り調べをするのは」

「はいはいそうですか」

「カルフ三叉での君の容疑は既に認めていたね。潔くていい事だ。

 問題は君の過去、スタグランドでの容疑だ。

 ……正直大変だったよ。積極的な情報提供の協力者が大勢押し寄せてね。

 君、相当大勢の人達に恨まれているね」

「……」

「聞き取りしただけでもこれだけの容疑が有る」


 審問官は机の上に山のような紙の束をドンと置いた。


「それではまずスタグランドの銀行前で君に700ゴールドと真珠の指輪が入ったサイフを盗まれたという羊飼いの女性の……」

「嘘ばっかり……、バレないと思って盛ってるわね」

「んん? 君は盗ったんだね?」

「盗ってません。見ていた人もいません」

「だが君に盗まれたと本人が証言しているぞ?」

「証拠が有りません」

「……では君の魔法で重症になった上にバックパックから飾りナイフを奪われたという戦士の訴えを……」

「正当防衛です。衛兵さんが目撃しています」

「……あとこの戦士からの伝言がある。『遂に捕まったか。ザマアミロ。スタグランドの仲間達と今夜は祝杯だ』だそうだ」

「……」


 リンはあくびをしながら延々と続く質問に適当に答えていた。

 その内、隣の尋問室で別の囚人らしき者と審問官が話し始め、リンはそれを聞いて気を紛らせ始めた。


「それではマスールよ、もう一度デスクレセント島で君が見たものを聞かせてもらおうか」

「審問官、もう何度も話したとおり俺はデスクレセント島の広場で弾き語りをしていただけなんだ」


「デスクレセント島へ向かう海軍の船を見て、沖で一人で小舟に乗っていた君は逃げ出したそうじゃないか」

「……だから、俺は……元海賊だからよ……脛に傷くらいあるさ」


「では広場で何が有ったのかね?」

「その日はいつも通りの穏やかな晴れた日だった。

 広場では元賊共が……昔からの生活と同じように露店や屋台を出し、通行人で賑わっていたんだ。」


「盗品や強奪した品を売る市場かね?」

「とんでもない。赤猫旅団が滅んでから皆……大体の奴らはまっとうに生き始めたんだ。街はこれからだったんだよ。

 だがその広場にずぶ濡れのローブを被った男がヨタヨタとやって来た」


「続けたまえ」

「変な奴はたまにいるから通行人は皆そいつを避けて通っていた。

 だが一人の通行人がぶつかって、フラフラと無視して進むそいつに掴みかかった。

 そして顔を覗き込んで悲鳴を上げて逃げていったんだ。

 俺の前を通る時、俺は興味を持って頭まで隠すフードを被ったそいつの顔を覗き込んだ。

 声を上げそうになったね。

 片方の目はぽっかりと開いた空洞、もう片方はまぶたの無い剥き出しの目玉、まるで水死体の顔さ。

 そいつは迷わず広場の真ん中へとヨタヨタ歩いて行った。

 俺は気味が悪くて、なぜだか恐ろしくて出来るだけその場から離れたいと思ったんだ。

 そしてマンドリンを持って広場の外周へ移動しながらそいつを見た。

 人々が不思議そうに見つめる中、そいつは広場の中央で両手を広げて高く上げた。

 そして何か呪文を唱えていた。

 すると空全体を信じられないスピードで雲が覆って太陽を隠し、周囲はまるで嵐の日のような暗さになった。

 そしてそいつの周囲を囲むようにいくつもの井戸みたいな穴が地面に開いたのさ。」

「井戸?」


「井戸くらいの大きさの穴さ。8つくらいは有ったと思う。

 とたんに周囲の通行人や露店の店員達がはね飛ぶように近くの穴へと吸い寄せられて、バッシャンバッシャンと井戸の中に引きずり込まれていった。

 ヤバイと思った俺は一目散に逃げたさ。

 この時、ついさっきまで青々と茂っていた街路樹が尽く枯れているのに気が付いた。

 俺は『死』そのものに喰われかかっていたのさ。


 気が付くと島のあちこちの上空に大きな鎌を持った死神みたいな奴が無数に浮いてゆっくりと降下していってた。

 そいつらが術を使ったのかは分からないが、逃げる俺の周囲でも、まるで巨大で透明な手で掴まれたように人が急に飛び上がって空中に舞い上がり、地面に落ちて血と肉を撒き散らしてバウンドしながら穴へと吸い寄せられていった。

 遥か遠くまで逃げた俺が振り返ると、水死体野郎の周囲の地面から次々とスケルトンが這い上がってくるのが見えた」

「それからどうしたのかね?」


「俺はこの島はヤバイと直感していた。

 そのまま海まで走り、船で逃げようと思ったんだ。

 だが海岸が見えた時、俺は絶望した。

 見渡すかぎり左右に広がる海岸。

 その全てを覆うように無数のスケルトンや水死体、ゾンビ共が海から島へと上陸し始めていた。

 俺はどうしていいか分からずその場にしばらく立ち尽くしていた。

 だが島の衛兵や腕自慢の元海賊達が集団になって上陸するスケルトン共に向かっていった」

「君は戦わなかったのか?」


「俺はその時武器を持っていなかったのさ。

 そして海から上陸するアンデッド共の背後に一際巨大なものが顔を出した。

 巨大な黒い馬に乗った、黒尽くめの鎧で身を包んだ騎士だった。

 その騎士が砂浜にまで上陸したとき、その馬の足がまるでタコの様な足をした化物だと気が付いたんだ。

 馬は次々と向かい来る人間達の上半身を食いちぎって……喰ってた。

 鹿が野草を食うみたいな当たり前の顔で。

 その馬に乗る騎士は島の中央へ剣を向けてアンデッド共に進軍を指示していた」

「そして君は壊滅したデスクレセント島から唯一人、生きて脱出したと」


「騎士が剣を掲げた時、声の出せる肉の残った水死体はサーベルを振り上げて叫んでいた。

 『偉大なるシャドウ・キング万歳』とね。

 その隙に俺はアンデッド共の脇をすり抜けて小舟に乗り込み、脱出したのさ」

「そのシャドウ・キングはなぜデスクレセント島を襲ったんだと思うかね?

 馬鹿げた内容でも構わない。

 率直な君の意見を聞きたい」


「あいつ等は人間を一人も逃すまいと包囲していた。

 自分たちの兵隊を沢山作りたかったんじゃねーか?」

「平和は長く続かないものだな。

 最近はこのカルフンガリアの街近くの海沿いの集落がアンデッドの小規模な襲撃を受けたり、この街でも幽霊騒ぎがあちこちで起きている」


「旦那……俺は一刻も早くここから抜け出したいよ」

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