第二話「土地争奪戦」
宴の翌朝。
スタグランドの森の小道で大男の死体が見つかり、検死を行う二人の衛兵の周囲を野次馬が取り囲んでいた。
昨日の夜、結局戻らなかったシェイドを探して歩いていたスヴェンもその人だかりに混じって覗く。
「ひどい傷だ。何度も何度も剣で刺されている。
これは怨恨による殺人だな」
「おいっ! 周りで見ている君達!
この男が誰か知っている者は居ないか?
身分が分かる持ち物がないんだ。この男の知り合いは居ないか?」
覗き込んでいたスヴェンは見た瞬間に察した。
(この男は……スタグランドの墓場でシェイドを片手で打ち負かし、僕が最初に戦った赤猫旅団の男。
この剣の傷の大きさはシェイドの持っていた宝玉の剣と同じ大きさ。
このクロスの切り傷、精密に骨を避けて突き刺された傷跡。
間違いない。
シェイドがやったんだ……。
……そうだよな……許せないよな……。
シェイド、僕はこの事は墓場にまで持って行こう)
「そこのハルバードを持った君、この男を知らないか?」
「……さぁ。知らないね」
スヴェンはその場を後にして海へと歩き始めた。
衛兵たちの声が背後に遠くなっていく。
「……それにしてもこの死体変だよな……、血が一滴も無いんだよ」
「……こんなのは初めてだよ……」
浜辺に出たスヴェンは海へと続く足跡を見つけて後を追い、波打ち際に佇む。
「シェイド……、君にとっては悪党を一人倒したくらいどうってことないだろ。
一体どうしたっていうんだ……」
シェイドが罪の意識に苛まれて海に身を投げた……などとはスヴェンはまったく思わなかった。
いつかどこかでシェイドがひょっこりと現れて、また会える。
スヴェンはそう確信していた。
……だがシェイドが再びスヴェン達の前に現れることはなく、2年が過ぎた……。
カルフ三叉のスヴェンがシェイドと出会った店。
その周囲を大勢の人々が取り囲んでいた。
店は既にボロボロになって傾き、風を受けて揺れ動くほどの状態である。
二人の役人が安全な場所に椅子を置いて緊張しながら見守る。
そして店を取り囲む人々は皆手に小旗を持っていた。
この世界、この国では個人に土地の所有権が認められている。
そしてこういう所有者が居なくなった家屋では、自然倒壊後一番早く自分の土地と主張、つまり旗を立てることが出来た人間がその土地の次の所有者になる。
そういう少し変わったルールがあった。
自然倒壊がいつ起こるかは誰にも予想できない。
土地の争奪戦は時には数日間、数週間に及ぶ緊張感を持続した長期戦になる。
ここは多くの旅人が通行する場所に位置する為、商売人にとっての最高の土地なのである。
取り囲む人々の中にイヴァリスの姿もあった。
何時も引いてる荷車の上ではリンが横になって眠っている。
すでに交代での張り込み三日目に突入していた。
ギギィィィ……
家はきしんで音を立て、今にも倒壊しそうである。
周囲の人々が緊張し始めた。
イヴァリスが指先でリンの頬をつつく。
「ううぅん……? 倒壊したの?」
イヴァリスは風で揺れ動く柱を指差した。
「これは……いよいよ来るわね。イヴァリスちょっとその旗任せたわよ?」
イヴァリスは頷いた。
リンは飛んで人混みの中に入る。
「んっ? あーーーっ! 俺のサイフが無いっ!」
「私のサイフも無いわっ! スリよっ、この中にスリが居るわっ!」
「お前だろう白々しい!」
「なによっ! そっちこそ怪しいわ!」
「あれっ、なんで俺の鞄の中に見慣れないサイフが……」
「お前かぁーーー! おい、皆こいつをひっ捕らえて縛り上げろ!」
「誤解だよっ! 俺は取ってない」
「取ってない?
取ってないのに俺のサイフがお前の鞄の中に勝手に入ったのか!」
人々は混乱し始めた。
あちこちで喧嘩が始まり、怒号と叫び声の入り交じる人だかりに向けて、森の中から3匹のデーモンが歩み出て襲いかかる。
「デ、デーモンだぁ! 逃げろぉーー!」
「誰かっ! 誰かあのデーモンをやっつけろ! これだけ居るんだ。誰か腕に覚えの有るやつ居ないのか?」
「皆で一緒に掛かれば倒せるよっ! さぁ行くよ! 1、2、3、ゴーッ!
……ってなんで誰も行かないんだよ!」
「お前も行ってないじゃないか。一人だけ出し抜くつもりだったか!」
「アンタ達邪魔よっ! いい加減消えなさいっ!」
リンが人々にファイヤーボール、スピットファイヤ、稲妻ボールの魔法を乱射し始めた!
「きゃぁぁぁ! ひ、人殺しぃぃ!」
「衛兵っ! 衛兵ィィィ!」
衛兵がリンを追いかけるがリンは素早く逃げまわり、人々の集まる地面に業火の呪文を詠唱する。
人々は四方八方へ逃げ始めた。
もはや現場は大混乱である。
「あんの腐れフェアリー! 許さんぞ! どこだー? 何処に隠れやがった?」
一部の人が戦士や魔法使いの仲間を連れて現場に戻り、リンを探して駆けまわる。
突如、家は倒壊した。
周囲の混乱を無視してずっと待機していたイヴァリスは倒壊後の家に飛び乗って旗を突き刺す。
役人が声を上げた。
「それまでっ! この土地の次の所有者が決定した! えーと?」
役人は倒壊後の家に一本建てられた旗に記載された名前を読んで手元の書類に書き写しながら行った。
「次のこの土地の所有者はイヴァリス! 以上だ」
一方リンは十数人の戦士たちに囲まれて取り押さえられた。
一人の戦士がロングソードを振り上げた時、リンは近くの衛兵に叫んだ。
「衛兵さんっ! 自首しますっ!」




