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第一話「異界の侵略者達」

 月夜の森の小道にて、シェイドは宝玉の剣を手にして立ち尽くす。

 そして目の前に横たわる大男の死体を眺めていた。

 頭の中でバチッと何かが弾けたような衝撃を感じ、片手で頭を抑えて目をつぶる。


「なんだっ? 何の衝撃だ?」


 シェイドは恐る恐る目を開いて驚愕した。

 慌てて周囲をキョロキョロと見回す。

 目の前に広がるのは一面の枯れ野原、生い茂るのは全てが枯れ木。

 自分が居るのはたしかにスタグランドの森の小道。

 道の形や行方はそのままである。

 男の死体はいつの間にか白骨化している。

 そしてどことなく自分が力を増したように感じていた。


「そんな馬鹿な。風景がおかしい。俺はどうかしているんだ」


 シェイドは再び目をつぶり、剣を鞘に収めてから両手で顔をパンパンと叩いてこする。

 そしてもう一度目を開けた。

 目の前に広がるのは元通りの森の姿である。


「精神が参っているのだろうか? こんなにはっきりと幻覚を見るのは初めてだぜ」


 シェイドは大男の死体を蹴り転がすと、再び海へ続く道を歩き始めた。

 バチッ!

 今度はさっきより酷い衝撃を受けて、シェイドは頭を抑えて目をつぶり、その場にうずくまる。

 まるで猛烈な嵐の中に居るように、存在しない大風が体の周囲で吹き荒れるのを感じた。


「痛ぇ……、くっそ! 頭が痛い! 吐き気がする!」


 体から血の気が引くように感じ、冷気や熱気が全身を駆け巡る。


「ちくしょう……、どうなってるんだっ?」


 シェイドは足元をふらつかせながら立ち上がり、再び目を開いた。

 目の前に広がるは一面の枯れ野原、朽ちた枯れ木の森。

 そして実体の無い何かが自分の周囲に吹き荒れていて上手く動けない。


「おおぉぉ! 何がどうなっているんだぁ?」

「……シェイド……王の剣を持つ者よ……」


 シェイドは鞘に収めた宝玉の剣が強い光と熱を放っているのを感じた。

 驚きながら剣を抜いて目の前にかざし、輝く刀身を見る。

 シェイドが感じていた実体の無い暴風はその刀身から絶え間なく放出されていた。

 まるで吹き荒れ、渦巻く台風の中心のようである。

 剣がシェイドの精神に語りかける。


「……時は満ちた……シェイドよ……この剣を持ったまま……そのまま海へと向かえ……」

「お前は何者だ? 俺に何をした?」

「……お前は既に知っている……さぁ……進め……」


 シェイドは得体の知れない強風を吹き出し続ける剣を必死で構えたまま一歩、また一歩と海へと進む。


(俺はなぜ進んでいるんだ? 俺はなぜ言われるままに海へと向かっているんだ? これは俺の意思なのか?)


 結論が出せないままシェイドは波の打ち寄せる砂浜へと辿り着いた。

 砂浜を進み、波打ち際を進み、膝までが海水に浸かる。

 剣が再び語りかける。


「既に我ら黄泉の勢力に対抗し、地獄の勢力も動き始めている。

 この人間界は大きな戦場と化すだろう。

 遂にこの時が来たのだ……喜ぶが良い……これから先に続くのは凄惨で残酷で苛烈な争いの時代。

 数万年前から定められた約束の時間。

 戦いと侵略の帝王、シャドウ・キングよ、お前の時代だ」

「ふふふ……フハハハハハハハ!」


(何故俺は笑っているんだ? 何故……俺の意識が遠のくんだ……)


 海に向かって高笑いを続けるシェイドの正面の海面に波紋が現れる。

 やがて波紋は渦のように広がり、中から6つのタコの触手のような足を波打たせながら黒くて巨大な馬が現れた。

 馬の目は赤く輝き、耳からは黒い煙を呼吸に合わせて吹き出し続ける。

 馬はシェイドの前に出ると立ち止まる。

 剣は再び語りかける。


「……さぁ……冥界の馬サイプレスへ乗れ。

 ……お前は本来の力と知識を取り戻さねばならぬ……。

 黄泉の神殿へと向かうのだ」


 シェイドは馬の背に飛び乗った。


「……サイプレスは己に騎乗する神をも食らう暴れ馬。

 今のお前の力では操るどころか数分とてその背で生きながらえることは出来ぬ。

 今の間は私が力を貸そう……。帰るぞ……我らが盟主の元へ……」


 シェイドは馬に乗り海の奥底へと消えていった。


 同じ頃、スタグランドの魔法大学の敷地内、魔道研究を行う封印の塔の中にて。

 一人の少女が地下の円形の部屋の中央で椅子に拘束されていた。

 年齢は12歳程。

 この世のものとは思えない形相で、常にヨダレを垂らしながら周囲を取り囲む魔術師達を睨みつけ、意味不明な言葉で罵り、叫び続けている。

 そこにはレディ・エンゼルの姿も有った。

 一人の魔術師がレディ・エンゼルに話しかける。


「急なお願いを聞いて頂き心より感謝しています。魔法大学を卒業した中でも伝説的な使い手の貴方がこの島にこのタイミングで偶然来ておられた事はなによりも幸運でした」

「ここに入るのは何年ぶりかしらね」

「この少女でございます。あちこちに悪魔祓いを依頼され、尽くエクソシスト達を打ち負かして再起不能にしてきたそうです。

 もはや打つ手なしということで、世界最高の魔法知識と奥義の結集されたここへと運ばれてきました」

「封印の塔地下。周囲数キロに渡って計算されて配置された魔法陣の中央。

 この世で最高密度の魔力を閉じ込められる場所。

 ここでどうしようと言うの?」

「我々全員で取り付いた悪魔の追い出しと封印の儀式を行います。

 しかし万が一我らの手に余り、暴れだした場合は血みどろの戦闘になるかもしれません。

 その際は貴方のお力をお借りしたいのです」

「分かったわ」


 魔術師達は椅子に拘束された少女を取り囲む。

 そして少女を中心にして特殊なインクで魔法陣を作っていく。

 少女は絶え間なくあちこち振り向いて聞いたことのない言葉で叫び続けていた。

 魔法陣が完成し、魔術師達が少女を取り囲むように魔法陣の外周にならんで呪文を詠唱し始めた。

 少女の体に断続的に光と電撃が走り、少女はその度に叫び声を上げる。

 そして佳境に入るとその部屋が小刻みに振動し始めた。

 部屋の机に置かれたガラスのフラスコ類が次々とひとりでに割れて音を立てる。


「ウヴォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 少女は口からエクトプラズムのようなものを吐き出した。

 それは魔法陣の結界を揺らしながら中でぐるぐると周回していたが遂に結界を破る。


「危ない! このままではっ!」


 レディ・エンゼルが悪魔を封印する魔法を詠唱してエクトプラズムを抑える。

 全魔力を集中し、全身から脂汗を流して、限界を超えて緊張し、震え続ける手でエクトプラズムへの封印魔法を制御し続ける。

 だがその力はレディ・エンゼルの想像を遥かに超えていた。

 エクトプラズムは魔術師達の体を裂きながら部屋を周回する。


「そんなっ! まさかっ!」


 魔術師の体から飛び散った血しぶきは、少女の周囲に新たな魔法陣を上書いていた。

 少女が笑い人間の言葉を発する。


「くくくくく……この場所、この時を待っていた……」


 少女の足元に異空間の門が開き、緑に輝く球雷がいくつも飛び出した。

 そしてレディ・エンゼルを含めてその部屋に居た魔術師達に乗り移る。

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