第四十三話「恐るべしリン、サムロの社会的暗殺」
サムロの部屋は留守であった。
宿屋の個室ほどの広さであり、部屋の中央には机、隅にはベッドと本で満載の本棚が並ぶ石造りの部屋である。
オークにしてはインテリである。
「さぁて、金目の物は無いかしら?」
リンは既に当初の目的を忘れていた。
まずベッドの下を覗き込む。
荒く束ねた紙の束があったためそれを引っ張りだす。
解いてみてみるとオーク同士があらゆる体位で合体している絵が描かれている。
オークのエロ本であった。
「オークって……どっちが男でどっちが女だか分からないわね。
BLの可能性も微レ存?」
リンはエロ本の束をサムロの机の上にドサッと載せると壁に手を当てて部屋を一周する。
一部の岩壁に手を触れた瞬間、リンは動きを止めた。
爪を立てながら30センチ四方ほどの岩のタイルをズポッと抜き取る。
中は空洞になっており、やはり何枚かの紙が置いてあった。
リンはその紙を手にとった。
「わーぉ! これサムロの直筆かしら?
上手く描けてるわね。
サムロって万能ね」
紙にはサムロ自身の顔や姿が描かれていた。
さらに次の紙を見ると、サムロがメリッサ・キャットといろんな体位で合体している手描きの絵が現れた。
「これが……種族を越えた愛ってやつかしら?
うっわー、こんな事まで。
サムロって真面目で堅い将軍のイメージだったけど相当な変態ね。
……うっわー、メリッサが吊り下げられてロウソクを垂らされてるわ」
リンは一通り堪能したあと紙の束をサムロの机に積み重ねた。
さらに机の引き出しを開けようとしたが鍵がかかっている。
リンはロックピックを使い、一瞬で開けた。
伝説のレリックの封印された錠前を開けてのけるリンにとって、こんな机の鍵など無いに等しいのだ。
リンは机の引き出しから装飾された黒い筒を取り出した。
スポッとフタを開けると中には書状が入っている。
「これは……オーク兵の活動報告書かしら?
ツマラナイわねぇ……、サムロはこんなものチマチマ書いてるのかしら。
大事そうにしまうほどのもんじゃないでしょ?」
リンはオークの活動報告書を抜き取って近くの釜戸に投げ入れて燃やす。
「私の鑑定では貴方の最高傑作はこれよ。
これを入れておきなさい」
リンはサムロとメリッサが色々な体位で合体し、メリッサが吊るされてロウソクを垂らされたり、木馬の上でムチ打たれている絵を丸めて筒に収めた。
たしかに描き慣れており、一目で絵の中の人物が誰か分かるレベルである。
まぁ、分からなくても丁寧に文字で「samuro」と「melissa」と書かれている訳だが。
リンは筒に蓋をして引き出しに戻し、一番下の大きい引き出しを机から抜き取った。
そして引き出しの下の空間を探る。
中からは人間の街や村で入手したと思われるエロ本が積み重ねられていた。
リンは手にとって中を覗く。
「オークなのにこんなものを見て楽しいのかしらねぇ。
……うっわ、汚い、なにこれカピカピになってるじゃない。
つーかこれ雨に晒されてた形跡があるわね」
リンは全てのエロ本をサムロの机の上に積み重ねた。
「なによこの部屋! エッチな本しか無いじゃない!
お宝は何処なのよ」
リンは本棚を探り、気になった本を手にとって開く。
本の間に挟まれた紙が何枚かヒラヒラと地面に落ちる。
人間の街で強奪した服飾職人ギルドの商品カタログの切り抜きのようである。
下着ページの。
部屋中を荒らしたが、サムロの机に積まれたエロ本の山が高くなっただけであった。
「はっ、そうだったわ! 毒薬を使わなきゃ」
リンは机においてあったエール入りの瓶の蓋を開けると毒薬を流しこんだ。
そしてサムロの部屋を脱出した。
数時間後、遠征から帰ってきたサムロは自分の部屋に入って髪の毛が逆立つほどに飛び上がった。
不審に思って中を覗こうとする両隣の参謀を押しのけると一人で部屋に入り中から鍵をかける。
サムロは大慌てで机に積まれたエロ本の山をゴミ箱に詰め込み、入りきらない分を釜戸に投げ込んで処分する。
その時、腕があたって毒入りエールの瓶は机から転げ落ちて大きな音を立てて割れ、エールは床に撒き散らされた。
その日の夕刻、メリッサ・キャットが直々にカルフンガリア襲撃作戦の意識合わせのために洞穴を訪れた。
洞穴の大広間ではオーク達が左右に列を作ってお辞儀し、その中をメリッサ・キャットが歩く。
そして用意された玉座に足を組んで座った。
その両隣にはサムロ直属の精鋭兵二人が槍を持って立つ。
「それではまずは、今週の報告を見せてもらうわ」
「こちらになります」
メリッサの前に跪いたサムロは黒いつつを両手で持ってメリッサに渡す。
メリッサはスポンと筒の蓋を開けると紙を取り出して目の前に広げた。
即座にメリッサの両隣に立っていたサムロの精鋭兵が飛び上がるように仰け反った。
精鋭兵は二人共アングリと口を開けて目を見開いていたが、顔色が見る見る青紫に染まっていく。
遂には汗が滝のように流れ出ていた。
「?」
異変を察したサムロはメリッサを見る。
メリッサは片手で肘をついて頭を斜めにして拳をこめかみに当てながら、不機嫌そうに片手で書状を眺めていた。
裏側を見ようとして書状を持った片手をクルリと返す。
「グッ!」
サムロは飛び上がった。
矢印付きで、「samuro」と「melissa」と説明されたリアルな手書きの絵が描かれていた。
メリッサとサムロはあらゆる体位で合体し、メリッサは吊るされたり、木馬に載せられて鞭打たれている。
サムロの顔も見る見る青紫へと変色していった。
全身から汗が流れ落ち、周囲のオーク達がサムロの姿に異変を感じてメリッサの方を見てざわめく。
大広間の隅では、サムロの部屋のゴミ箱を処理しようとゴミ箱を抱えて歩く用務員オークが大勢が整列している横で躓いて転び、エロ本の山をぶち撒けた。
二日後、カルフンガリア王城内にて生き残ったリンを含む3人の暗殺者が報酬を受け取っていた。
「任務への参加ご苦労であった。
これは30万ゴールドの銀行手形だ。
受け取ってくれ」
「ちょっと待って、私はサムロの部屋のエールの瓶に毒薬を入れたのよ?」
「凄まじい技に感心するが、誰もそこまで辿り着けてなくて確認がとれないのだ。
すまんのう。
サムロが毒で死んだというのであればそなたに1000万ゴールドを支払ったが、何故かサムロは自主的に将軍を辞職して故郷へと帰ったそうだ。
後続の将軍はムタになったと聞いている。
結果的には我々の望み通りサムロは排除されたが、それはそなたの功績ではなかろう?」
もしも個人の持つ技術の高さが、歴史を動かすほどのものであれば、その人は伝説的な技術の持ち主と呼んで良いだろう。
リンの忍び歩きの技術は間違いなく歴史を動かした。
サムロが居る状態ではカルフンガリアは間違いなく敗北することになっていた。
リンは伝説的な忍び歩きの技術の持ち主なのである。
だがその事実を知るものは誰一人居ない。
本人ですらも。




