第四十四話「赤猫旅団殲滅作戦」
赤猫旅団のカルフンガリア襲撃を翌日に控えた午後。
ARCCの全メンバーが本部のタワー前に集結して隊列を組んで並んでいた。
マサイアスが歩み出て団員に話し始めた。
「一週間前の交易商人救出作戦の功労者のスヴェンとシェイドが赤猫旅団の総攻撃計画を知り報告した事は諸君も知っているだろう。
旅団の計画では総攻撃は明日である。
攻撃対象のカルフンガリアの騎士団は尽くオークのサムロ将軍によって撃破され、壊滅状態に有り、自衛すらままならない状況にある。
そこで我々が赤猫旅団が集結する計画のダンジョン、凍てつく霊廟へ不意打ちの総攻撃を掛ける。
これは総力戦となるであろう。
我々が勝利すればこの世界から赤猫旅団が滅び去る。
我々が敗北すればこの世界は赤猫旅団の手に落ちる。
天下分け目の戦いである。
これより一時間後の出発となる。
各々、持てる限りの装備、アイテムと今までに培った鋼の意思を持ってここに集結せよ。
それでは解散!」
解散後、レディー・エンゼルが魔法兵団の新入りを呼び集めた。
スヴェンも一緒に集まる。
「貴方達は全員、今から配るこのマジックウィザードハットを被りなさい。
貴方達の魔力を増強する効果があるわ」
「ありがとうございます。レディー・エンゼル」
1時間後。
スヴェンはマジックウィザードハットを被り、持てる限りの装備を持ち、聖ジャーギィのハルバードを片手に持って集まった。
シェイドも各所に細かなルーン文字の刻まれた鎧で身を包み、銀色の蛇の紋章のついたカイトシールドと、トレジャーハントで手に入れた宝玉の剣を持って参列する。
「凄いなシェイド、まるで王様じゃないか」
「アモイに貰った金でマジック鎧を買い漁ったのさ。
俺が出来る最高の装備を揃えている。
それよりスヴェンは金はあるのに軽装だな」
「魔法使いは金属鎧で身を包むと魔力が減退しちゃうんだよ。
魔法剣士が中途半端で弱いと言われる所以だね。
だがレディー・エンゼルにもらったこの帽子で魔力は増強してある」
「そうなのか。
だがいよいよこの時がやってきたな。
武者震いするぜ」
「ああ、必ず……赤猫旅団を……ぶっ潰す!」
スヴェンとシェイドの瞳は怨念を超えた信念と覚悟の炎が燃えていた。
マサイアスはそんな二人を横目で見ながら号令をかける。
「それでは魔法兵、凍てつく霊廟へのゲートを開けぇ!」
3人の魔法兵が歩み出てゲートの魔法を詠唱する。
レディー・エンゼル率いる魔法兵とスヴェンは立ち並ぶ戦士たちに魔法のフルブーストを掛けた。
巨大なドラゴン二匹を従えたロックは取り出した生肉二つを左右のドラゴンに食べさせる。
3つのゲートが開かれ、ARCCメンバーは次々と中へと突入していく。
凍てつく霊廟というダンジョンは幅5~10メートルの広い直線的な回廊が続くダンジョンである。
回廊は右に左にくねりながら地下へと伸び、その全長は数キロに及ぶ。
最深部は太古の王の墓場になっている。
その回廊にはいくつも横道があり、小部屋が各所に作られている。
何かの宗教的な意味のある小部屋だろうが、今となってはそれが何の目的の部屋か分からないものが多い。
その小部屋の一つ、10メートル四方ほどの小部屋の入り口で赤猫旅団の幹部が座って酒を飲んでいた。
小部屋の入り口と最奥祭壇の間には幅7メートルほど、得体の知れないキノコがびっしりと生えたエリアがある。
両手を縛られて胴体を縄でぐるぐる巻きにされた青年の男と女、そして子供が幹部達の前で震えていた。
「おーし、誰に先に行かせる?」
「泣きわめく子供が煩いニャ、そいつから先に行かせろニャ」
縛られて震える男が叫んだ。
「私が、私が先に行こう。私の子供は勘弁してやってくれ」
「ああぁ! 何でこんなことに……、ただ薬草をとりに来ただけなのに……。どうかご慈悲を……」
母親は涙を流し、子供は泣き続け、父親は恐る恐る地面を見ながら一歩ずつ前進した。
「ほーら、アンヨが上手♪ アンヨが上手♪」
「足元に気を付けろよーードカンといくぞぉーーー」
「ぎゃははははは」
「あああ……あなた……」
「ぐあああああ!」
父親が地面の黒く光るキノコを踏んだ瞬間に大爆発が発生し、父親は血まみれになって部屋の奥の祭壇にふっ飛ばされて倒れた。
これはこのダンジョンのこの小部屋にだけ何故か生息する爆発キノコである。
見た目での判別は難しいが成熟したものに衝撃を与えると人が死ぬ威力の爆発を起こして胞子をばらまく。
母親は泣き崩れ、子供は母親に寄り添って泣いた。
「ぎゃははは! クリーンヒットぉ!」
「さぁ、次はどっちが行くニャ?」
そこへ赤猫旅団の手下が大慌てで息を切らして駆け込んだ。
「大変だぁ! 姐御! ARCCの大軍がこのダンジョンに攻めてきたぜ!
ロックもエンゼルもグリムもマサイアスも居る。
総攻撃だぁ!」
「全員溶岩部屋隣の回廊に集結させろ!
戦いの準備だ!」
「分かったぜ!」
手下はダンジョンの奥へと走って消える。
幹部達は哀れな家族を置き去りにして奥へと消えた。
すれ違うようにドラゴンを率いたロックが小部屋の前を突撃しようとし、横目で家族を見てドラゴンを停止させた。
近寄って状況を察したロックは部屋の入り口でゲートの飛び先を記憶する魔法を唱えた。
不思議な光が足元で凝縮されて消えると、ロックは今度はテレポートの魔法を詠唱、部屋の奥の祭壇へとテレポート移動する。
そして、血まみれの父親を抱えてゲートの魔法を詠唱する。
部屋の入口と奥の祭壇をゲートが繋ぐ。
父親を抱えたロックはゲートを通って入り口に戻ると家族を拘束する縄を切った。
遅れて駆けつけたエンゼルが父親のもとに駆け寄る。
「まだ時間が経っていない、この父親は助かるわ。私に任せなさい! 貴方達は先へ!」
エンゼルは包帯を取り出すと父親の胴体に不思議な結び目を各所に作りながら網のように巻きつけた。
そしてグイッグィッと包帯を引っ張る。
包帯術の極意、ごく一部だけが知っている蘇生方法である。
父親は血色が良くなり咳き込みながら復活した。
レディー・エンゼルは即座に回復魔法を掛ける。
「パパぁ~~!」
「あなた!」
「助かったのか? ありがとうございます」
「早くこのダンジョンから逃げなさい」
レディー・エンゼルは入り口へと駆けて行く家族を見送るとダンジョンの奥へと進んだ。
ダンジョンの奥の大広間では赤猫旅団の軍団とARCCの軍団が睨み合いの状態であった。
幾つもの魔法が飛び交い、回復魔法の光があちこちで光る。
「おらぁ! くらえぇ」
赤猫旅団の斧を持った大男が最前線にいるARCCの戦士に斬りかかる。
「フォーカス!」
レディー・エンゼルの叫び声とともに、大男の体に何人もの魔法使いの爆炎の魔法が命中、大男は即死した。
メリッサ・キャットが叫ぶ。
「気をつけなっ! むやみに前に出るんじゃない!」
「くっそ、全員集まっていたらもっと押し返せただろう。
何故ここがバレたんだ。」
マリー・キャットは最前線で盾を構えるシェイド、その後ろのスヴェンを見つけて言う。
「あいつら、生きてたのか畜生。
計画はすべてバレていたということか!」
「a! b! 攻撃だ!」
ロックの命令でドラゴンが強烈なブレスを放射しながら膠着したラインから前進した。
魔法が2匹のドラゴンに集中、その隙にグリムが突進し、敵兵の最前線のシミターを持つ戦士に斬りつけた。
すかさずシェイドも躍り出て同じ戦士に斬りつけて倒す。
突如グリムとシェイドの背中に魔法の石の壁がそそり立った。
「ムッ! しまった」
「ゲッ! やべぇ」
スヴェンはすかさずにディスペルフィールドの呪文を詠唱し、石の壁を消し去る。
二人は素早く自陣へと戻る。
戦況は有利で、ARCCがジリジリと赤猫旅団の手下を刈り取りつつ前進していた。
マリー・キャットがドラゴンをゲートに誘い込もうにも、ウォーテイマーとしての戦いを知り尽くしたロックはすかさずドラゴンを引いて回復する。
メリッサが声を上げる。
「次フロアへ退却だっ! 遅れるな!」
赤猫旅団は一斉に退却した。
だがついうっかり前線に出ていたマリー・キャットは一足遅れてしまった。
「ムンッ!」
マリーの眼の前にグリムが立ちはだかる。
すり抜けて逃げようとしたがその前にシェイドが立ちふさがり剣を振るった。
マサイアスが霊廟に響く声で叫んだ。
「インペリアルクロス!」
魔法使い数人がマリーに麻痺の魔法を掛け、残りのスヴェンを含む数人がマリーの左右から挟むように展開してフィールド魔法を詠唱した。
マリーの体を中心に十文字の魔法の結界が作られ、しばらく背を見せて足掻いたマリーは諦めて向き直る。
「a! b! 食い千切れ」
ロックの命令で2匹のドラゴンがマリーに飛びかかる。
「ちくしょおおおおおぉぉ!!」
ドラゴンaがマリーの上半身に食い付き、ドラゴンbがマリーの下半身に食い付いた。
そして内蔵を撒き散らしながら真っ二つに裂くと武器や鎧ごとドラゴンは飲み込んだ。
「a b 良くやった」
「このまま追うぞ! 私に続け」




