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第三十八話「交易商人救出作戦」

 ARCCの本拠地のタワー内最上階でスヴェン、シェイド、そして10名ほどのメンバーが円卓を囲んでいた。

 議長席にはマサイアスが座り、その隣に座る男、ハーヴィー公爵の紹介を行った。

 マサイアスが説明を続ける。


「まずは経緯の説明から行おう。

 ラード王国は遥か遠くの幾つかの異国とも国交があることを知っている者もいるだろう。

 その内の一つ、オーナグ公国とは毎年通信使を迎え入れて交流しておる。

 そして通信使には何人かのオーナグ公国の交易商人も追従してくるのがここ数十年の慣例である。

 だが先日通信使の一団がカルフンガリアの港へ向かう途中の海上で海賊船に襲撃された。

 海賊たちは略奪と殺戮の限りを尽くし、燃え盛る船からわずか数人の使節団の生き残りが脱出して漂流の後に漁師に救出されたのだ。

 彼らによると若い女性の交易商人が海賊たちに攫われたそうだ。

 ラード王国としては最大限の誠意をオーナグ公国に示すため、連れ去られた女性商人を何としても救出したいとのことだ」

「よろしいですか?

 そこまでの話だとラード王国の海軍、そこにおられるハーヴィー公爵の管轄内の話と思われますが……。

 我々ARCCに話が来るということは……」

「そなたの想像通り、ここいらに出る海賊の7割は赤猫旅団所属、今回の場合もそうだ。

 そして赤猫旅団はその女性商人の価値を知り、身代金を要求してきておる。

 諸君らは十分に分かっているだろうが、身代金を払った瞬間に商人は殺されるであろう。

 そこで海軍と協力作戦を取ることになり、少人数での潜入に向いているメンバーに集まってもらったのだ。

 続きはハーヴィー公爵、よろしく頼む」


 三角帽子をかぶった小太りでちょび髭を生やした男、ハーヴィー公爵が立ち上がり、地図を取り出して机の真ん中に置いた。


「我々の調査により、交易商人はこの赤猫旅団の本拠地でもあり、海賊の集まる島、デスクレセント島に捕らわれているのは突き止めている。

 諸君らも知っているかも知れないが、海賊たちが集まる悪の本拠地であり、我々の海軍の度重なる攻撃すらも長年にわたって退けてきた要塞島でもある。

 今回我々海軍は大砲を装備した軍艦5隻でこの島の港、文字通り三日月型の島の入江の港へ急襲する。

 おそらく海賊総出での総攻撃を受けるであろう。

 我々は正確に攻撃元の大砲を狙って反撃する。

 海賊は身代金を受け取るまでは人質を危険な場所には行かせないだろう。

 そして島の海賊たちの注意は我々に集中する。

 そこから先はマサイアス殿、頼む」

「うむ。

 君達は二人一組のグループに分かれてハーヴィー公爵率いる海軍が海賊の注意を惹きつけている間に島の入江と反対側のジャングル地帯5箇所から潜入して貰う。

 そして海賊に気付かれない様に交易商人の捕えられている場所を探し出し、救出して撤退するのだ」

「大都市に匹敵する規模の街と人口の島ですよ?

 しかも全員海賊だ。

 二人程度じゃ見つかって囲まれたらひとたまりもない」

「その通り、死と隣り合わせの無茶な作戦だ。

 囲まれれば高確率で死ぬことになる。

 敵に見つかり、状況が悪ければ迷わず全力で逃走しろ」


 円卓の周りのメンバーは動揺してざわめく。

 冷徹な目のままマサイアスが続けた。


「だがそれが軍事作戦というものだ。

 安楽な解など敵が用意するものか。

 諸君らは私自らが最適なメンバーとして選別した。

 君達はやり遂げてくれるとこのマサイアスは確信している」


 マサイアスの言葉に全員静まり返る。


「全員フレアワンドを持っていけ。

 交易商人を確保しての撤退時、隠密行動が出来ない状態であれば使え。

 別働隊を救援のために突撃させる。

 以上だ。

 解散!」



 スヴェンとシェイドは深夜の穏やかな海の上を手漕ぎボートでデスクレセント島へ接近していた。


「なぁ、スヴェン。

 結局のところ潜入部隊って失っても痛くない捨て駒ばっかなんじゃねーかな」

「どうだろうね。

 マサイアスさんは何十年も軍やARCCを率いてきた人間だからね。

 僕達には計り知れないところがあるよね。

 それにしてもマサイアスさんはラード王国の元将軍だった付き合いがあるから今回協力してるのかな?」

「なんか裏で支援して貰ってるらしいぜ?

 まぁ当然だよな。王都襲撃をかます凶悪な連中だし。

 ところでこの交易商人の似顔絵、結構可愛くねぇか?」

「……僕もそう思った」

「はっはっは。こりゃ全力でお姫様を救出するしかないな」


 スヴェン達はデスクレセント島の海岸の森に上陸すると手こぎボートを茂みに隠した。

 暗闇の中、静かに合図を待つ。

 遠くで大砲の音が響き始め、花火のように火砲の光がまたたき、地面が轟音で断続的に揺れ始めた。


「始まったな」

「よし、行こう」


 スヴェン達は森の中を静かに、そして素早く進み始めた。



 デスクレセント島の市街地の外れにある酒場の片隅で荷車を背もたれにして少女がしゃがみ込んでいた。

 周囲には酔っ払った海賊たちが大砲の轟音や街への着弾による破壊音、地面の振動を無視して盛り上がっていた。

 そもそも不真面目なのが海賊であり、湾内に潜入したハーヴィー公爵の海軍と砲撃戦を行う海賊たちが居る傍ら、飲んだくれて遊び呆けている海賊もいるのである。

 もちろんこういう戦闘は日常茶飯事であり、絶対に島が落ちることは無いと確信してのことではあるが。


「ようよう、何とか言えよお嬢ちゃんよぉ?」

「無駄だよ、そいつ俺達の言葉があんまり話せねーんだよ。

 なんか、オーナグ公国っていく遥か遠くの人間らしいぜ?

 人質なんだからあんま手を出すなよ?

 身代金を手に入れるまではな」

「こん中何が入ってるんだ?」


 一人の海賊が少女のもたれている荷車のカバーを開けて中を探る。

 少女は荷車に上から被さるようにして聞いたことのない言葉を叫びながら抵抗した。

 海賊は荷車から鼻毛付きの鼻の作り物の付いただて眼鏡、鼻眼鏡と天辺の平たいベレー帽のような帽子を取り出した。


「なんだこれ? 交易商人だろ?

 こんなもん売れるのかよ。

 お前付けてみな」


 海賊は嫌がって両手で抵抗する少女に無理やり鼻眼鏡を装着した。


「だぁーーっはっはっは。前言撤回。これ面白れーわ。

 よしこれも付けてみろ」


 海賊は少女に無理やり帽子を被せて荷車の前に座らせた。

 そして荷車に登ってズボンを脱ぎ、少女の頭の上の帽子の上に大便を出した。


「ぷ、おまっ! 何やってんだ」

「はっはっは、こりゃ傑作だ」

「クセェじゃねーか! 酒が不味くなるわ」

「お前のウンコ、トグロ巻いてるじゃねぇか!」

「手は出してませぇん! ウンコは出したがね」


 少女は両手で顔を覆い、シクシクと泣き出した。


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