第三十四話「神話のレリック『ヘカトンケイルの目』」
「お前達! ここらの小部屋にあるお宝を全部運び出せ!
直に置いてあるお宝だけだ、宝箱には触れるなよ?」
「分かったぜ姐御」
「お前、そっち側を持て……」
「おーっと、お前らはゆっくり前に歩くんだ」
スヴェンとシェイドは両手を背中で縛られた状態で地下の宝物庫の通路を奥へと歩く。
アモイはサンドラにショートスピアの刃を喉元に当てられて、スヴェン達の後を歩いていた。
通路は幾つかの宝物庫と一本の横道を通り過ぎた後、大きな両開きの扉が有る場所で終わっていた。
「扉を開けろ」
スヴェンとシェイドが左右の扉を肩で押して開ける。
そこはひときわ大きな宝物庫になっていた。
宝物庫の中、彼らの目の前にはまばゆく光を放つ数々の宝物が山のように詰め込まれていた。
何千年も経っていると信じられない程の輝きの宝石、装飾品、王冠や宝石で飾られた剣やクリス、そして輝く銀のハルバードが置かれている。
その中央には円柱状の祭壇があり黄金色に輝く不思議な形の置物が生えていた。
幅50センチ、奥行き30センチ、高さ50センチほどで、全体に装飾の施された黄金製の教会のミニチュアのような形をしている。
前面に巨大な錠前が取り付けてあり、宝箱の一種だと推測できる。
自然と蛮族が何人も部屋に入り込んで宝物の山を囲み、夢の様な光景に見入っていた。
「すげぇ……」
「生きている内にこんなもの見られるなんて……幸せだぜ……」
「おい、賞金首とその連れ、お前らは壁際に並んで立て。動くなよ。
お前とお前、暴れないように見張ってろ」
「アイアイサー!」
「お前、トレジャーハンターだったな?
あの鍵を開けろ。
開けられなければ用無しだ。その場で死んでもらう」
「わ、わかったよ」
サンドラがアモイの背中を突き飛ばし、アモイはつんのめるように飛び出して宝箱へと近寄った。
アモイは置物を近くでじっくりと見ていたが突如興奮し始めて声を上げる。
「これは! 太古の王ファラオの遺跡で発掘したコデックスで見た紋章!
そしてラード王家に伝わる神話、黄金の礼拝堂だ!
魂を永遠の至福と安らぎに導く礼拝堂!
何人ものファラオが一生をかけて探し求めた神の礼拝堂だ!」
既に自分の置かれている状況を忘れたかのようなはしゃぎっぷりである。
「聞こえなかったか? 開けろと言ってるんだよ」
「あ、開けるよ」
アモイは鍵を凝視し、額から冷や汗を流す。
さっきの宝箱とは桁違いのシロモノである。
「早くしろ!」
「い、今から開けるよ!」
アモイはバックパックを取り出して目の前に置き、ロックピックを取り出すために蓋を開けた。
中ではリンが体操座りをして入っていた。
上を見上げてオッスと手を上げる。
(リンちゃん、頼むよ手を貸してくれ)
リンは手で銭のマークを示す。
(もちろんだ。生きて帰れたらいくらでも)
リンはロックピックを持つと上を指差した。
アモイはバックパックごと持ち上げると自分の背でリンの姿を隠しながら黄金の家の鍵を両手で囲むように隠す。
しばらく部屋にはカリカリという音とロックピックがパキりと折れる音が響き、サンドラと蛮族達は息を飲みながら見守っていた。
だが遂にカシャリと音を立てて錠前は外れた。
「おおおおぉぉ!」
「ほぅ、中々やるじゃないか。トレジャーハンターというのもだてではないな。その錠前をこっちへ投げろ」
アモイは外れた錠前をサンドラに投げた。
サンドラはそれをキャッチし、満足そうに眺めた後ポケットに入れる。
「よし、開けろ」
「姐御、また爆発するんじゃ? お宝が粉々になりますよ?」
「あの箱は桁違いに高価なもんが入ってる。むざむざ破壊する罠を仕込んだりしないよ。早く開けな!」
アモイは再び黄金の礼拝堂に向き直り、ふと下においたバックパックを見た。
リンの姿が無い。
錠前を投げて皆が注目している間に何処かへ移動したようである。
リンに希望を託し、アモイは礼拝堂の屋根を両手で掴む。
少しずつ力をいれて様子を見ながら屋根状の蓋を開けると、熱気とともに黄金色の光が部屋を照らしていく。
礼拝堂の中は空洞になっており、まるで時計のような細かな機械で作られた両手サイズの目玉が浮遊していた。
浮遊しつつも細かな部品があちこちで絡みあうようにグルグルと回りながら動いている。
「太陽のように輝き、空を飛んで永久に世界を見渡す神の目玉。
神話にあったレリック、『ヘカトンケイルの目』だ。
黄金の礼拝堂の中にはこのレリックがあったんだ!
礼拝堂を探し求めた何人ものファラオが一生知らなかった事実をオイラは今見ているんだ!」
「よし、それを持って来い」
「サンドラさん、金貨や宝石ならともかくレリックを冒涜するのは辞めたほうがいい。
何千年もの間、多くの人々が信仰してきた聖なるレリックだよ?
神罰があたっても知らないよ?」
「おいおいおい……悪いことをしたら神に罰せられるってさ。
あたしゃ怖いよ」
蛮族達はどっと笑った。
一方その頃スヴェンは自分の手を縛る縄に何かが触れたのに気が付いた。
背中側を見ると全身に茶色と黒のペイントを塗って擬装したリンが縄を切っている。
その手にはアモイのバックパックで手に入れたマルチツールのナイフが握られている。
リンはスヴェンとシェイドの手を縛る縄を密かに取り去った。
「いいかげんにしろ! 早くそれを持って来い。」
アモイは震えながらレリックの目玉を手にとった。
目玉全体で動いていた謎の機械部品があちこち連動し、その瞳にまぶたが降りるように閉じられて熱と光が収まった。
その瞬間から地下霊廟全体にミシミシ、ガサゴソとい音があちこちで響き始め、遂には石棺の蓋が落ちる音が響き始めた。
「な、何だ」
「ぎゃあああ」
途中の宝物庫の方から叫び声や悲鳴が聞こえ始める。
そして無数の武装したスケルトンやミイラが押し寄せてサンドラと手下たちを襲い始めた。
「なぁーにビビってんだ! アンデッドなんざ飽きるほど見たろ!」
サンドラはショートスピアを振り回して一瞬で3体のスケルトンをバラバラに打ち倒した。
だが一呼吸ほどで骨が寄り集まって再生し、再び襲いかかる。
「くそったれ!」
サンドラは魔法を詠唱し、5、6体のスケルトンやミイラを巻き込んで炎に包む。
あっという間にアンデッドは炭になって崩れ落ちた。
しかしやはり一呼吸ほどで炭が寄り集まって再生し向かってくる。
「一時退却だ外に出るぞ! お宝は逃げない! 後で回収だ!」
サンドラと手下達はアンデッドを打倒しながら秘密の通路を駆け戻る。
スヴェン達も後を追ったが、眼の前でサンドラが支え棒を蹴り倒し、石の扉が降りた。
取り残されたサンドラの手下が一人アンデッドに食いつかれて悲鳴を上げている。
「閉じ込められたぞ!」
「とにかく武器が欲しい、奥の宝物庫へ戻るぞ!」
「ひぃぃ、置いて行かないでくれぇ」
スヴェンとシェイドが体術を駆使してアンデッドを押しのけ、地面に打倒しつつ進み、アモイが怯えながら後について進む。
宝物庫にたどり着くととっさにスヴェンは白く輝くハルバードを手に取り、シェイドは赤い宝玉付きのロングソードを手にとった。
どちらの武器も刃先以外の全体にルーン文字が彫られており不思議な熱気を放っている。
武器を構えた二人が一歩前に出ると押し寄せていたアンデッド達は一斉に一歩後退した。
踏みとどまって襲ってくる気配がない。
「一体何が起こってるんだ! これは罠なのか?」
「いや、多分意図的な罠では無いと思うよ?」
アモイが手に持ったレリックを皆に見せながら言った。
「オイラ達が来た時は霊廟内で魔法が使えなかっただろう?
だがさっきサンドラ・キャットは魔法を使ってアンデッドを攻撃していた。」
アモイは片手で呪文を詠唱すると黄色い光りが指先に灯る。
マジックトーチである。
「魔法が使えるようになったのさ。
おそらくこのレリックが見開いている間はこの辺り一帯の全ての魔力を消し去っていたんだ。
だから呪われたアンデッド達も動けずに安らかに永遠の眠りに付いていたのさ。
黄金の礼拝堂の中のレリックのお陰でね。
そしてどういう経緯かしらないが聖ジャーギィはこのレリックの力を知っていた。
だから呪われた品々と死なない死体をあえてここに封印したのさ」
スヴェンははっと思い出したように言った。
「アモイさん。ひょっとしてこのハルバードが、聖ジャーギィのハルバードじゃないのか?」
「……断言は出来ないが否定も出来ないよ。言い伝えや資料の記述に全部当てはまっている」
「アンデッドに物凄く有効な武器だったんだよね?
だからそこのスケルトン達は近寄ってこないんだよ」
「そんなことよりどうするの? 私達閉じ込められたわ」
「聖ジャーギィは宝物を封印して、村に帰ってきたんだよね?」
「ああ、その後何年も平穏に過ごしたよ」
「別な出口があるはずだよ。ここに入るカラクリはゾーンマッシュルームを食べた後の夢で見たんだ。
そして聖ジャーギィ達一行はつっかえ棒もせずに扉を閉じて中へ入っていったんだ。
この部屋の前に横道があっただろう?
皆でそこへ進もう。
出来るだけハルバードを持つ僕の側によるんだ」
スヴェンを中心に一行は宝物庫を出て横道へと進んでいった。
アンデッド達は距離を置いて見守っているだけで攻撃してこない。
スヴェン達が進むと自分から引いて道を開けた。
一行は開けた空間にたどり着いた。
幅広の廊下のようになっており、中央は燭台が点々と並んでいる。
スヴェンとアモイとリンは燭台の左側、シェイドは右側を周囲を警戒しながら進んだ。
不意に壁の窪みから鎧を着たアンデッドが青銅の剣でスヴェンに斬りかかった。
スヴェンは慌ててハルバードで剣を弾き、逆にハルバードで斬りつける。
アンデッドは爆発して弾けるように砕け散った。
「さすがに凄い威力だね」
「どわぁっ!」
スヴェンの戦いに気を取られていたシェイドはふと右側を見て仰け反った。
青銅の剣を杖代わりに立ち上がろうとしているアンデッドが居たのである。
シェイドは慌てて赤い宝玉付きの剣を打ちつける。
アンデッドは周囲に飛沫を飛び散らせながら消滅した。
「びっくりするよ、音も無く佇んでるんじゃねーっつーの」
「シェイド、ひょっとしてそっちの窪みにもレバーがあるかい?」
「んー? これか?」
通路の行き止まりと思えた壁がズルズルとずり上がった。




