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第二十三話「異国の戦士」

 スヴェンとシェイドはそれぞれ馬に乗り街道を走らせていた。

 リンはスヴェンのバックパックの蓋を開けて自分の椅子を半分出して、そこに腰掛けてくつろいでいる。


「あ、あれは街道三叉の店じゃないか?」

「馬だとやっぱり早いね。レンジャーキャンプに来る時の半分くらいの日数しかかかってないよ」

「ちょっと休んでいきましょうよ。今度は半額にまけさせるわ」


 スヴェン達は店の前に馬を止めた。

 以前赤猫旅団の下っ端に襲われた店である。


「おかしいな。ドアが全部閉まって人の気配がないよ」

「Closed?」


 スヴェン達は馬を降りて標識に繋ぐと店の周囲を歩く。

 突如ガサガサッと音がして屋根からネズミが飛び出し、森の中へと消えた。


「ネズミだ! あそこにも居るぞ!」


 屋根の別の場所でネズミがキョロキョロと周囲を見回し、壁の柱を伝って森へ消える。

 後ろには子ネズミが5、6匹連なっていた。


「スヴェン、こりゃ随分長い間無人で放置されてるぞ」

「中はもうネズミの巣ね。このままだと倒壊するのは時間の問題かしら?」

「え? 倒壊するの? この建物まだ新しいじゃん。街ではもっと古い建物が平気で一杯建ってるよ?」

「ネズミが住み着いちゃうとね、柱や梁、いろんな場所をアチコチ齧っちゃうのよ。

 ネズミは常に齧ってないと歯が伸びちゃうの。

 それで全体がボロボロになるだけじゃなく、糞も一杯撒き散らすのよ。

 そこから板が腐っちゃうのよ。

 人の気配があれば寄ってこないんだけどね」

「まぁ俺達には関係のない話だな。先を急ごうぜ」

「この店の人達どうしちゃったのかなぁ……」


 スヴェン達はその場を後にした。

 ウシャドナ方面の街道を馬に乗って進む。

 スヴェン達は知ることは無いが、この店の店主が戻ってくることは永久に無い。

 森にしばらく入った場所に丁寧に遺体を葬った十数個の手作りの墓標があった。

 そしてそれらを見守るように木にもたれ掛かって白骨化した遺体があった。

 それが店長なのである。

 胸には自分が本意ではないとはいえ、関わった十数人の旅人殺害の告白と懺悔の記された手紙が添えられていた。



 馬に乗って街道を進み、一週間程が経つ。

 スヴェン達は川を越え、沼を越え、巨大な山と岸壁の脇を通り、未知の発光生命体と会話を楽しみ、亜熱帯のジャングルを抜けた。

 そして遂に大きな街に辿り着いた。

 カルフンガリアと同じくらいの規模の大都市である。

 さらにカルフンガリアよりも高い城壁で囲まれている。

 街の門は大きな馬車がすれ違えるほどの幅があり、8人ほどの番兵が向き合って防護していた。

 スヴェンは番兵に話しかけた。


「すいません。ここはウシャドナの街ですか?」

「ここはカーグレイルの街だ。ウシャドナの街はもっと先だ」

「……ここは、赤猫旅団に襲われたりしてます?」

「赤猫旅団であろうともこの街をそう簡単に襲うことは出来ん。

 元々ラード公が周辺に持つ中で最大の城塞かつ、軍の駐屯地だ。

 この街では武芸が盛んで強者がわんさと居る。

 コネや家柄でカルフンガリアに寄せ集められた奴らのような腑抜け共とは違う。

 だから赤猫旅団の本拠地に近いにも関わらず攻撃を寄せ付けないのだ」

「そうか、それは頼もしい。リン、シェイド、今日はここに寄って行こうよ」

「せっかく来たんだし何か面白い名所やイベントは無いの? 番兵さん」

「今日はここの兵団の剣術の訓練教官の選抜試合が行われている。

 前任の教官が戦死した為に高額の給与で全土に募集をかけていたのだ。

 各地から猛者が集まっており、闘技場で今も戦っているはずだ」

「スヴェン! 見に行こうぜ!」


 スヴェン達は町の人々に道を尋ねながら闘技場へと向かった。

 闘技場は普段は演劇鑑賞で使われているような石造りの舞台であった。

 すり鉢状に観客用の座席が舞台を取り囲んで広がる。

 スヴェン達が辿り着いた頃は既に一つの試合が決着した後であった。

 一人のフルプレートの騎士が勝利してガッツポーズをしており、もう一人のフルプレートの騎士は倒れて失神している。

 衛生兵とおぼしき二人が担架で倒れた騎士を運んでいった。

 試合を取り仕切っている役人がメモ書きを見ながら声を張り上げる。


「これより第5試合を行う。

 騎士ダニエロ、異国の騎士カゲヒサ。

 両者前へ」


 ダニエロは豪華なフルプレートを付けており、この地方の伝統的かつ高名な騎士であることは見て取れた。

 その手には巨大なロングソードが握られている。

 一方カゲヒサはスヴェン達が見たことも無い布の服を付け、頭頂部を剃って束ねた髪を載せていた。

 その手には見たこともない細長い曲刀が握られていた。

 カゲヒサはダニエロに向き合うと、上半身を曲げて一礼した。

 ダニエロは無視してロングソードを持ち上げ、肩の辺りに構える。

 観客たちはカゲヒサを見て笑い始めた。

 アチコチでヒソヒソ声が聞こえる。


「何あの頭。ハゲてるの?」

「いや、剃り跡が見えるから剃ってるんだよ」

「鎧着てないじゃん。戦いを舐めてるよ」

「どこかの土人だろ。神聖な騎士の戦いの場に誰が入れたんだよ。後で抗議しよう」


 役人が叫ぶ。


「始めぇ!」


 ダニエロは突進し、思い切りロングソードを振り下ろした。

 カゲヒサは刀を振り上げながら素早く飛び退いて鼻先をかすめる程の距離でダニエロの剣をすかした。

 ロングソードを振りぬいた状態のダニエルの篭手に素早く刀の切っ先が打ち込まれる。

 その想像外の威力にダニエロは剣を地面に落っことした。

 カゲヒサは切っ先をダニエロの喉元に突き付けると役人を見る。

 本来、武器を落とせば負けである。

 だが役人は沈黙してダニエロの方を見守っていた。

 観客がざわめく。


「おい、武器を落としたぞ。負けじゃないのか?」

「いいぞ役人、その調子だ」

「試合でいい気になってるんじゃないぞ土人が!

 本番ならお前の剣はプレートアーマーに手も足も出ずに殺されてるぞ」


 ダニエロは強引に刀の切っ先を払ってロングソードを拾うと横切りのスウィングを行った。

 カゲヒサは飛び退いてかわすと、ダニエロが立ち上がり剣を構えるまで待っている。

 ダニエロがノロノロと剣を振り上げた時、カゲヒサは素早く前進して突きを放った。

 信じられないことに刀の切っ先はフルプレートの胴を貫通している。

 ダニエロは叫び声を上げて倒れた。

 衛生兵が慌てて駆け寄り、ダニエロの鎧を脱がせる。

 歩み寄ったカゲヒサは取り出した包帯で即座にダニエロを止血し、衛生兵に運ばれる彼に一礼をした。

 役人は狼狽えながらも声を張り上げる。


「勝者、カゲヒサ!

 続いて第6試合、決勝戦。

 カーグレイルの誇る正統な騎士の血を引く勇者、モーガス

 対

 異国の騎士カゲヒサ! 両者前へ」


 観客からヤジが飛んだ。


「おいおい、いつもの休憩時間は無しなのかよ?

 カゲヒサは連戦だぞ!」

「いいぞいいぞ、やっちまえモーガス!」


 役人はフルプレートの騎士モーガスに近寄ると何かを囁く。

 モーガスは無言でそれを聞き、微動だにしなかった。

 役人はヤジを無視して叫ぶ。


「両者前へ!」


 モーガスとカゲヒサが向き合った。

 カゲヒサはモーガスに一礼を行った。

 と、その瞬間モーガスはカゲヒサにロングソードで斬りつけた。

 カゲヒサは飛び退くが僅かに遅く、胸を袈裟斬りに切られてしまい、着物がはだけて血が滲み、ボトボトと滴り落ちる。


「おい、開始前に攻撃したぞ!」

「おい役人! 反則だろ!」

「いいぞいいぞ、モーガス、やっちまえ!」


 役人はモーガスを見てニンマリ笑みを浮かべて、よくやったと頷くと手を上げて声を張り上げた。


「それでは試合開始! 始めぇっ!」

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