One Night Live
ライブは大型のコンサートホールで行われることになっていた。
屋外ライブの方がより多くの観客を動員できるが、悪天候による中止は絶対に避けたかった。なにしろ一夜限りの復活ライブなのだから。
チケットは早々にソールドアウトとなった。40年たっても全米から、いや全世界から駆けつけてくれるファンがいる。メンバーは感動していた。そしてその期待に恥じないようなライブにしなければならない。
関係者席にはメンバーの家族が招待されていた。シンディの父親アーサーは開演前からすでに感極まっていた。
レイクの家族席の顔ぶれはイーサンとシンディ。シンディの両親。エヴァンとラルフ。そして先日結婚したばかりの姉のスーザンとスコットだった。
ロートレックと同じ事務所のバネッサとアーロンはDELUGEのメンバーと一緒に事務所関係者席に並んでいた。バネッサの指にはあのチープリングが戻っていた。
ライブが始まった。観客はその瞬間、総立ちになった。
ボイストレーニングを積んだクリスの高音は健在だった。
デイビーのベースも、アルフレッドのキーボードも時を越えてよみがえった。
一段高い場所にセッティングされたジョーイのドラムソロが始まった。ライトに照らされた中、飛び散る汗。高揚感に包まれたジョーイの姿がレイクはとても好きだった。
ジョーイがレイクにアイコンタクトを送ってきた。これがレイクのギターソロに移る合図。
レイクにとって最後のライブとなったベルリンのあの夜と同じ構成だった。
40年前、ベルリンでジョーイと別れ、ルイーズと結婚してイーサンとエヴァンというふたりの息子をもうけた。しかし妻のルイーズを不慮の事故、食害被害で失った。
そして今、レイク・ギルバートは愛する家族の見守る中、ロートレックのギタリストとして再びステージに立っていた。
「パパったら泣きすぎ」
シンディはとなりの夫の耳元で笑った。ライブ終了後、父親のアーサーは号泣していた。
メンバーの不慮の死、疑惑の転落事故。バンドにとって致命的とも言える悲劇を乗り越えて再結成した伝説のロックバンド、ロートレック。二度と生で見ることはないだろうとあきらめていたそのライブに参戦できたのだ。40年間ずっとファンでいてよかった。
「お義父さんも楽屋へ行きませんか?」
イーサンに声をかけられた。
「ありがとう、でもせっかくだけど今夜はロートレックのファンのひとりとしてこのまま余韻に浸りたいんだ。レイクにとても良かったと伝えてくれないか」
楽屋ではメンバーやスタッフの家族も交え簡単な打ち上げが始まっていた。
それぞれ家族や友人に囲まれ復活ライブの成功を祝った。
レイクもふたりの息子とそのパートナー、姉スーザンとスコットに囲まれていた。
レイクのとなりにはジョーイがいた。
あの時、息子たちが行動を起こしていなかったら、今この場所にレイクはいなかった。そしてもちろんジョーイとも再会していなかった。
事務所の代表として、またロートレックのリーダーとしてひと通りの歓談を終えたクリスは少し離れた場所でささやかな達成感に浸っていた。
ライブは大成功だった。自分を含め枯れかかっていたじいさん達が今夜、再び輝きを取り戻した。一部あえてベルリンライブと同じ構成にしたのはレイクとジョーイがあの夜以前に戻るためのクリスなりの配慮だったが、どうやらそれは取り越し苦労だったようだ。
レイクとジョーイは家族の笑顔に包まれて40年前よりもさらに幸せそうに見えた。
「ボビー見ていてくれたかな? キミとも一緒にステージに立ちたかったよ」




