Little Secret 2
ボビーの予言どおり、クリスはボビーの求めに応じるようになった。そのうちクリスからもボビーを求めるようになった。
あくまでもオーラルセックスだけの関係だったが、背徳行為のやましさから逃れるようにクリスは征服者のようにボビーを扱った。
両手でボビーの頭を押さえつけて呼吸すら困難なほど深く挿入した。そしてむせて咳き込むボビーを冷ややかに見下ろした。
冷酷になることで狂気の世界に堕ちてしまいそうな自分をなんとか制御しようとしていた。
ボビーがクリスの部屋をノックしないで入るところを何度か目撃したジョーイは同類者の直感で二人がある線を越えたであろうことに気づいた。
しかしボビーは決して幸せそうではなかった。それはクリスも同じだった。
クリスの中に常にある罪悪感が二人の間に重く澱んでいた。
もちろんメンバーと一緒にいる時の二人は以前どおり明るく自然に振る舞っていたが。
クリスは苦悩していた。10代の頃からのつきあいで気心もしれていたボビーのことをクリスは好きだった。もちろん好きというのは友人としての好きであって、そこに恋愛感情は存在しなかった。
それなのに禁断の泥沼に足を踏み入れてしまった嫌悪感。ボビーの純粋な気持ちを蹂躙しているという罪悪感。ジョーイやレイクのように関係を公にできるほどの勇気もなかった。
クリスはガールフレンドのリタと避妊せずにセックスするようになった。もちろんリタのことは愛していたが当時は結婚までは考えていなかった。短絡的だけど今の泥沼から逃れるためにはこうするしかなかった。そしてリタは妊娠した。
妊娠と婚約を発表したときいちばんに「おめでとう」とボビーが言った。
クリスはボビーの目を見ることはできなかった。
そしてボビーとクリスの「小さな秘密」も終わりボビーのドラッグに依存する日々が始まった。
リタと結婚し娘ドロシーが生まれた。純粋な動機での結婚ではなかったが、人並みの幸せを感じ始めたクリスにボビーの事故死の一報が届いた。
クリスは打ちひしがれた。バンドとしての損失も大きかったが、それよりも大切な友人を死に向かわせた原因が自分にあることは明らかだった。
その負い目は結婚生活にも暗い影を落とし、結局妻と娘は彼から去って行くことになる。
その後、クリスが家庭を持つことはなかった。幸せにしてやれなかった妻と娘への償いとボビーに対する懺悔の気持ちがクリスをいっそう仕事にのめり込ませた。結果、ビジネスだけは成功した。
ロートレック再結成の話が出たとき、ジョーイはレイクの参加を強く望んだ。
全くその気のなかったレイクをバンドに参加させようと彼のふたりの息子、イーサンとエヴァンとともに奔走したのは、ボビーへの償いの気持ちからだったのかもしれない。せめてジョーイとレイクだけでも後悔のない人生を歩んで欲しかった。
「ボビー、見ていてくれよ。キミが愛したロートレックの40年ぶりのライブだよ」
墓石に触れながらクリスがつぶやいた。




