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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第4章:歴史の分岐点〜孤島攻防戦〜

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第74話 裏切りの連鎖と、泥舟の決断

話の流れをスムーズにする為、73話の1部をリライト致しました。

 日本の政治の中枢、永田町の首相官邸。その地下に設けられた危機管理センターの極秘会議室は、絞り出すような重い沈黙と、濃密な恐怖に包まれていた。


円卓を囲むのは、日本の総理大臣をはじめとする主要閣僚、そして自衛隊の幕僚長たち。彼らの前に座っているのは、アメリカ、中国、ロシア、欧州連合から密かに派遣された『G4(臨時四ヶ国協調体制)』の特使たちだった。


「――国連安全保障理事会において、イージス・イノベーションズを国際テロ組織と認定する決議案が、全会一致で採択されるのは時間の問題だ。我々G4は、人類の脅威を排除するため、多国籍軍の編成をすでに開始している」


アメリカの特使が、傲慢に足を組みながら宣告した。

「日本政府に突きつける選択肢は二つだ。イージス社を国家として匿い、テロ支援国家として我々多国籍軍の『全面的な武力制裁』と『経済封鎖』を受けるか。……あるいは、ただちにイージス社の活動を違法とし、自衛隊を動員して神盾宗一の身柄と、深海プラントの制御コードを我々に引き渡すか、だ」


総理大臣の顔面からは完全に血の気が引き、額から流れる滝のような冷や汗を拭うことすら忘れていた。

 この十数年間、日本はイージス社がもたらす無尽蔵のエネルギーと富によって、空前の黄金時代を謳歌してきた。彼ら政治家も、神盾宗一を『国の英雄』と祭り上げ、そのおこぼれを啜って甘い汁を吸い続けてきたのだ。


「し、しかし……イージス社は我が国のエネルギーインフラのすべてを握っています。もし彼らを刺激してプラントを止められれば、日本経済は数日で崩壊してしまう!」

 経済産業大臣が、悲鳴のような声を上げた。


「ご安心を。我々G4の特殊部隊が同時に動き、プラントの制御中枢は物理的に制圧します」

 中国の特使が、冷たい笑みを浮かべて甘い餌をぶら下げた。

「神盾宗一という独裁者を排除した後も、プラントから得られるエネルギーは、これまで通り日本へ優先的に供給することを我々が保証しましょう。……もちろん、適切な『管理費』はいただきますがね。少なくとも、テロリストと心中して国が焦土になるよりは、遥かに賢明な選択だと思いませんか?」


「そ、それは……」


閣僚たちは互いに顔を見合わせた。

 彼らの瞳の奥で、急速に『保身』の計算が弾き出されていく。


相手は、世界を牛耳る四大勢力の連合軍だ。彼らが本気で日本を海上封鎖し、ミサイルを撃ち込んできたら、自衛隊だけで防ぎ切れるはずがない。

 ならば、イージス社という一民間企業を『生贄』に差し出し、自分たちの地位と命だけは守り抜く。それが政治家としての正しい決断だ。彼らは、自らの裏切りを正当化するための理由を瞬時に組み上げた。


「……神盾宗一は、我が国の承認もなく、勝手に危険な宇宙兵器を開発していたという疑惑もある。そんな危険人物に、国家の命運を預け続けるわけにはいかない」

 防衛大臣が、もっともらしい声で呟いた。


「総理。……苦渋の決断ですが、国際社会と協調し、テロリストを排除するのが我が国の義務かと」

 官房長官も深く頷く。


総理は、重く震える息を吐き出し、決死の表情でG4の特使たちに向き直った。


「……わかりました。日本政府は、国際社会の平和のために協力いたします。直ちに警察庁の特殊急襲部隊(SAT)と自衛隊の特殊作戦群を動員し、六本木のイージス本社へ突入……神盾宗一の身柄を確保します」


「賢明な判断だ、総理。歴史はあなたを、テロリストから国を救った英雄として記憶するだろう」

 アメリカの特使が、残忍な笑みを浮かべて握手を求めた。


彼らは自分たちの決断が、国を救う最善の一手だと信じて疑わなかった。

 自分たちが差し出した相手が、大国の総力すらも赤子扱いする『極東の悪魔』であるという事実から目を逸らし、ただ目の前の恐怖から逃れるためだけに、沈みゆく泥舟へと自ら乗り込んだのだった。


* * *


「――大国に尻尾を振る犬は、やはり最後まで犬だったというわけですね」


地球の裏側でも、空の上でもない。まさに彼らが突入目標に定めた東京、六本木ヒルズ。

 イージス・イノベーションズ本社の地下深くに広がるサイバー・コントロールルームで、橘玲奈が手元のタブレットから視線を上げ、心底からの軽蔑と嘲笑を込めて吐き捨てた。


巨大なモニターには、首相官邸の地下会議室で交わされた、日本政府とG4特使との『裏切りの密約』の全容が、一字一句違わずリアルタイムで再生されていた。

 我々の仕込んだナノ・ドローンは、スイスの古城だけでなく、この国の政治の中枢にも当然のように張り付いているのだ。


「彼らは、ボスが与えた富でここまで肥え太っておきながら、いざ大国に凄まれれば、あっさりと恩人をテロリスト呼ばわりして売り飛ばす。……人間の浅ましさの極致です。反吐が出ますね」


「怒るな、玲奈。想定通りの動きだ」

 私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、冷めたコーヒーを口に運び、極低温の笑みをこぼした。


「権力にしがみつく化石どもに、義理や恩などという概念は存在しない。彼らはただ、自分より大きい暴力に怯え、常に強い側に立とうとするだけの悲しい生き物だ。……彼らが裏切ったという事実は、我々が日本という国家のしがらみを完全に切り捨てて『聖域』へ向かうための、最高の大義名分となる」


『ヒャッハー!! 全くだぜボス! あんな腰抜けの国に義理立てしてやる必要はもうねえ!』

 暗号化通信の分割画面で、南太平洋の要塞ニヴルヘイムにいるDr.クリス・ウォーカーが、狂喜の声を上げた。

『大国どもの空約束を信じて、深海プラントを無傷で横取りできると思ってるなんて、お花畑にも程があるぜ! あのプラントは、ボスの暗号コードが途絶えた瞬間、数万度のプラズマでドロドロに溶け落ちる自爆装置付きだってことを、完全に忘れてやがる!』


「人間は、自分が見たい現実しか見ようとしないからな」

 私は、モニターに映る霞が関や自衛隊の駐屯地の慌ただしい動きを見下ろした。

 すでに警察のSATや自衛隊の特殊作戦群が、六本木のイージス本社や、私の家族が住むタワーマンションへ向けて出動の準備を始めている。


『――ボス。ご家族の確保および退避準備、すべて完了いたしました』


もう一つの分割画面で、ヴィクトル・イワノフが火傷の痕が残る顔を歪め、冷徹な声で報告する。

『誠様には「緊急の極秘プロジェクトのため、家族全員で海外の施設へ移動する」と説明し、すでに結衣奥様、サチコお嬢様、そしてユウキ様と共に、地下の専用シェルターからステルス輸送機へご案内しました。彼らは事態の深刻さを一切感知しておりません』


「ご苦労、ヴィクトル」

 私は深く安堵の息を吐き出した。


日本政府の裏切りは想定内だったが、警察や自衛隊が私の家族に銃口を向ける事態だけは、絶対に避けなければならなかった。サチコやユウキに、自分たちが国からテロリストの家族として追われるという恐怖を、一秒たりとも味わわせるわけにはいかない。

 彼女たちの心の中では、私は常に『世界を平和にする優しい父親(祖父)』であり続けなければならないのだ。


『日本国内に展開していた我がシャドウの部隊も、ダミー会社や隠れ家の痕跡を完全に消去し、順次ニヴルヘイムへの撤収ルートに入っています。……最後に、この六本木本社ビルに突入してくる哀れな政府の犬どもは、どう処理しますか? 迎撃システムを起動し、皆殺しにしますか?』

 ヴィクトルの瞳に、冷酷な殺気が宿る。


「いや、無用な血は流さない。彼らも上からの命令で動かされているだけの駒だ」

 私はゆっくりと立ち上がり、コントロールデスクに手をついた。


「彼らが踏み込む頃には、この本社はただの巨大な『空き箱』となっている。……玲奈、サイバーチーム。あらかじめ準備していた通り、全データの物理的消去パージを開始しろ」


「了解いたしました」

 玲奈の指が滑らかにキーボードを叩き、無機質な電子音がコントロールルームに響き渡る。

「イージス社が保有するすべての特許データ、顧客情報、そして深海プラントの制御コード。……一バイト残らず、ニヴルヘイムの量子スーパーコンピュータへと完全移行マイグレーションを完了しました」


「見事だ。彼らは自分たちの裏切りが、自らの首を絞める結果になるとは夢にも思っていないだろうな」

 私は、窓ガラスに映る自分の冷酷な顔を見つめながら、静かに告げた。


私が深海プラントの制御コードをニヴルヘイムへ持ち去れば、日本政府はG4に引き渡す手土産を失う。それどころか、プラントは沈黙し、日本のエネルギー供給は完全にストップする。

 彼らは、自分たちを守ってくれていた絶対的な『盾』を自らの手で破壊し、G4という名のハイエナの群れの中に丸腰で放り出されるのだ。


「自業自得だ。……私と家族を裏切った代償は、歴史の修正力と共に、その身でたっぷりと味わうがいい」


『――全データ転送、完了。国内サーバーの物理的破壊(サーマイト溶断)シークエンス、スタンバイ』

 無機質なAIの音声が、冷たく響く。


「玲奈、我々も出発するぞ。……迎えの機は来ているな?」

「はい。屋上のヘリポートに、ステルス輸送機が待機しています」


私は、最後に一度だけ、壁面の巨大モニターに映る東京の眩い夜景を見下ろした。

 私が未来の技術で黄金時代をもたらし、家族と共に平和な日々を過ごした街。

 だが、その輝きも今夜で終わる。次に私がこの地を見る時、世界はすでに私が放つ宇宙からの業火によって、決定的な終末と再生を迎えているはずだ。


「さらばだ、愚かなる者たちよ」


私はコントロールデスクの最終承認キー(エンター)を力強く叩き込んだ。


直後、地下のサーバー群から鈍い爆発音が響き、数万台のストレージが数千度の超高熱によってドロドロに溶け落ちていく。

 そして数秒後。六本木の本社だけでなく、日本全土を照らしていた無数のネオンや街灯が、まるで命の火が消えるように次々とフッと消滅し始めた。


深海プラントの緊急停止による、日本列島の大規模なブラックアウト(大停電)の始まりだ。


暗闇の中で右往左往する人々。何も知らずに突入し、もぬけの殻のビルで呆然と立ち尽くす特殊部隊。そして、自らが引き起こした経済崩壊の恐怖に顔を青ざめる官僚たち。

 イージス・イノベーションズの『表の顔』は、彼らを絶望のどん底へ置き去りにして、完全に消滅した。


サイバー・コントロールルームの照明が落ち、真っ暗になった部屋を背に。

 極東の悪魔は愛する家族の待つ最後の聖域――南太平洋の孤島要塞『ニヴルヘイム』へと向けて、静かに、そして冷徹に歩みを進めたのだった。

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