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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第3章:宇宙の覇権奪取

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第48話 一瞬の狂喜と、崩壊する磁場(ケージ)

 アメリカ合衆国カリフォルニア州、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地。

 極秘のコントロールセンターは、数秒前の死に絶えたような静寂から一転し、爆発的な歓喜の渦に包まれていた。


『――点火イグニッション成功! プラズマ発生を確認!』


 オペレーターの弾んだ声が、張り詰めていた空気を一気に吹き飛ばした。

 巨大なメインスクリーンに映し出された『ゼウス・プロトタイプ』の中央部、円筒形のジェネレーターコアの内部で、青白いプラズマの光が安定して瞬いている。


『出力一パーセントを維持。第一から第三磁場コイル、正常に稼働中! プラズマの封じ込め、完全に安定しています! 機体外殻の温度上昇も規定値内です!』


「おおおおっ!!」

「やったぞ! 我々はついに成功したんだ!!」


 コントロールセンター内に、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

 軍の士官たちは互いに抱き合い、研究員たちは涙を流して喜びを爆発させている。ペンタゴンの地下でこの中継を見守っているであろう大統領や議会の重鎮たちも、今頃は勝利の美酒で乾杯していることだろう。


「ハッハッハ! 見たか、アルバート博士! 私の言った通り、杞憂だったではないか!」

 宇宙軍の強硬派将軍は、満面の笑みで高笑いを上げ、アルバート・スタンフォード博士の肩をバシバシと力強く叩いた。


「完璧だ、完璧に動いているぞ! これこそがアメリカの力だ! 極東の島国で通信インフラを牛耳っているイージス・イノベーションズのIT成金どもも、我が国が宇宙空間でプラズマ兵器を稼働させたという事実を知れば、恐怖で震え上がるに違いない!」

「あ、ああ……神よ、感謝します……」


 アルバートは、コンソールにすがりつくようにして、安堵の涙を浮かべていた。

 彼の目から見ても、送られてくるテレメトリーデータは『完璧』だった。地上でのシミュレーションで彼を散々苦しめ続けた「原因不明の磁場崩壊」の兆候は、どこにも見当たらない。

 プラズマは強固な電磁場のケージの中に完全に封じ込められ、宇宙の真空と極低温という過酷な環境下でも、安定した光を放ち続けている。


(……私の計算は、間違っていなかったのだ。私は、人類で初めて宇宙空間に神の火を灯した科学者になったんだ……!)


 アルバートの胸の内に、長年の苦労が報われた達成感と、強烈な自負心が込み上げてくる。

 これでゼウス計画の予算は継続され、彼はアメリカを救った英雄として歴史に名を刻むことになる。ノーベル賞すらも夢ではないかもしれない。


 彼らは、自分たちが『神の領域』へ到達したと本気で信じ、狂喜乱舞していた。

 アメリカという超大国が、再び世界の絶対的な覇権を握ったのだと。


 だが。

 彼らは知る由もなかった。

 その『完璧なデータ』そのものが、極東の悪魔が仕組んだ残酷な幻影フェイクであるということに。


     * * *


「――馬鹿な連中だ。自分たちが造ったものが、プラズマを安定して閉じ込められると本気で信じている」


 地球の裏側。東京、六本木ヒルズ。

 イージス本社の地下に広がるサイバー・コントロールルームで、私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、冷酷な嘲笑を漏らした。

 壁一面の巨大モニターには、ヴァンデンバーグ基地の狂喜する映像と、宇宙空間で稼働するゼウスの姿が、鮮明に映し出されている。


「ボス。アメリカ側のメインシステムは現在『オールグリーン』のサインを出していますが……実際のゼウスの内部では、すでに崩壊が始まっています」

 橘玲奈が、手元のタブレットでイージス社の量子レーダーが直接観測した『真のデータ』を表示しながら報告する。


「ええ。我がサイバーチームが仕込んだパラサイト・ウイルスが、彼らの監視モニターに送られるデータを『正常な数値』に偽装スプーフィングしているだけですからね。……実際には、第二磁場コイルの超電導回路に、すでに致命的なエラーが発生しています」

 サイバーチームのチーフが、悪魔のような笑みを浮かべてタイピングの手を止めた。


 私が暗号化通信のスイッチを入れると、モニターの分割画面に、南太平洋の要塞ニヴルヘイムで指揮を執るDr.クリス・ウォーカーの顔が映し出された。


『ヒャッハー!! たまんねえなボス! 最高のコメディ映画だぜ!』

 クリスはポップコーンを頬張りながら、画面の向こうで腹を抱えて大爆笑している。


『あのアメリカのエリートども、モニターの偽装データだけを見て、自分たちが神になったと勘違いしてやがる! だが、実際の物理現象は嘘をつかねえ!』

 クリスは、ゼウスの内部構造の赤外線サーモグラフィ映像を画面に展開した。


『見ろよ。パラサイト・ウイルスが磁場制御のアルゴリズムに混ぜ込んだ、たった『小数点第五位以下』の計算誤差。それが、プラズマの点火と同時にコンマ一秒の間に数万回もループ計算され、指数関数的に増幅している!』

「ああ。磁場の檻に、目に見えない『歪み』が生じているな」

 私は、赤外線映像の中で、青白いプラズマを囲む磁場の膜が、脈打つように不安定に波打っているのを見つめた。


『その通りだ! プラズマってのは、少しでも磁場のバランスが崩れりゃ、一瞬で牙を剥く暴れ馬だ。今、ゼウスの内部では、磁場の薄くなった部分から数万度の熱線が漏れ出し、ジェネレーターの隔壁を直接炙り始めている。……だが、アメリカの連中のモニターには、まだ『温度正常』って表示されてるんだぜ!』


「滑稽なものだ」

 私は冷めたコーヒーを口に運び、冷徹に告げた。


「アルバートは、地上でのシミュレーションで起きていた磁場崩壊を『原因不明のエラー』として片付け、強引に打ち上げを強行した。……彼らは、自分たちの目が完全に塞がれていることにすら気づいていない」


「ボス。そろそろ、彼らに『現実』を見せてやりますか?」

 チーフが、キーボードに手を添えて尋ねてくる。


「ああ。五秒後に、監視データへの偽装スプーフィングを解除しろ」

 私は、画面の中で抱き合って喜んでいるアメリカの将軍とアルバート博士を見下ろし、極低温の死刑宣告を下した。


「天国から地獄への落下距離が長いほど、絶望は深くなる。……彼らに、自分たちが火薬庫の中で火遊びをしていたという『真実』を教えてやれ」


     * * *


『――警告アラート! 第二磁場コイルに異常な電圧降下! プラズマの封じ込めに微細な揺らぎが生じています!』


 ヴァンデンバーグ基地のコントロールセンター。

 歓喜の拍手と笑い声で満たされていた空間に、突如としてオペレーターの悲鳴にも似た絶叫が響き渡った。


「な、なんだと!?」

 将軍の高笑いがピタリと止まり、アルバートの顔から一瞬にして血の気が引いた。


「どういうことだ! さっきまでオールグリーンだったじゃないか!」

「わ、わかりません! 突然、システムが大量のエラーログを吐き出し始めました! 実際のセンサーの数値と、先ほどまで表示されていた数値が全く違います! 第一、第三コイルにも負荷が連鎖し、磁場のケージが崩壊しつつあります!」


『警告! プラズマの熱線が磁場を突破! ジェネレーター内壁へ直接接触! コア温度、急上昇! 一万度を突破!』


 メインスクリーンに表示されたゼウスのサーモグラフィが、一瞬にして危険を示す真っ赤な色へと反転した。

 コントロールセンター内に、けたたましいレッドアラートのサイレンが鳴り響き、赤色灯が狂ったように回転し始める。


「ば、馬鹿な……出力はたったの一パーセントだぞ! なぜ磁場が崩壊する!」

 アルバートがコンソールにすがりつき、目玉がこぼれ落ちそうなほど見開いてデータを凝視する。


「誤差だ……! 地上でのシミュレーションと同じ、原因不明のアルゴリズムの誤差だ! それが、点火と同時に数万倍に増幅されている! いや、それだけじゃない……宇宙空間の太陽風からの強烈な放射線干渉が、エラーをさらに致命的なレベルへと引き上げているんだ!」


 アルバートは、自らの甘い予測と、政治的圧力に屈して未完成のまま打ち上げた己の愚かさを呪った。

 だが、後悔している暇など一秒もない。


『コア温度、二万度……三万度!! ジェネレーターの耐熱限界に接近しています!』

「出力を下げろ! すぐにシャットダウンシークエンスに移行し、プラズマを消火しろ!!」

 アルバートがマイクを握りしめ、血を吐くような声で絶叫する。


「だ、駄目です! コマンドを受け付けません! システムがフリーズしています!」

 オペレーターが、キーボードを狂ったように叩きながら半狂乱で叫び返した。


「手動で電源を落とせ! 遠隔操作で物理的にサーキットブレーカーを切れ!!」

「物理回線も応答しません! 冷却システムもオフライン! メインフレームが……何者かに、あるいはシステム自体が暴走して、管理者権限をロックしています!!」


 それは、イージス社の仕込んだパラサイト・ウイルスが、ついにその本性を完全に現した瞬間だった。

 ウイルスの目的はただ一つ。磁場を崩壊させ、プラズマを暴走させ、絶対にシャットダウンさせないこと。ゼウスという機体を、内側から完全に焼き尽くすための悪魔のプログラム。


「な、なんだこれは……! どうなっているんだ博士!!」

 将軍は、先ほどまでの傲慢さを完全に喪失し、アルバートの白衣の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。

「すぐになんとかしろ! ペンタゴンと議会がこの中継を見ているんだぞ!! アメリカの威信が……私のキャリアが吹き飛んでしまう!!」


「無理だ……! もう誰にも止められない!」

 アルバートは将軍の手を振り払い、髪を掻きむしりながら泣き叫んだ。


 彼らはようやく理解したのだ。

 自分たちが宇宙へ解き放ったものが、『神』などではないということを。

 制御不能の数万度のプラズマを抱え込み、ただひたすらに自らの熱で自らを焼き尽くす、史上最悪の『時限爆弾』を起動させてしまったという事実に。


「逃げろ……いや、逃げられない! 宇宙空間でメルトダウンを起こせば、機体は……ッ!!」


『コア温度、八万度を突破。……ジェネレーター隔壁の溶解を開始します』

 無機質なシステムの音声が、死の宣告のように司令室に響き渡った。


 コントロールセンターは、完全な阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 メインスクリーンに映るゼウス・プロトタイプは、青白い光を機体の外殻にまで漏らし始め、強靭なはずの超電導チタン合金の装甲が、内側からの超絶的な熱量によって赤熱し、ドロドロに溶け出していた。


 超大国アメリカが、自らの驕りによって引き金を引き、自滅への奈落へと真っ逆さまに転がり落ちていく。

 その絶望のショーを、極東の悪魔は、冷たいコーヒーを飲みながら特等席で静かに見下ろしていた。

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