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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第2章:暗闘と影の軍団

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第24話 深淵のオーパーツと、極秘の組み立て

【作者よりお知らせ】

今後のストーリー展開をより鮮明にするため、第21話以降を大幅に改稿いたしました。

21話から読み直していただくと、最新話への繋がりがよりスムーズになります。

お手数をおかけしますが、ぜひ遡ってお楽しみください!

 西暦2016年、初夏。

 伊豆諸島沖、太平洋上。地図には存在しない指定海域に、巨大な洋上プラットフォームが忽然と姿を現していた。

 表向きは「海洋気象観測および深海探査用の民間施設」として政府に申請されているが、その実態は、日本の近海に眠る資源を喰い尽くすための巨大な前線基地だ。


 海風が吹き荒れる洋上。プラットフォームの周囲半径十キロ圏内は、ヴィクトル・イワノフ率いる暗殺部隊『シャドウ』の高速哨戒艇と、レーダーを妨害する最新鋭のジャミング・ドローンによって完全に封鎖されていた。

 近づこうとする不審な漁船やプレジャーボートはもちろんのこと、部品の輸送を護衛してきた海上自衛隊の艦船でさえ、この絶対防衛線より内側への立ち入りは固く禁じられている。


「――周辺海域のクリアを維持。海中ソナーにも異常なし。ネズミ一匹、この聖域には近づけません」


 東京、六本木のイージス・イノベーションズ本社。

 最上階の防音セキュリティが施された極秘コントロールルームで、壁一面に設置された巨大なモニター群の一つに、洋上プラットフォームで指揮を執るヴィクトルの姿が映し出されていた。


「ご苦労、ヴィクトル。海中への音波の漏洩にも気を配れ。他国の潜水艦に組み立てのスクリュー音を拾われるわけにはいかないからな」

『了解しています、ボス。海中には特殊なノイズキャンセリング・ソノブイを展開済みです』


 ヴィクトルの報告に短く頷き、私はレザーチェアに深く腰掛けた。

 私の隣では、CFOの橘玲奈がタブレットを操作し、次々と送られてくる膨大なテレメトリー(遠隔測定)データを処理している。


「ボス。国内の大日本自動車をはじめとする数十の工場から輸送されたパーツ群は、すべて海中への投下を完了しました。これより、最終フェーズである『海中組み立て作業』へと移行します」

「開始しろ」


 私が命じると、玲奈がキーボードのエンターキーを叩いた。

 メインモニターに、太陽の光が一切届かない水深三千メートルの、漆黒の深海の映像が映し出される。

 そこにあるのは、無辺際に広がる泥と岩の海底。そして、その上に投下された無数の巨大な金属パーツ群だ。


自律型無人潜水機ドローン群、起動します」


 玲奈の言葉と共に、深海の闇の中に無数の青いLEDの光が灯った。

 イージス社が極秘裏に開発した、深海作業用の特殊ドローン群だ。その数、実に五十機。

 彼らは人間の遠隔操作を受けることなく、AIの完全な自律制御によって一斉に動き出した。


 人間のダイバーでは水圧で即座に圧死し、現代の有人潜水艇でも極めて困難な深海三千メートルの過酷な環境下。

 そこで、ドローンたちはまるで一つの巨大な生命体のように連携し、寸分の狂いもなく巨大なパーツを運び、ジョイントを合わせ、特殊なレーザー溶接で結合させていく。

 日本の熟練技術者たちが「オーパーツ」と恐れおののきながら、ナノメートル単位の公差で削り出したパーツ群が、次々とパズルのピースのようにはめ込まれていく。


「見事なものです」

 玲奈が、モニターに映る無音の組み立て作業を見つめながら感嘆の息を漏らした。

「これほどの巨大な構造物を、人間の目を一切排除した深海で、機械の自律判断のみで組み上げるなど……。現代の技術では、NASAや軍の深海部隊でさえ不可能です」


「当然だ。設計思想の根底が違う」

 私は冷めたコーヒーを口に運びながら答えた。

「この深海プラントの中核技術は、完全にブラックボックス化されている。万が一にも、組み立ての過程や内部構造を他国のスパイや日本の技術者に見られるわけにはいかない。だからこそ、人間の入れない深海を組み立て工場に選んだのだ」


 モニターの中で、ついにその巨大な威容が形を成し始めた。

 全長五十メートルにも及ぶ、巨大な深海魚のような流線型の機体。

 『次世代型メタンハイドレート抽出プラント』の中核をなす、自律型海底無人掘削機――コードネーム『クラーケン』だ。


『ヒャッハー!! たまんねえな! 私が設計した最強の深海の怪物が、ついに目を覚ますぜ!』

 別のモニターから、南太平洋の要塞ニヴルヘイムにいるDr.クリス・ウォーカーの、狂喜乱舞する声が響き渡った。


「クリス。機体のジョイントの耐圧テストと、動力源への接続状況はどうなっている」

『完璧だぜボス! 海中組み立てによる接合部の強度は、理論値の百二十パーセントをマークしている。超電導アンビリカルケーブル(命綱)を通じた洋上プラットフォームからの電力供給も正常だ!』

 クリスは血走った目で画面に顔を近づけ、興奮を隠しきれない様子で報告した。


「よし。これより、『クラーケン』の実働稼働テストを開始する。玲奈」

「はい、ボス。AIの制御権をテストモードから本稼働モードへ移行。……クラーケン、起動します」


 玲奈がシステムを解放する。

 その瞬間、深海に沈む巨大な金属の塊の表面に、無数のライン状の光が走った。機体が、まるで静かに呼吸を始めたかのように微かに脈動する。


『――システム・オールグリーン。クラーケン、着底地点の地質スキャンを開始……目標資源層の特定を完了。採掘プロセスに移行します』


「ドリルを使わずに地盤を掘り進む……何度シミュレーションを見ても、現実のものとは思えません」

 玲奈が、食い入るようにモニターを見つめる。


 従来の海底掘削は、強靭な金属のドリルを高速回転させて地盤を削り取る物理的な手法しか存在しなかった。だが、深海の過酷な環境下ではドリルの摩耗が激しく、刃の交換のために深海と海上を往復するだけで莫大な時間とコストがかかる。それが、深海資源の商業採掘を不可能にしている最大の壁だった。


 だが、クラーケンに無骨な金属のドリルは存在しない。

 彼が用いるのは、五十数年先の未来から持ち込まれた、全く別の物理的アプローチだ。


「開始しろ」

 私が短く命じると、深海のカメラが、クラーケンの先端部分から放たれる『光』を捉えた。


 ――カァァァァッ……!


 太陽の光を知らない絶対の暗黒を切り裂く、眩いほどの青白い閃光。

 Dr.クリスが『神のトール・ハンマー』の理論を応用して組み上げた、プラズマ発生器だ。


「なっ……! 海水が沸騰しません!?」

 玲奈が驚愕の声を上げる。

 数万度に達するプラズマを水中で発生させれば、瞬時に海水が気化し、大規模な水蒸気爆発を起こすのが現代の物理法則の常識だ。


『ハッハッハッ! 当たり前だ!』

 クリスが狂ったように笑う。

『プラズマの周囲を強力な磁場で覆い、海水との直接接触を完全に遮断している! さらに深海の超低温海水を強制冷却システムに取り込み、熱量の暴走をコンマ一秒の狂いもなく相殺しているんだ!』


 青白いプラズマの刃が、海底の強固な岩盤に音もなく接触する。

 物理的に『削る』のではない。分子レベルの結合を『剥離』させているのだ。

 摩擦による火花も、地響きのような振動も、一切生じない。ただ音もなく、岩盤がまるで熱したナイフに当てられたバターのように滑らかに溶け、剥がれ落ちていく。


「採掘を開始します!」

 玲奈の弾んだ声と共に、クラーケンの内部に設置された強力な吸引タービンが作動した。


 プラズマによって剥離された泥と、そこに大量に含まれるメタンハイドレートの塊、そしてレアアースの結晶が、クラーケンの強靭な口腔へと凄まじい勢いで吸い込まれていく。

 それらは内部で瞬時に粉砕・選別され、超電導素材で作られた太いアンビリカルケーブルを通り、一気に三千メートル上空の洋上プラットフォームの巨大タンクへと送り出されていく。


 極東の島国が渇望してやまない『絶対的なエネルギー』が、今まさに、無尽蔵に引き上げられ始めた瞬間だった。


『――洋上プラットフォームより報告! 第一から第十タンク、満杯になりました! ガス純度、99.8パーセント! 不純物の精製プロセスをスキップし、そのまま海底パイプラインへの送出が可能なレベルです!』


 コントロールルームに、プラットフォームの現場を指揮しているオペレーターからの、興奮で裏返った声が響き渡った。


「……信じられません」

 玲奈が、モニターにリアルタイムで表示される採掘量とコストの推移グラフを見て、呆然と呟いた。

「現在のペースで稼働し続けた場合、採掘コストは中東の原油プラントの十分の一以下。採掘速度は、世界最高峰の掘削船の百倍以上です……。これなら本当に、日本のエネルギーを完全に自給し、さらに世界へ輸出することができます」


「当然だ。五十数年先の未来の技術を現在に持ち込んだのだからな」


 私はレザーチェアから立ち上がり、表示された完璧な実証データを見つめて、冷酷に口角を上げた。


「データはすべて記録したな、玲奈」

「はい、ボス。偽造不可能な完全なブロックチェーン・ログとして保存しています」


「よし。これで『最強の餌』は完成した」


 私は窓の外に広がる東京の夜景を見下ろした。

 いまだ資源を海外に依存し、他国の顔色を窺いながら高い電気代を払い、ちっぽけなプライドにしがみついている日本政府の化石たち。


 彼らは「商業採掘など不可能だ」と私を嘲笑った。

 だが、この圧倒的な現実のデータを前にすれば、彼らは必ずひれ伏す。

 そして、国家の威信をかけて、この『黄金の海』を世界に向けて発表せざるを得なくなるのだ。


「来週、日本政府の高官と海洋学の権威どもを、あの洋上プラットフォームへ直接招待しろ。特等席で、彼らの常識が崩れ去る音を聞かせてやろう」

「了解いたしました、ボス。彼らの顔面が蒼白になるのが、今から楽しみです」


 深海の底で目を覚ました怪物は、音もなく泥を喰らい、黄金を吐き出し続けている。

 日本を『世界最大の資源大国』に作り変え、四大勢力を極東の狩り場へと引きずり込むための罠が、今、完璧な形で完成したのだった。

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