第19話 超大国の沈黙と、見えない死刑宣告
アメリカ合衆国バージニア州、ラングレー。
中央情報局(CIA)本部の地下深くにある極東作戦会議室は、まるで葬儀場のような重苦しい静寂と、冷や汗の匂いに包まれていた。
「……あり得ない。東京に潜入していた『チーム・アルファ』の三名が、白昼堂々、音もなく完全に消滅しただと?」
CIA極東担当のトップである高官が、血の気の引いた顔で報告書を握りしめ、震える声で呻いた。
彼らがイージス・イノベーションズのCEO、神盾宗一の家族を拉致するために送り込んだのは、軍の特殊部隊出身で数々の修羅場を潜り抜けてきた最高ランクの非公認工作員たちだった。
それが、代々木の公園でターゲットに接近した直後、三人の生体シグナルとGPSが『一瞬にして』ロストしたのだ。
「日本の警察に動きは? 銃撃戦の痕跡や、死体の発見報告は上がっているのか!?」
「それが……一切ありません。現地の協力者に現場を調べさせましたが、薬莢一つ、血痕の一滴すら残されていませんでした。まるで、最初からこの世界に存在していなかったかのように、完全に蒸発したとしか……」
報告する分析官の声も恐怖に震えていた。
公園の監視カメラの映像も、イージス社のハッカー(実際はヴィクトルの部隊)によって広範囲にわたり完全に掌握・削除されており、手掛かりは何一つ残されていない。
唯一残されていたのは、工作員たちの暗号回線にハッキングを通じて送られてきた、たった一文のテキストメッセージだけだった。
『――我が領域に踏み入る害虫は、二度と太陽の光を拝めないと思え。次に私の家族に触れようとするならば、その代償はアメリカという国家そのもので支払わせる』
それは、アメリカという世界最強の超大国に対する、たった一人の企業トップからの明確な死刑宣告だった。
高官はガタガタと震える手で頭を抱えた。
「……化け物め。我々は、一体どんな底知れぬ組織の尾を踏んでしまったんだ……?」
イージス社の技術と資金力は、すでに一国のそれを凌駕しつつある。だが、それ以上に恐ろしいのは、CIAの精鋭を白昼の東京で音もなく『処理』できる未知の軍事力と防諜網を、彼らが完全に隠し持っているという事実だ。
「長官……次のチームを派遣しますか?」
「莫迦者ッ!! これ以上迂闊に手を出せば、今度は我々の首が物理的に飛ぶぞ!! 当面は監視のみにとどめろ。イージス社への一切の物理的接触を禁ずる!!」
かくして、世界を裏で支配すると豪語していたアメリカの諜報機関は、極東の若き天才起業家が放った見えない恐怖の前に、完全に尻尾を巻いて沈黙したのだった。
* * *
同じ頃。日本の代々木公園。
私は自販機で買った冷たい麦茶のペットボトルを手に、木漏れ日の落ちるレジャーシートへと戻ってきた。
「遅かったね、宗一くん。サチ、もう待ちくたびれちゃったよー」
「すまない。少し自販機が混んでいてね」
私は何事もなかったかのように微笑み、サチコ用のマグカップに麦茶を注いだ。
先ほどまでの血生臭い処刑劇の余韻は、私の衣服にも、表情にも一切残っていない。ただの平和な休日の、良き父親の顔だ。
結衣が嬉しそうに麦茶を飲み、サチコが私の膝の上で無邪気に笑い声を上げる。
この温もり。この笑顔。
これさえ守り抜けるのなら、私はどんなに残酷な悪魔にでもなれる。四大勢力の連中が何万人死のうが、私の心には微塵の呵責も生まれない。
「さあ、サチ。お茶を飲んだら、向こうの広場で少し歩く練習をしようか」
私は愛娘を抱き上げ、青空を見上げた。
初戦は、私の完全な勝利だ。だが、これはまだ壮大な復讐劇のほんの小手調べに過ぎない。
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