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9話 巨オーガ討伐戦

 翌日、俺とルビナは懸賞金がかけられているという巨オーガの出没する鉱山にやってきた。

 鉱山といっても、トロッコなど採掘施設や鉱山町がちゃんと整備されているわけではなく、単に魔鉱石が含まれている岩山が存在する、というだけだ。


 そして魔力に集まるモンスターの性質から、この岩山はモンスターの住処……、天然のダンジョンになっているわけだ。

 ツルハシのみを持った鉱夫ではなく、わざわざ武装した冒険者が鉱石を掘りにくる理由はここにある。


 そして、鉱石を採掘するために素人によって無秩序に坑道が掘られ、元々あった洞窟が拡張され……、結果、この岩山の内側はすっかり蟻の巣のようになっている。

 俺たちは、その蟻の巣の入り口のひとつから鉱山へ入ると、奥へ奥へと進んでいた。


「気を抜くなよ……、ルビナ」

「はい」


 俺たちは周囲に注意しながら、鉱山の奥へ進んでいく。


「ギィッ!!」


 すると、前方に鈍い緑色の肌をしたゴブリンの一団が現れた。数は十匹ばかり、少々多いが一般的なゴブリンの群れだ。


「よし、行くぞ! ルビナ」

「はい、マスター」


 ゴブリンは、こちらを見つけると、手に持った棍棒を振り上げながら向かってきた。


 「ギギッ!」

 「ギギギーッ!」


「ルビナ、俺の魔術のあとに突っ込め! 《アーススピア》」


 地面を隆起させて槍状に変形させ、敵を串刺しにする術式だ。

 ゴブリンは、突然現れた鋭利な槍を避けることができず、腹に穴を空けられて絶命する。


 「ギィッ!?」


 突然のことにゴブリンたちは狼狽する。

 そこへ、長剣を振りかざしたルビナが突撃していった。


「《炎属性付与》――、たあぁっ!」


 彼女は素早く駆け寄ると、燃え盛る剣撃を先頭にいた一匹に浴びせかける。

 さらに返す刀で横薙ぎの一閃を放ち、二匹まとめて胴を薙ぎ払った。


「ギギィーッ!?」

「ギイイッ!!」

「ギェーッ」


 残りゴブリンたちは、真っ向から敵わないのを悟ると瞬時に散開した。そして、そのうちの一匹がルビナの死角から背後を狙うように回り込む。


「ギィッ!」


 だが、それを見逃す俺ではない。

 俺は、即座に土魔術を発動させる。


「《ストーンバレット》」

「ギャアッ」


 石礫が高速で飛来し、ゴブリンの頭部を砕いた。


「ルビナ、火力に頼らず立ち回りを考えるんだ!」

「はい! お手数をおかけしました、マスター」


 ルビナは、気を取り直して残るゴブリンたちに向き直った。


「ギィッ……」

「グゲゲッ!」


 ゴブリンたちは、ルビナを最大の脅威を見たようで、四方八方から彼女へ一斉に飛び掛かっていった。


 ルビナはそれを冷静に見極める。

 まずは正面から来たゴブリンに対して、あえて一歩踏み込んでその喉元に刃を突き立てた。


「ギャッ!!」


 そして、そのまま横に振り払うようにして、もう一匹を斬り伏せる。


 しかし、そこで左右からの挟み撃ちにあう。

 右からは棍棒が迫り、左には短剣が迫っていた。


 だが、ルビナは冷静に対処した。


「はあっ!」


 ルビナが気合とともに放った長剣の回転斬りが、左右のゴブリンの首を一瞬にして跳ね飛ばしたのだ。


「ふぅ……、いかがでしょうか、マスター」

「ああ、よくやった」


 俺が労いの言葉をかけると、ルビナが、こちらを見て微笑む。

 一見、冷静で無機質に見えるその表情だが、それが俺にとってとても可愛らしく見えた。



 ◆◆◆



 鉱山の奥へ進むにつれて、次第に空気が重くなっていくのを感じる。

 それは、魔力が濃くなっている証拠であり、強力なモンスターが好む空気でもある。


「こっちだな」


 魔力の濃い方へとしばらく歩くと、俺たちは開けた場所に出た。


 途端、漂ってくる濃密な血の香り…………。


 そこには大量のゴブリンや他のモンスターたちの死骸があった。

 見れば、そのどれもが異様な力で斬り裂かれている。


 しかも、中には人間の冒険者の装備と思われる残骸が混ざっている。


「どうやら、ここが例の巨オーガのねぐらみたいだな」

「はい」


 俺の言葉にルビナも同意する。



 その時だった。


「グルルル……」


 俺たちは背後から聞こえてきた声に反応し、振り返る。

 そこにいたのは、一際大きな体格をしたオーガだ。

 身長は三メートルを超えており、手にしている錆びついた大剣は数多の血に染まっていた。


「マスター。おそらくあの個体が今回のターゲットです」

「なるほど、こいつが例の厄介者ってことか」


 呟くや否や、巨オーガはその巨体に似合わぬ俊敏さでこちらへ向かってくる。

 そして、その手に持つ大剣を振りかぶった。


「来るぞ!」

「問題ありません」


 次の瞬間、ゴーレム少女は跳躍すると、天井近くからの強烈な一撃を見舞っていた。

 ズゴンッ! という衝突音とともに、長剣はオーガの側頭部を捉える。


 ――グゥオォッ!? 悲鳴を上げるオーガ。


 だが、それでも倒れない。

 それどころか、すぐさま反撃に転じてきた。

 猛烈な大剣の横薙ぎが、ルビナがいた空間を薙ぎ払う。


「くっ……」

「ルビナ!」


 俺の声を聞き、ゴーレム少女はすぐにその場から離れる。

 直後、オーガの大剣が大地を切り裂いた。


「さすがのパワー、そして防御力だな」


 オーガの頭骨は鋼鉄に匹敵する堅さだと言われるが、この巨大オーガの頑丈さはそれを超えるだろう。


「マスター、指示をお願いします」

「わかった。まずは相手の出方を見るぞ」


 俺はそう言うと呪文を唱える。


「《ストーンランス》!」


 無数の石槍が放たれるが、オーガはそれを避けることもせず、全てその身に受けた。

 ずいぶんと強靭な皮膚である。


「グクク……」

 オーガの表情には余裕が見えた。まるで効いていないようだ。


 サソリ型モンスターの甲殻であれば、『割れる』ということが期待できるが、強靭な皮膚で受け止められてしまえばそれも望み薄だろう。


「マスター。どうやら、敵の肉体強度は通常のモンスターとは比較にならないようです」

「よし、なら俺が魔法を連射して牽制する。ルビナは隙を見て攻撃してくれ」

「了解しました」


 俺は杖を構え、呪文の詠唱を始める。

 そして、連続で《ストーンアロー》を放った。


 ――グウウッ! 何発も放たれる石礫に鬱陶しそうに叫ぶオーガだったが、すぐに冷静になり、俺に向かって突進してきた。


 俺は魔法を中断し、地面を踏み砕きながら迫ってくる敵に対峙する。

 そして、杖を構えた。


「《アースウォール》」


 眼前に出現した土の壁がオーガの進行を阻害する。

 しかし、奴はそれに構わず、土壁へと突撃した。

 ドガンッ!!という凄まじい衝撃音が響き渡る。だが、壁の表面にヒビが入っただけで、壊れてはいない。


「ルビナ!」

「はい!」


 俺の指示に従い、ゴーレムの少女は走り出す。

 そして、立ち止まったオーガの、膝裏の柔らかい部位を狙ってすれ違いざまの一閃を放つ。


 ――ギィイッ!? 今度はしっかりとダメージを与えることができたらしい。

 オーガは苦悶の叫びを上げ、その場に膝をつく。

 すかさず俺は魔法を唱えた。


「《アースニードル》」


 オーガの足元の地面に亀裂が入り、そこから岩の棘が出現する。

 それは瞬時に成長し、倒れてくるオーガの身体に突き刺さった。


 ――ギイィイッ!? 自らの重さで突き刺されたことで、たまらず絶叫するオーガ。


 俺はさらに呪文を唱え、奴の頭上に岩塊を生み出した。


「《ロックボール》」


 岩球は落下し、オーガの脳天に激突する。

 しかし、奴はまだ倒せない。


「てやぁぁぁ!!」

 よろめくオーガの背後から、ルビナが飛びかかる。

 そして、勢いよく長剣を振るった。


「グルァアアッ!?」


 その斬撃は見事にオーガの右腕を斬り落とす。

 鮮血を撒き散らしながら転げ回るオーガ。錆びついた大剣が坑道を転がっていった。


「ルビナ、とどめだ!」

「はい!」


 ルビナは即座に跳躍すると、そのままオーガの口に火炎をまとった突きを叩き込んだ。

 ――ギャベェエエッ!? 断末魔の叫びをあげ、苦しそうにもがくオーガ。


「火力、全開……っ!」


 ルビナが長剣を握り直すと、マナが集結し、長剣を覆う火勢が増していく。


「ゴ、ゴフッ、オォォォ…………」


 いかに鋼鉄のごとき皮膚や骨をもつオーガといえど、喉や肺を内側から焼かれて無事で済むはずがない。巨オーガはしばらくもがいていたが、やがて後ろ向きに倒れ、痙攣して動かなくなった。


「ふぅ……、なんとかなったな」


 俺は額の汗を拭うと、息を整え、それから周囲を見渡す。

「とりあえず、これで依頼は完了だな」


「はい、お疲れ様でした」


 ルビナも笑顔を見せる。

 こうして俺たちは無事に鉱山の厄介者を倒したのだった。

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