22.錬金術士魔法生物を飼う
街を散策しながらの買い物は楽しかった。
まず下着と普段着。
それに荷物をいれるためのリュック。
ピピが村から持ってきたリュックはあったが、ボロボロだったので新調した。基本的に荷物があればピピが持つ。自分用に鞄を買うか迷ったんだが。やめた。
俺は手ぶらが好きなんだ。手ブラも好きだ。
装備関係は店に入っても鑑定だけする。
あとで作れるからな。
ただ革装備は現状自作できないので自分用に1つ買っておいた。
革のバックラー。
これで手引書も隠せる。
自炊することはないと思うので、食器はいらないと思ったが、マグカップだけ買っておいた。ピピはお揃いだと喜んでいたが、そもそもマグカップのデザインは大きさの違いこそあれどれも同じだ。
ちなみに食器はほとんどが木製だ。陶器もあるが木製の10倍近く値段が高い。ガラス製もあったが、こちらはさらに2倍くらい高い。
ローザンヌさんの家の食器はすべて陶器とガラスだったが、そこはさすがセレブといったところだ。
途中昼ご飯も食べた。たまたま入った食堂の食事はおいしく、定食みたいなもの2つで銅貨銭20枚。味的にも経済的にも食に困ることはなさそうだ。
しかし、何といっても一番面白かったのはぺットショップだ。
正しくは魔法生物屋だろうか。
サラマンダーがかわいかったので、値段だけでも確かめておこうと探してたらすぐに見つかった。
「い、いらっしゃいませー」
たまたま入ったその店はまじめそうなかわいい女の子が一人で店番していた。
いわゆる委員長タイプだ。接客は苦手なのか、ちょっとおどおどしているようにも見える。
入口入ってすぐにサラマンダーが何匹か革製のリード(?)に繋がれている。ゲージみたいなものはないようだ。
そこでわかったのだが、一口にサラマンダーといっても、大小さまざまな大きさがいる。入り口付近にいるくらいだから一番人気があるのだろう。
考えてみればどの家でも火は使うのだから、一家に一匹サラマンダーがいるのが普通なのかもしれない。それこそ小さいサラマンダーはライターみたいなものか。
繁々とサラマンダーを見てる俺を遠目にジーっとみている店番ちゃん。
そこは商品説明などして欲しいところだが、寄ってくる気配はない。
「すいません」
声をかけるとハッとして近づいてきた。
「は、はい。サ、サラマンダーでふ」
やっぱり接客は苦手なようだ。
「実はあまりよく知らないので、サラマンダーとか、あと他にもいれば魔法生物のこと教えて欲しいんですけど」
「魔法生物に興味がおありですか」
そういうと両手を前に組んで、目をキラキラさせながらググッと顔を近づけてきた。
「ち、近いです」
「あ、ああ、すいません。実はあたし魔法生物大好きで。それでここのお手伝いさせてもらってるんですけど、魔法生物は大好きなんですけど、なんか人は苦手っていうか、キライっていうか、だからあんまり売れなく、このままだとクビだとか言われてて、クビになっちゃうとこの子たちと離れるのは悲しいけど、みんなを飼うわけにもいかないし」
だいぶ起伏の激しい性格のようだ。おまけに人嫌いなら接客業は無理だろう。
彼女を落ち着かせていろいろ、というか聞いてもいないのに生態まで教えてもらった。
魔法生物はサラマンダー以外にも実はたくさんいる。この店で扱っているのはサラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフの4種類だけだ。
ただ、俺の想像通りだったのは、サラマンダーだけで、あとは予想の斜め上をいくものだった。
まずウンディーネ。これに一番近いのは海の妖精といわれているクリオネだ。ただし体長は小さいものでも5cmくらいあるから結構デカい。その分ちょっと気持ち悪い。
このウンディーネは水を大量に吸収し、それをある程度浄化したうえで排出する。いくら吸収しても元の大きさから変わらない。
川や湖でウンディーネに水を吸わせて家でその水使う。給水塔みたいなものだ。
指でつつけば水を吸ったり吐いたりしてくれる。どの家にもいるらしい。
ノームに至ってはカバだった。ミニカバだ。何に使うかというとこのカバはどんなに重い荷物も運べる。
ただ足が遅いので、一般的には馬車が使われる。ノームのすごいところは、荷物がどんなに重くなっても、歩く速度は変わらないので馬では曳けないくらい重いものなら役に立つ、らしいが、現状そんなものはほとんどない。
冒険者の間ではポーターの変わりに使っている者もいるので、まったく役立たず、というわけでもない。
シルフはハシビロコウだ。
このハシビロコウは口を開けると正面から向こう側が覗ける。後頭部に穴が開いているのだ。
口を開けて風を送ることができる、というか口を通して風を強めることができる。
大きなものになると風車も回せるらしい。金持ちは小さいシルフで髪や洗濯物を早く乾かすために使っている。
どの魔法生物も持ち主を認識して、ある程度持ち主の意思を汲む。そこは流石魔法生物といったところか。
この店では扱っていないがかなり希少なユニコーンやグリフォン、ドラゴンまでいるらしい。
「あたしいつかドラゴンに会いたいんですけど、ドラゴンは知性があって、ことばも理解するすごい種族で、もしかしたら人より上位な生物じゃないかとかいわれてて、あたしがドラゴンに飼われちゃうなとか首輪つけられて時々尻尾で叩かれて命令されてりとか、えへ、えへへ」
おい、ヨダレ垂れてるぞ。ドラゴンの話しになるとさらに暴走した。
これらの魔法生物はその生息地に行けば捕まえることもできるが、ほとんどは人の手で繁殖されている。
ただ専門知識と設備がないと繁殖は難しく、例えばサラマンダーの卵を孵すには1か月間高温の炎の中で温めないといけないとか、ウンディーネの赤ちゃんは小さくてすぐにどこかに流されてしまうとか。
とはいえ魔法生物についてはわかっていないことが多く、100年生きることもあれば、1か月で死んでしまうこともある。
何でも食べるが食べ物を与えなくても生き続けることもある。名前を付けた方が長生きする、などなど。ほんの子1時間で俺も随分詳しくなった。
「ノーム」
ピピはノームが気に入ったようだ。
サラマンダーは飼ってもいい。何かと使えるだろう。俺は火を強めることはできても火を生成することは今のところできない。
サラマンダーがいれば火炎放射器になりそうだ。
水は生成できるがウンディーネがいれば水筒いらずだ。ポーション作りも捗る。
ただウンディーネは水の中でしか生きられない。
流石に手引書には入らないだろうから、蓋つきの試験管でも用意するか。
ノームは
いらないんじゃないだろうか。
俺の荷物持ちはピピだ。
「ウンディーネはどれくらい水を蓄えられるんですか」
「え!え!買ってくれるんですか!あ、量ですか。一番小さい子でも一般家庭の1週間分くらいは大丈夫ですよ」
すごいなウンディーネ。
「あとあと魔法生物にも相性があるんで、もし買われるならこの子たちの目を見て選んでくださいね」
目ないよね、クリオネに。
そう思ってウンディーネの水槽を見てると1つの水槽のウンディーネがこちらに寄って来た。
うわ、見つめてくる、目はないけどなんか見つめてくる。
「わー、すごいです。中にはうちの子たちと全然相性合わなかったりする人もいるんですけど、なんか相性ぴったりって感じです!」
そういわれるとなんか急にかわいく感じてくるのが不思議だ。
「今でしたら専用の壺もお付けしますよ!」
こいつ急に接客スキル上げてきたな。
次にサラマンダーも選ぼうとしたら、こっちはみんなすごい見てくる。
そんななかで1匹だけ少し毛色の(毛はないが)違うサラマンダーがいた。
サラマンダーは多少の色の濃さに違いはあるが基本的にみんな赤い。だがこいつだけは黒かった。サラマンダーというより山椒魚だ。
「こいつもサラマンダーですよね」
「はい、サラマンダーであることは間違いないんですけど、なんかここに来た時からちょっと弱ってて」
サラマンダーたちはみんな愛嬌があるからある程度は売れるだろう。だがこいつはこのままでいるとここで死んでしまうか、下手したら捨てられそうだ。
まあ、火さえ噴いてくれればあとは俺が何とかできるしな。
「じゃあ、こいつで」
「え!いんですか。店長から売れないなら捨ててこいって言われてて、どうしようか困ってたんです」
ホッとしたように、嬉しそうに話す店番ちゃんが喜んでいるので良しとしよう。
「この子」
普通に連れてきた。体長30cmのミニカバを。いや確かにかわいいけどさ。
「お前ちゃんと世話できるんだろうな」
「ん」
「エサとかってどうすればいんですかね」
「はい、先ほどもお話ししましたが、この子たちは何でも食べます。
ウンディーネは自分のいるお水から栄養摂ってるみたいで何もあげなくていいみたいです。
サラマンダーは溶岩が好きって聞いたことありますけど、あげたことないんでわからないです。
ノームは何でも喜びますけど、いくらでも食べれるみたいで、うちのお店はとにかく余ったものはみんなノームに食べさせてます」
うむ、ゴミ箱いらずってことかな。
「全部でおいくらになりますか」
「はい、この大きさですと、サラマンダーが銀貨6枚、ウンディーネが銀貨6枚、ノームが銀貨8枚ですから全部で丁度金貨2枚です。」
ノーム一番高いのかよ!魔法生物だし、死なせなければ一生物だと考えるとこんなものか。
「これで、クビにならなくて済みそうです」
「あ、飼い主さんが亡くなったりした場合は売値の2割で引き取りもさせてもらってますので、よかったらご利用ください」
おい、最後に笑顔で縁起でもないこというなよ。
よし、最後にドワーフ村の支店に行こうか。
「ピピ、行くぞ」
「ん」
ってピピさん。ノームのこと背負うの?ノームって荷物運ぶ魔法生物でしょ。
脚の短いノームはピピのモーニングスターを重しにして首にしがみついている。
サラマンダーの名前はクロにした。ウンディーネはシロだ。
サラマンダーは黒いし、ウンディーネはほぼ透明だが白でいいだろう。
クロは肩に乗せておく。ウンディーネの壺は手で持つしかないか。
ピピに渡して落とされたら取り返しがつかない。
「ピピ、ノームの名前決めたのか?」
「ん、エクスカリバー」
ああ、カバだけに、っておい!この世界にも伝説の剣はあるのだろうか。




