八話 一筋の光さえ
どうしてこうなったのだろう?どうしたら良いのだろう?織本の去った後、残された2人は必死で考えた。しかし答は見つからない。そもそも彼らに落ち度は無いのだ。
「すまない咲。心、折れちまった。俺、どうしたら」
「私こそ、何もできなくて、見ていることしかできなくて」
「いや、良いんだそれは。そんなことは。もう良いんだ。すまない。本当にすまない。俺も何もできなかった。それどころかあいつに一瞬でも屈してしまった。俺はダメなやつだ」
本宮は一生懸命首を振る。
「そんなこと無い。そんなこと無いよ。最後の最後で言ってやったじゃない。私なんてただ耐えているだけ」
彼女は耐えることしかできない。しかし、芝田には一つできることがあった。
「なあ咲。一つ試してみても良いか?」
「なに?どんなこと?」
芝田は身体をくねらせくねらせどうにか本宮の側までたどり着いた。
「俺が、咲を縛っている縄を噛み切る」
「え、でも汚いよ?それでも良いの?」
彼女の足は汚物にまみれていた。それは彼も知っている。彼は覚悟を決めて頷いた。
「構わない。それで咲が救えるのなら。俺なんかどうなってもいい。それによ、さっき俺はお前のゲロ食わされたんだぜ?そんなの今更気にすんなよ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ありがとう。絶対に2人で逃げ出しましょうね」
「もちろんだ。当たり前だ。ここから抜け出して、2人でまた幸せに暮らそう」
「うん」
芝田が縄を噛み始める。固く、歯が痛んだ。
「固いな。どうしたものか」
「結び目は?」
そう言われて、結び目を見る。少し体制がキツいが、なんとかなりそうだった。
「そうか、なんで気がつかなかったんだろう」
「疲れてるのよ。私もだもの」
結び目を解きにかかる。時間をかけて。ゆっくりとしたものだったが、次第に緩んでいく。
「右足のは取れそうだぞ」
本宮が足に力を込める。
「やった!抜けたよ!」
「よし、じゃあ次だ。足で俺の身体を起こしてくれ」
本宮は言われたとおりに、足を芝田の胸にかける。芝田が起きあがろうと力を込める。少しずつ身体が浮いていく。椅子に身体をもたげ、休み休み起き上がった。そしてついに膝立ちのような状態になる。
「やったぞ、これで手に届く」
手にも同じ様に作業をする。ほどけた。
「これで他のは自分で解けるわ」
本宮は自分で自分の縄を解いていく。身体を捩りながら、ようやく全て解いた。
「よし、俺の縄も解いてくれ」
自由になった彼女は、一旦身体を伸ばした後、芝田の縄を解き始めた。もう簡単にできた。彼も伸びる。
「それじゃあ、ここから逃げ出すぞ」
「うん。ようやくだね」
ドアノブを慎重に回す。ガチャリと、小さな音を立てて開いた。
「開くぞ」
彼は僅かにドアを開け、外の様子を確認する。
「よし、あいつは寝てるみたいだ。行くぞ」
彼らは進んだ。音を立てないように、慎重に。息を殺して進んでいった。
ようやく、玄関までたどり着いた。改めてよく見ると、そのドアは薄いが、なんだか重々しく金属でできていた。まず芝田がドアに手をかける。その瞬間、芝田の身体は痙攣し、倒れてしまった。アラートがけたたましく鳴り響く。
「一さん?一体どうしたの?ねぇ?起きて!起きてよ!!あいつが来ちゃうよ!」
芝田は気絶してしまった。少し肉が焦げたような臭いがした。
「用心のためにそのドアには電流が流してあるんだよ」
いつの間にか、背後に織本が立っていた。
「いやっ!やめて!」
怯え、泣き叫ぶ彼女に、彼はスタンガンを押し付けた。




